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131.恋敵

 建国祭を前にした合同軍事演習が大詰めを迎え、その最終調整のためにゼファルは演習地となる平原を訪れていた。すでに駐屯地が作られ、テントが規則正しく並んでいる。最も大きなものが領将である王子らや将軍が集う場所となっていた。


 床を木材で作っており、調度品は一級品。城内と遜色ない造りだ。会議に使われる部屋には円卓が置かれ、一際大きく立派な椅子にゼファルは座っている。その横にロウが立っており、報告を受けていた。ロウは今回の軍事演習におけるとりまとめ役の一人であり、一週間ほど前から現地に来て最終確認をしていたのだ。


「食糧や武具も十分ある。各部隊の集まりはどうだ?」


 渡された書類をめくりながら、ゼファルはそう尋ねる。


「順調に集まっています。周辺を観光してから来ている者も多いので、ここにいる者は3分の1ほどですが、すでに手合わせをしたりと交流が進んでいるようです」

「まさに祭りだな」


 今も遠くから威勢のいい掛け声が聞こえていて、訓練場で兵士たちが体を動かしているようだった。


「報告は以上になります」

「見事な手腕だ、ロウ・バスティン。いくつか問題を聞いていたが、全て解決済みか」


 書類から顔を上げたゼファルとロウの視線が交わる。この平原に各部隊が集まりだした二週間前から部隊間での諍いが何度かあり、殺伐とした雰囲気となっていると報告を受けていたのだ。それが来てみれば、特に軋轢のあった東と西の兵士が肩を組んで笑いあっていたのだから驚きもする。


 ロウは「もったいなきお言葉」と一礼し、ゼファルに目で続きを促され口を開いた。


「兵士にとって強さが全てですので、来た初日に格の違いを見せつけたのと、後は酒があればなんとでもなります」


 顔色を変えずに淡々と答えるロウに、ゼファルはふと書類の中の記述を思い出し、紙をめくる。


「……しれっと経費で落とされている酒の量が増えている。しかもお前の領地の酒じゃないか」

「ちょうどここから我が領地が近かったので。それに、うちの酒はそこらのものより強く、少量で絶大な効果を発揮します。下手に飲んだ翌日の二日酔いは地獄ですよ」


 人の悪い笑みを浮かべたロウを見て、ゼファルは酒で親睦を深めたのだろうという認識を改めた。


「潰して二日酔いにして、同じ苦しみを味あわせたのか……やることがえぐいな」


 酒を介した楽しい時間よりも、酒に溺れて醜態を晒し翌日の苦しみを共有したほうが連帯感が増すこともある。


「人聞きが悪いですよ。その後食糧庫から酒をくすねる輩もいなくなったので、褒美を欲しいぐらいですが」


 力強い眼差しではっきりと物を言うロウに、相変わらずだなと椅子に背を預けた。仕事の話はここで終わりにし、穏やかではない目を向ける。警戒を含んでいるのは、ロウの顔が何かを言いたげだからだ。

 ゼファルは戸口を警備する兵士二人に人払いを命ずると、ため息をつきたいのを我慢してロウに顔を向けた。彼は右手を胸の前に当て騎士の模範的な美しい立ち方をしているのに、鋭い目つきと含みを感じさせる口角の上げ方が油断ならない相手だと告げている。もともと過激派ということで要注意人物だったが、今となっては恋敵として気の抜けない相手になった。


「それで、何が言いたい」


 魔王の顔をやめた途端、声に不機嫌さが混じる。


「王都への一時帰還をお許しください」

「……なぜ?」


 ロウはこの拠点に残って演習が終わるまで運営に携わるはずだった。演習が始まれば部隊の将としてその知略と武を見せる役割もある。責任感の強いロウからそのような願いが出るとは思わず、ゼファルが訝しく思い問えばすぐに返答が来る。


「父上から一度戻るよう命を受けまして」

「軍務卿が?」


 ゼファルのあずかり知らぬことであり、用件の見当もつかない。顎に手をやり、視線をロウから外すことなく思案する。実際この一週間のロウの働きで、拠点の運営は上手く回るようになったため抜けても大きな問題はなさそうだ。だが、為政者としてそう簡単に頷くわけにはいかない。


「用向きは何か聞いているのか」

「詳しくは……。ただ、重要な話があると」


 何とも曖昧であり、ゼファルが判断しかねていると「それに」とロウが続ける。


「リリアにも会いたいので」


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