表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

146/190

146.一縷の望み

「はぁ!? アイラディーテにって、お前が行ったところで戦争は止まらないぞ」

「止めてみせるわ!」


 間髪入れずにそう言い切れば、私の剣幕に押されてかロウは驚いた表情で口を閉じた。目に力を入れ、先程思いついたことをまとめ、言葉にしていく。


「私は、リリア・デグーリュ。伯爵家の娘で、第二王子の婚約者だったのよ。名目だけだったとはいえ、王や王妃、国の中枢とは面識がある。この反乱工作が第二王子の独断だった場合、まだ回避する道がある」


 話を聞くロウの顔は険しいものになり、頭の中で実現可能かを検討しているのだろう。


「……どうやって?」


 見極めるような鋭い視線を向けられ、私は唾を飲みこんだ。ここで認めてもらえないと、先には進めない。一呼吸入れて心を落ち着かせる。


「援軍を頼むわ」

「……援軍?」


 ロウは怪訝な顔をしている。一体どこに援軍なんて頼めるのかと言いたげで、私はここからが正念場だと両拳を握った。


「そう。あの馬鹿のせいで、魔族と人間が対立するなら、共通の敵を作ればいいのよ」

「まさか」


 頭の回転が早いロウは、私が何をしようか思い至ったらしい。信じがたいようだが、それは私も同じ。上手くいくかなんて、欠片の保証もない。だけど、やるしなかない。


「アイラディーテに、反乱軍を討つために援軍を出させる。現状、アイラディーテに魔族と戦争をして勝てる戦力はないわ。だから、構図を変えるの。魔族と人間の友好を乱そうとするものに対して一緒に戦う。そうすれば、人間は敵ではなく、味方になるわ」


 ロウは顎に手をやり、熟考しだした。沈黙が続く。それは審判が下る前のような緊張で、ロウの反応を固唾を飲んで待つ。

 そして視線を落としていたロウと再び目が合った時、彼の口角がニヤリと上がった。


「悪くない。外から援軍があれば、中の魔王軍と挟み撃ちにもできる。何より、やつらの目論見を狂わせられる。だが、可能か? アイラディーテがすでに軍勢を侵攻させているかもしれないぞ」

「そうなったら、元通りゼファル様のところへ行くだけだわ。守りの小部屋に入れば逃げられる」

「なるほど。奇抜な発想だが、それぐらいでないとこの状況は打破できないか」


 話すことで考えがさらに明確になっていく。何よりロウの同意が得られたことが、心強かった。そのロウはまた考え込むと、「だが」と声を落とす。


「問題は日数だな。開戦が一か月後と見積もっても、それまでに援軍が間に合うかどうか。ここからアイラディーテまでは、馬でどれだけ急いでも二週間はかかる」

「そこから説得して、軍備を整えて進軍しても……」

「一か月以上はかかるだろうな。ケヴェルンがすぐに落ちるとは思えないが」


 厳しい問題だ。援軍の交渉が長引けばそれだけ、ケヴェルンが、ゼファル様が危うくなる。それに、軍備を整え援軍が到着するまでの時間は、私には測れなかった。もし間に合わなかったらと、急速に不安が広がる。


 これが最善の方法? 他にもっといい方法はないの?


 胸のざわめきが収まらず、俯く私の耳に「ならば」と芯のある声が届く。


「行くぞ」


 その声に迷いはなく、軽々と馬に乗ったロウの手が、私へと伸びてきた。グズグズするなと目で急かされ、その手を取り鐙に足をかければ馬上に引き上げられる。鞍の持ち手を掴み、何とか体を安定させたと同時に腰を引き寄せられ、短く悲鳴を上げた。背中に固い鎧が当たる。


「飛ばすぞ。しっかり掴まっていろ」


 ロウは私を左手で抱え込み、右手だけで手綱を握った。方向転換をし、勢いよく走らせる。


「ちょっと! どこ!」


 揺れが激しく、抗議しようとすれば舌を噛みそうになったので黙るしかない。だけど、さっきまでと向かっている方向が違う気がして、顔だけ後ろに向ける。


「北の離宮だ。速度が命だからな。姫将軍の助力を仰ぐ」


 短い返答。ロウは前だけを見ていて、私は顔を前に戻した。


 ヴァネッサ様は、たしか中立だって……。協力してくれるかしら。


 全く知らない仲ではないけれど、ヴァネッサ様の行動は読めない。あの威風堂々とした、鋭い視線の前に立つと考えると、手に汗が滲む。


「リリア、お前が話せ」

「……わかった」


 私が、話す。そうよ、私がやらないと。協力してもらえるように、交渉する。


 怯んだ自分を叱咤して、深呼吸をした。


 ヴァネッサ様は人間は嫌いだとおっしゃったけど、話に筋が通っていれば耳を傾けてくれるわ。兄弟が争うことになったのだもの。何も思っていないわけがない……。


 北の城門を抜け、舗装された道を駆ける。軍勢とも、ケヴェルンとも、アイラディーテとも真逆の方向。私は覚悟を決め、持ち手を握る手に力をこめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 王と王妃は、予言が出る前なら割と確実にそのように動いてくれただろう。けど、勇者の母って予言が出た以上はわかんない。それでも、目がないわけではないのでやってみる価値はあると踏んだかな。 いざと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ