188.祝賀会で友人と
ケヴェルンの町はまだ復興の最中であるため、今回の祝賀会は小規模なものとなった。出席者もこの戦いで中核になった人たちに絞っており、復興の目途が立てば国を挙げて勝利を祝うらしい。
ゼファル様は演説の時と同じような格式高い服を着ていて、王の顔になっていた。油断すると昼間の失態を思い出すので、表情を引き締める。
「皆、ご苦労だった。ここにいる誰一人がいなくても、勝利はなかった」
ゼファル様の声は大きくないが、よく通った。心に染み込んでくる柔らかい、落ち着いた声に包まれる。
「最前線で戦った者、指揮を執った者、戦いを裏で支えた者、住民の生活を守った者。ここにいない人々にも、改めて感謝を捧げる。今日はささやかな宴だが、疲れを癒して明日からも頑張ってほしい」
ゼファル様の簡単な挨拶が終われば歓談の時間となり、私のもとにはひっきりなしに挨拶が来ていた。高官や軍の指揮官など有力者が多く、中には見知った顔もある。人間研究部の時にやり取りがあった文官たちの多くが、反乱の際ゼファル様と共にケヴェルンに移ったという。
中には私に会えたことで人間に対する意識が変わり、過激派をやめた人までいた。涙交じりに感謝の言葉を繰り返し言われて面を食らってしまった。
その挨拶の波がひと段落したのを見計らってやってきたのが、スーとアーヤさんだった。
「リリア~! 大丈夫? けがはない?」
近づいてくるなり、私の体を確かめるように肩、腕、腰と触ってくるスー。心配をかけたのが申し訳なくて、「大丈夫、大丈夫」と繰り返した。首のところにできた傷は、ゼファル様によってすぐに治癒魔法で塞がれた。今は跡も残っていないからセーフだ。
「リリアさん、もう一度会えて本当によかったです」
「私も、二人に会えて嬉しいです」
戦いが終わった翌日、私が真っ先に行ったのが二人の安否確認だった。無事だと分かっていても、こうやって手を取り笑いあえて初めて本当に安心できた。
「二人は今何をしているんですか?」
立ち話も何なので、近くのソファーに座って話をする。向かいに二人が座り、シェラが気を利かせて料理をとりわけ持って来てくれた。始まってからずっと挨拶を受けていて何も食べていなかったから助かる。
「私とアーヤさんは、避難してきた人たちのサポートをしているの。帰ってきても家が壊れていたり、仕事がなくなっていたりするから」
「それと、立て直すついでに老朽化したところは区画整備をする案が出ているので、その下準備もですね」
「しっかり働いているのね……」
本当に休む間がないのは、彼女たちのような文官なのかもしれない。労いの気持ちを込めてそう声をかけたが、二人は微妙な表情で顔を合わせる。
「まあ、私たちにはこれくらいしかできませんから」
「戦えなかった分、できることをしようって決めたの」
その言葉に、ざわりと胸が波立つ。どこか負い目を感じる口調が、戦争という傷の大きさを浮きだたせる。それをかき消したくて、私は語気を強めた。
「そんなことない。二人が住民のことを守ってくれたから、サポートしてくれるから、ケヴェルンはここから立ち上がれるのよ。それは、軍人ではできないことだわ」
戦う軍人と、支える文官。そこに優劣はなく、役割の違いがあるだけだ。アイラディーテで王女教育をされた時に、そう教わった。机上の学びが、今は実感を伴っている。それに、ゼファル様も似たようなことを言っていた。
少しでも思いが伝わってほしいと、二人の顔をまっすぐ見つめれば、目を丸くされた。
「お心遣いありがとうございます。その言葉で気が楽になりました……しっかり、伝記に入れておきますね」
と、ニッコリ笑ったアーヤさん。これは後でメモするつもりだ。
「リリア……なんか威厳が出てきたね。陛下とくっついた効果?」
スーもスーで、「リリアじゃないみたい」と小さく拍手している。これはいらない心配だったかもしれない。ちょっと馬鹿らしくなって、わざとらしくむくれたけれど、すぐに噴き出してしまった。
三人同時に笑い出す。
その気心がしれた空気が心地よくて、料理をつまみながら他愛のない話をする。そうやってしばらく楽しい時間を過ごし、二人はいつまでもリリアを独占していたら悪いからと席を離れた。二人とは近いうちにまた会うつもりだし、なんなら仕事を手伝ってもいい。そんなことを思いながら二人に手を振り、一息つくと後ろから声をかけられた。
さっきから視線を感じていたから、狙いを定めていたのだろう。
「リリアちゃん、お姉さんとおいしいお酒を飲みましょ」
後ろから回り込んで私の左隣に座ったのは、上機嫌のヴァネッサ様で、ワイングラスを左手に持ち、空いた右腕を私の肩に回した。