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181.空からの助け

 消火するために水魔法を出し続けるゼファル様の背に向けられたのは、風の刃。


「逃げて!」


 無意識に体が動き、右手を伸ばして身を乗り出す。


「ばっ」


 後ろから焦った声が聞こえたと思ったら、首に痛みを感じた。お腹に回された腕が私を掴んで動けない。


「リリアっ」


 私の声に振り向いたゼファル様は血相を変えて、刃が届く寸前で結界を張った。だが、刃は結界に届く前に、横から飛んできた風の刃に相殺される。緩み、方向性を失った風が吹き荒れ思わず目を瞑る。


「なんだっ」


 喉もとの剣が離れたのを感じ、目を薄く開けて刃が飛んできた方向に顔を向けた。風の吹きすさぶ音の中に羽ばたきが聞こえ、天馬が見える。


 ヴァネッサ様?


 助けに来てくれたのかと希望の火が胸に灯る。風が収まると同時に天馬から飛び降りた人影は、鎧姿の黒髪で。予想外の人物に目を見開いた。


「ロウ!?」


「ズタボロの魔王様に、間抜けにも捕まっているリリアということは、そいつが第二王子か」


 抜き身の剣をこちらに向け、不敵に笑うロウは相変わらずの腹立つ言い方だ。だけど、ロウの頬には傷が増え、首に包帯を巻いていた。歩く動作がどこかぎこちなく、鎧の下にも怪我を負っているのだろう。


「誰だおま……」

「何で、えっ、何がどうなったの!?」


 ルーディッヒの言葉を遮って、私は沸き起こった疑問をそのままぶつける。ロウは王都の過激派の勢いを削ぐために、父親に代替わりの決戦を挑んだはずだ。


 生きているってことは勝ったの? でも怪我をしているようだし


 なぜ一人で乗り込んできたのかもわからない。大混乱の渦にいる私を見て、ロウは鼻で笑う。


「私が負けるとでも? 惚れてもいいんだぞ」

「うるさいわね!」


 こんな緊迫した状態だというのに、ロウは飄々としていた。


「貴様は誰だと言っている!」


 しびれを切らしたルーディッヒの声が割込み、ロウは視線を私の背後に滑らせた。その瞬間、瞳に喜色が滲む。獲物を見つけた愉悦だ。


「私はロウ・バスティン。リリアを助け、先祖の無念をここで晴らさせてもらう!」

「ロウ。リリアを助けるのは俺だ」


 ゼファル様が前に出ながら腰から剣を抜き、ロウと並び立つ。


「陛下はフラフラじゃないですか。大人しくなさったらどうです?」

「お前こそ足に力が入っていないようだが?」


 二人の視線が交差し、火花が散る。そして次の瞬間、動いたのはロウだった。間合いを詰め、飛び上がった。振りかざされた剣に全身の毛が立つ。


 えぇっ!?


「なっ」

「リリアっ」


 死の恐怖を感じた。叩きつけられる殺気は本物だ。剣が風を斬り、目の前で火花が散った。甲高い金属音が鼓膜をつんざき、音の衝撃に眩暈がする。


 私に向けられていた剣が、ロウの剣を受けていた。力の競り合いが続いたが、風魔法を察したロウが飛びずさった後を風の鎌が追いかける。


 風の鎌は速い。ロウは着地するなり横に跳び、入れ替わるようにゼファル様が前に出て自身の結界で鎌を受け止めた。動きが止まり、再び睨みあいになる。


「こいつがいてもお構いなしか。非情だな、あんた」

「私の剣がリリアに当たるはずがない」

「少しは躊躇しなさいよ!」


 さすがに抗議の声を上げるが、ロウは聞く耳を持たない。ルーディッヒは剣先を二人に向けると鼻で笑う。


「いつまで余裕ぶっていられるかな。ほら見ろ。城門が開くぞ」


 その言葉にハッとして鏡に顔を向ければ、北門の外も内も敵軍が押し寄せていた。


「王子二人の軍に加えて、王都の過激派、そして我がアイラディーテ軍。お前たちはここで滅ぶ運命なのさ」


 4つの鏡に映る戦場はどこも押され気味で、包囲している軍が前進を始め、じわじわと迫ってきていた。鼓動が早くなり、嫌な汗が浮かぶ。今ここでルーディッヒを退けたとしても、ケヴェルンが陥落すれば負けになる。

 緊張で唾を飲み込んだその刹那、北門が開き外の兵がなだれ込んだ。


「そんなっ」


 同時に地を揺らす太鼓の音が響く。考えずともわかる。全軍突撃だ。万を超える軍が一斉に砂煙を上げ迫る様は、濁流のよう。

 遠距離魔法が止み、周辺は不気味なほど静かになった。そこにルーディッヒの高笑いが響く。


「俺の勝ちだ!」


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ロウーーー!!(歓喜)姿が見えない間も、きっと無事でいるはずと信じてました!嬉しいーー!!(*゜∀゜*) 彼が来たことで、あの緊迫した空気が変わったように感じました。憎まれ口も自信たっぷりな態度も、…
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