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170.友人たちに会いたい

「リリア様。また顔が緩んでいますよ」

「えっ、やだ。恥ずかしい!」


 朝の支度をしているときに、シェラにそう指摘されて私は頬を両手で押さえる。「今までの頑張りが分かる手が好き」と言われたのを、ドレスの袖を通した時に思い出していたところだった。


「リリア様が幸せな顔をされると私も嬉しいので、もっと見せてほしいくらいです」


 昨日、ゼファル様と恋人になったと報告した時のシェラは、今まで見たことがないくらい驚いて、それから喜んでくれた。鏡に映るシェラは笑顔だ。


「でも、今は大変な時なのに……」


 恋愛にうつつを抜かしている場合じゃない。勢いでここまで来たけれど、落ち着いてくれば後ろめたさを感じてしまう。


「だからこそですよ。後悔のないように生きるんです」


 ぐっとコルセットを絞められた。コルセットの中には薄い金属の板が入っている。シェラの腰には短剣が下げられていて、言葉の重みが増す。


「そう、ね」


 視線を右の壁へと向ける。この部屋の隣にゼファル様がいる。近くにいた方が護衛しやすいのと、すぐに駆け付けられるという理由で、私の部屋は隣に用意された。


 後悔したくなくて、アイラディーテへ行き、ここまで来た。明日もわからない今だから、やりたいと思ったことは先送りにはできない。


「だったら、会いたい人たちがいるの」

「かしこまりました」


 私の要望を聞いたシェラは迅速に動いてくれた。安全を考えれば、会わないほうがいいのだろうけれど、自分の気持ちに正直でいることを決めたから、それに従う。ゼファル様も許可を出してくれて、昼過ぎに友人二人が来ることになった。




 警護の都合上、迎賓用の小部屋を使うことになり、私は準備を整えて待つ。時間が近づくと、子供のようにそわそわしてきた。そして、足音が聞こえ、扉が開く。


「リリア~!」


 出迎えようと立っていたところに、スーが抱き着いてきた。予想外の勢いだったけど、なんとか踏みとどまる。


「スー、アーヤさんも来てくれてありがとう」

「リリアが無事でよかったぁぁぁ!」

「お姿が見られて安心しました」

「私もです」


 抱き着くよりしがみつくのほうが正しいスーの背中を撫でつつ、アーヤさんと話をする。


「けど、なんで来ちゃったのよ。会えたのは嬉しいけど、てっきり安全なところにいると思ってたのに」


 体を離したスーの表情は眉が下がっていて、心配してくれているのだとわかる。


「まあ、いろいろあってね」


 二人に座るように促し、シェラがお茶を入れてくれる。丸テーブルに椅子は三脚。お菓子も用意した。常に張り詰めているだろうから、今日くらいは穏やかな気持ちになってほしい。

 香りのいい紅茶を一口飲んだアーヤさんが、ふぅと一息つく。


「この3人でまたお茶が飲めるなんて思ってもみませんでした。当たり前だった時間が、ずいぶん昔のように感じます」

「ほんと、少し前だったのにね」


 二人の声が、話す調子が人間研究部で働いていた頃に引き戻してくれる。改めて二人をよく見ると、思ったより元気そうで安心する。顔色も悪くないし、服もいつも通りの官服だ。


「スーとアーヤさんは、ここで何をしてるんですか?」


 城への抜け道を使うときに二人を見たけれど、それを言うわけにもいかないので知らない体で聞く。


「役所の手伝いです。非常時ですので、人手が足りなくて」

「避難した人たちのリストを作ったり、町の備蓄を確認したりかな」


 二人は落ち着いていて、忙しそうではあるけれど悲壮感はない。言うなれば、覚悟を決めた顔だ。ケヴェルンにいる人たちに、共通しているもの。


「そうなの……。その、聞いてもいいかしら」

「何?」


 スーがそう促し、アーヤさんは頷く。警戒する雰囲気はなくて、気安い友人の距離感が心地よい。


「二人はどうしてケヴェルンに来たんですか?」


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