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14.魔王によって作られる流行

「リリア! 今日も美しいね。そのドレスは気に入った? この国の一流デザイナーに頼んだやつで、リリアが好きな落ち着いた色合いとデザインを今年の流行りにしたんだ」


 先ほどまで無人だったはずなのに、すぐ先に魔王が立っていた。彼お得意の空間魔術なんだろうけど、心臓に悪い。


「そ、そうなんですね」


 流行は作れる。


 魔王らしい発言で、そりゃ王族が身につけているものが最先端よねと妙に納得してしまった。だめだ、言葉の一つ一つの破壊力がすごすぎて、思考がやけ気味になっている。


 そしてそういう魔王の装いは、昨日よりもさらに装飾が豪華になっていて、これぞ王様という煌びやかなものだ。改めて、魔王様だったんだと実感する。暗めの赤を基調とした生地に、金糸の刺繍が見事で、肌と髪色によく合っていた。遅れて、私の赤いドレスは彼に合わせられたものだと気づく。


 魔王は私の側に近づくと、後ろに控えるシェラに視線を向けた。


「シェラ、リリアを美しく仕上げてくれてご苦労。広間で警護の配置についてくれ」


 魔王の指示を受け、シェラは「かしこまりました」と頭を下げて出て行く。


 え、魔王と二人? ちょっと、警護より今私を助けて!


 心の中で叫ぶも虚しく、シェラはドアの向こうへと消えていった。そして、ご機嫌な魔王はニコリと笑い、歌いだしそうな調子で話し出す。


「リリアと式典に出られるなんて、夢のようだよ。念じれば叶うって、本当なんだな」

「連れ去ったので、実力行使だと思います」


 反射的に心の声を出してしまい、慌てて口をつぐむ。どうも魔王相手だと、調子を狂わされるというか、タテマエで話すのもバカバカしくなってしまう。


「そうとも言うかな? もうすぐヒュリスが来るから、式典の流れを聞いて。リリアは俺の側にいるだけでいいよ。本当は見せたくないとも思うんだけど、そうすると面倒なことも起きそうだから仕方なくなんだ」


 悩ましいという表情をしているけれど、私はまったく共感できない。魔王が終始こんな調子だから、私も遠慮と言うものがなくなってしまう。だから、聞き逃していたことを質問することにした。


「そういえば、何の式典なんですか?」

「ん? 俺の在位5年を祝う式典」

「あ、そうなんですね。おめでとうございます」


 あちらの国では魔王の名も、代替わりしていることすら伝わっていなかった。礼儀としてお祝いの言葉を述べると、彼は誇らしそうに胸を張った。


「リリアがいたから頑張れたんだ。ありがとう」


 心の底からの感謝と題がつきそうな笑顔でお礼を言われても、全く身に覚えがないから喜べるはずがない。今、心の溝がさらに深まった。


 この人と二人とか会話にならないわ。早くヒュリス様来て……。


 そしてその願いが通じたのか、私が来たドアの向かい側にあるドアが開いてヒュリス様が姿を見せた。話が通じる人が来てくれると安心する。


「魔王様、なんで先に……あぁ、リリアさんが来てたんですね」


 その言葉だけでどういう状況だったのか理解できた。


 だけど、ヒュリス様納得しないで。というか何故私が来たことを……と疑問が浮かぶのと同時に答えにたどり着き、急いで魔王に顔を向けた。昨日聞けなかったことを、今問い詰めるしかない。


「あの……今も見ているんですか?」

「うん。同じ城の中だから、もっと見やすくなったよ。朝食をおいしそうに食べてくれて嬉しかった」

「うわぁ……」


 顔がひきつっているのがわかる。今まで微笑ばかり浮かべていたから、あまり使わない筋肉が驚いているんだろう。


「魔王様、ストーカー行為はおやめくださいといつも言っているでしょう」

「は? だから俺は理性も倫理もある大人だぞ。そんな低俗な真似はしない」

「理性と倫理ある大人は勝手に私生活を見たり、連れ去ったりしないんです」


 さすがヒュリス様わかっていらっしゃる!


 心の中でヒュリス様に拍手を送った。


 そして、この流れから式典の説明が始まり、私はなんとも言えない気持ちのまま式典に臨むのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王様以外の王族って、いたんだ まさか魔王様がドレス着て流行を広めたわけじゃなかろうし
[良い点] やっぱり魔王様は魔王様だった件w [一言] こんにちは。 せっかく12話目辺りで魔王様を見直したのに、このストーカー野郎め!w それはさておき、文化の違いが表現されているのが良いですね。…
2023/02/16 12:24 退会済み
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