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23.夜の読書

 夜の闇が濃くなり、シェラに就寝前の肌と髪の手入れをしてもらった私は、眠くなるまでの間ソファーで本を読むことにした。シェラはすでに下がっていて、部屋には一人だ。


 ソファーに座り、昼間に勧められた本を開く。前に読んだ本は上級者向けだったらしく、それに比べると今読んでいる本は絵がたくさん入っていて、言葉も分かりやすい。『王都の観光と文化』という、旅行者向けの薄い本だった。シェラはこれをガイドブックだと言っていた。


 それに目を通せば、おいしそうなお菓子やおしゃれな服屋、さらに王都の成り立ちまで分かる。


 もう少し落ち着いたら外に出てみたいわ。


 昼間に魔王との昼食の場でそういう話題が出ていたこともあって、ことさら興味を惹かれる。何より魔王に見られていないという安心から集中もできて、読書が楽しくなってきた。知っていることが増えると言う感覚は、たまらないものがある。

 食べ物紹介の次は王都の概要が載っているページだった。シェラが話してくれた歴史とつなぎながら読んでいく。


 へぇ、王都は守護障壁が張られているんだ。……魔王の力で!?


 すると、目を疑うような文を見つけて二度も読んでしまった。アイラディーテでは王城を包むように守護障壁が張られていて魔術を遮断していると教わったが、障壁を作ったのは何代も前にいた空間魔術が得意な人で、その維持には毎日何十人という術者が魔力を注いでいるという。だから、魔王一人の力で王都中を覆う守護障壁を維持しているというのは信じられないことだ。


 それ、天才なんていう話じゃないわ。


 そもそも空間魔術に適性がある人自体が珍しく、さらに国をまたぐほどの遠視ができて、空間移動もできる術者となれば間違いなく歴史に名を残す。しかも、魔王は魔力量も並みの術者の比ではなさそうだ。まさしく魔王の名にふさわしい力を持っているといえる。


 いつもの感じとかけ離れていて、実感がわかないわ……。


 そんな感想を抱きながら、次は王都の文化的建築について読んでいく。建築様式もところどころアイラディーテと違うから面白い。そう思いつつページをくっていると、ノックの音が聞こえて顔を上げた。


 シェラかと思ったが、聞こえた音の質と方向がドアではないことに気付く。それはドアとは反対の、窓から聞こえていた。もう一度ガラスを叩く音が聞こえ、出所がバルコニーへと続くガラス戸であることが分かると同時に、室内の灯りに照らされた人影に目を剥く。


「ちょっ、何してるんですか魔王様!?」


 慌てて本をローテーブルに置き、バルコニーへ駆けよると鍵を開けてドアを開いた。一瞬何かあったのかと肝が冷えたが、見る限りは元気そうだ。魔王は私と目が合うとにへらと笑って、許可もなしに部屋に入って来た。


「え、魔王様!? 水晶、えっ?」


 部屋を見回しても水晶は浮かんでいない。


 まさか私が拒否した腹いせに直接会いに来たの!?


「リリア、薄着だと風邪を引く。これを羽織るといい」


 混乱する頭でひとまずガラス戸を閉めていると、肩に何かをかけられた。突然肩に重みがかかってびっくりし、心臓が跳ねる。


「なっ……」


 言葉にならず、振り返ってかけられた物を見ればあたたかい素材の丈が長い上着だった。正直襟ぐりの開いたナイトドレスだと色々問題なので助かったけれど。


「なんで突然来たんですか。やっぱり、お昼の怒ったんですか?」


 警戒しつつ、上着に袖を通してしっかり着込む。魔王は終始ニコニコしていて、常に笑顔が多い魔王だけどなんだか違和感がある。


「俺がリリアに会いたくなったから来たんだ。だめ?」


 こてんと首を傾けて聞いてくる魔王がとても年上に思えない。そして同時に、魔王からはほんのりお酒の香りが漂って来た。


「あの、魔王様お酒をお召しに……?」

「ん? あぁ、飲みたい気分だったからね」


 やっぱり怒ってやけ酒したんじゃないの!?


 魔王はお酒を飲んだようだが泥酔という感じではなく、気分のいいほろ酔い状態のようだ。シェラに助けて欲しいがベルは寝室に置いてある。

 魔王との距離は手を伸ばせば届くぐらいで、じっと熱い視線を注がれていた。


「それで一人で飲んでたら、リリアが恋しくなったから来たんだ」


 ふふふと魔王は楽し気に笑っていて、お酒の勢いで思いついたままに行動したことが伝わって来た。


 これは一刻も早く部屋に戻ってもらうしかない。


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