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あれは……誰っ!?

あ、あ、あれは……誰!?



ようやく来れた学園。


朝、母方の生家から馬車で学園まで送って貰い、

その足で学園長に挨拶。


担任の先生との引き合わせの後、

先生による学園内の案内。


その他諸々の用事を終えてようやく

シモンをびっくりサプライズさせるべく

一年生の校舎へ向かうその途中、


わたしは中庭でとんでもないものを

目の当たりにした。


中庭のベンチに座り、

何やら書類関係を熱心に見つめている我が婚約者。


初めて見る制服姿……!


濃紺で詰襟の騎士服調の学園の男子学生服がとても凛々しい。

やっと見れたシモンの制服姿……


は、感動ものだがこの際置いておこう。


問題は隣に、

とっっっっても綺麗な女の子が座っている事!


サラサラのストロベリーブロンドに

輝くマスカットアイズ。


麗人とはこういう人かと感嘆の声を上げたくなる

ほどの超美人だった。


え?誰?


シモンとどのようなご関係?


くっつきそうな

近さで座ってない?


と、生垣の陰から遠くその様子を

覗いていたわたしの後ろで、

その謎を解いてくれる声が聞こえた。


「あら、()()()ご一緒よ。あのお二人」


「確かAクラスの首席と次席の方でしたわよね」


「お二人とも優秀なので入学早々に

生徒会入りされたのよね」


「ただのクラスメイトというけれど、

お似合いよねぇ。まさに美男美女で」


「生徒会執行部でもクラスでもいつも一緒におられるそうじゃない?」



なん……ですと?


いつも一緒ってどういう事かしら?


生徒会の仕事で?


え?どういう事?



わたしはちょっとどう判断してよいか分からず、


その時は結局シモンに声をかけられなかった。


授業開始のチャイムが鳴る。


わたしはトボトボとBクラスの教室に向かった。



AクラスとBクラスの間には

生徒が自由に使える談話室があり、

直接隣り合ってるわけではない。


今はこの距離になんだか隔たりを感じる……。


シモンとさっきの女の人とは

とても仲が良く見えた。


だって座る距離感がなんか違うのだ。


普通なら、

いくらクラスメイトとはいえど

もう少し離れるのでは?


なんて事を悶々と考えながら教室に入ると、

一人の女の子がわたしに声をかけてきた。



「……もしかして…病気でお休みになられていた、

イコリスの王女様でいらっしゃいます?」


「え?」


声をかけてきたその子は、

シルバーの髪に翡翠色の目をしたとても綺麗な

女生徒だった。


「あら、申し遅れました。

私はBクラスのクラス委員を務めさせて頂いております、アデリオール王国のコレット=ロリンス

と申します。父の爵位は伯爵ですわ」


その女生徒は

制服のスカートの裾を上げて

少し膝を折って簡易的な挨拶をしてくれた。


学園内ではカーテシーではなく、

このようなスタイルが

きちんとした挨拶と分類されるらしい。


わたしも慌ててそれを返す。


「はじめましてご機嫌よう。

イコリス王国の王女、イコリス=オ=リリ=ニコルです」


「やっぱり!見かけない顔だと思いましたの。

だからきっとお休みされていたニコル王女殿下だと」


彼女は美人なのにどこか愛嬌のある笑顔でわたしを見た。


なんだか親しみやすそうな雰囲気だ。


「どうか私の事はコレットとお呼び下さいませ」


「ではわたしの事はニコルと」


「まあ、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ」


わたしはなんだか嬉しくなった。


友だち第一号だったりする?


沈んでいた気持ちが少しだけ浮上。


そのまま午前中の授業をなんとか終え、


わたしはコレット様と……

同じ年頃の女の子と初めて一緒にランチを食べた。


その時に他のクラスメイト達も紹介して貰う。


我がBクラスの最高位の女生徒は

やはり王女であるわたしで、

男子ではトレリア帝国の公爵家の公子が最高位になるそうだ。


かといって基本、学園内は身分制は存在しない

自由制度を謳っているので、

爵位や敬称などでは呼ばないそうだ。


大体の地頭のレベルが同じせいか

みんな気さくで親しみやすい人ばかりだった。

このクラスなら楽しくやっていけそう。


でも、わたしには昼休みの間に

やらなければならない使命がある。


ランチを食べ終え、

ちょっと野暮用があるからと

コレット様と別れた。



シモンを捕まえて、

今日から学園に通ってるって伝えなきゃ。

一応アルノルトには伝えたけれど、

シモンには黙っててってお願いしたもんなぁ……。

こんな事なら伝言を頼めば良かった。


サプライズしたかったのに、

わたしがサプライズさせられたわ。


かといってどこに行けばシモンに会えるんだろう。


やっぱりAクラス?

それとも生徒会室?

考えながら歩いていると、

なんと!丁度前方にシモンがいる!


ん?何か探してる?


シモンはキョロキョロと辺りを見回して、

何かを探してる様子だった。



どうしたんだろう?

落とし物かな?

それとも誰かを探してる?


でもこれは声をかけるチャンスだ、

一緒に探し物を見つけてあげよう。


でもわたしがシモンに声をかけようとしたその時、


朝に見かけたピンク髪の彼女がシモンの

前に現れた!


わたしは思わず壁に身を隠してしまった。

そして屈んでちらりと向こうの様子を窺う。


考えてみれば何故わたしが隠れなくてはならないの?


むむむ…と思いながらも

こっそりとシモンとピンクの彼女の様子を見た。


執行部関係の仕事だろうか?

ピンクの彼女はシモンに書類を渡している。


もしかしてシモンが探していたのは

彼女?


すぐに書類に目を落とすシモンに、

ピンクの彼女は顔を近づけて一緒に書類を覗いた。


だから近いってぇ~!


くそぅ……なんかモヤモヤする……



と、ギリギリと二人の様子を

こっそり覗き見していたわたしの頭上から

聞き慣れない声が聞こえた。


「あんたもあの男のファンの一人か?」


「へ?」


見上げるとそこには

グレーの髪に黒い瞳を持つ、

長身の男子が立っていた。


「ファン……?」


「違うのか?

ファンだけどあの二人が似合いだから

悔しいんだろう?」


「うっ……やっぱり男子の目から見ても

お似合いに見えるわけね……。でもわたしは別にファンとかじゃないから」


ていうか()()()()というくらい、

既にシモンにファンが沢山いるのか。

いいなぁ。

ファンクラブがあるならわたしも入りたいな。


「じゃあなんで覗き見なんてしてたんだ?」


「これは……その、覗き見じゃなくて

なんというか……」


「まぁなんでもいいけどね、

見た事ない顔だけどこの校舎にいるって事は

一年生?」


「え、ええそうです。

Bクラスのイコリス=オ=リリ=ニコルです」


「え、じゃああんたが病欠してた王女さまか」


「あらわたしをご存知で?」


「まぁね、俺もBクラスだから」


「え?」


こんな人クラスにいたかしら?

いたらちょっと忘れられないような

インパクトのある人なんだけどな。


「ぷっ、今日は用事で午後からの登校になったからな」


「え!?凄い、どうしてわたしが考えた事がわかるの!?」


「いや、普通に声に出して喋ってたから」


「うそっ!?」


え?声に出てた?

そんなバカな……この人、わたしのこと騙そうと

してるのかしら?それとも心を読む能力者?


「騙そうとなんかしてないし、

心を読む能力者でもない」


「また心を読まれた!」


「ぶはっ!だから全部声に出てるんだって、

あんた、平常心を装おうとしてる時にボロを出す

タイプだな」



平常心を装う……?

あ、そうだシモン!


わたしは慌ててシモンの方を

再び覗き見る。


するとそこにシモンはもう居なかった。


「さっきの奴なら隣にいた女と連れ立ってどこかに

行ったよ」


「連れ立って……」


なんて事ない単語が心に刺さる。


「なんで心に刺さるんだよ?」


「またもう!人の心を読むのはやめて!」


「だから声に出てるんだって……

ぶっ、あんた、面白い奴だなぁ」


「……よく言われる気がする……」


「だろうな、もう午後の授業が始まる、

そろそろ行こう」


そう言ってグレーの彼は

わたしに手を差し出す。

立つように促しているのだろう。


「失礼、申し遅れた、トレリア帝国の

ダズ=ワーダーだ」


「え、じゃああなたがBクラスの男子最高位の公子さま?」


わたしは彼の手を借り、立ち上がる。


「まぁそうなるな、これからよろしく」


「こちらこそ」


そう言ってわたしはこのダズ=ワーダーと名乗った

男子と教室へ戻った。


しかし放課後には

一緒の馬車に乗せてもらわないと城に帰れないから

必ずシモンを捕まえないと。


午後からの授業は

魔力についての予備知識の授業だった。


この世界には魔力を持つ魔力保持者とそうでない者がいる。

というか、ほとんど魔力を保有してない人の方が多い。

昔は高魔力保持者が沢山いたらしいけど。

わたしは“先祖返り”とよく言われているくらい、

魔力量が多いらしい。


国土結界のための国境付近のポイントの管理は

わたしが病気で帰れない間は

お父さまがしていてくれたらしい。

お父さまも魔力保有量の多い、

高魔力保持者だから。



午後の授業もとりあえず無難に過ぎ、


わたしは登校1日目を終えた。



コレット様に別れを告げて

鞄を持って抜き足差し足で

Aクラスへと向かう。


そろ~りと教室の中を覗くと

シモンの姿はなかった。


え?もう帰っちゃった!?


でも教室には数名の生徒と教師が何やら

講義中だった。


その中にアルノルトを発見。


でも講義中に割って入って声をかけるのは

なんだか躊躇われる。


どうしようかと思っていたら

ふいにアルノルトと目が合った。


チャンス!


わたしはアルノルトに向かって

瞬きモールス信号で用件を伝える。


『シモンは?』


するとギョッとしながらも

アルノルトも瞬きモールス信号で

答えてくれた。


『お久しぶりです!元気なられて良かったですね!

シモン様なら所用のために生徒会長の所へ行かれました。

でも今日はすぐに戻ると言われてましたよ。だから

シモン様が戻られるまで少しお待ちください』


『了解』


それだけやりとりすると、

わたしはそっとAクラスの入り口付近から離れた。


待っていたらシモンと帰れるって事よね?


シモンてば

わたしが来てるの知ってるのかしら?


いやまさかね。


そんな事を考えながら歩いていると

ふと窓からある光景が目に入った。


中庭のベンチの所で、

シモンを含めた数名の男子生徒と

例のピンクの彼女がいたのだ。


多分、ベンチに座っているのは

上級生ね。

生徒会長と副会長とかかな?

女生徒はピンクさんだけ。


わたしは近くまで行き、

談話が終わり次第シモンを捕獲するべく

あちらからは見えにくい一画のベンチに腰を下ろした。


ここは木陰になっていて、

爽やかな風も吹いていて気持ちいい場所だった。


「ふぅ……」


初日だからかな、

今日はなんだかドッと疲れた。


初っ端からショッキングなものを

見せられたもんなぁ。


女の子だからびっくりしちゃったけど、

シモンにクラスや執行部を通しての

友だちが出来たというのはいい事だよね。

友だち、だよね?


でもうふふ。

わたしにもコレット様というお友だちが

出来ちゃったし。


2年間の学園生活……

楽しいものになればいいなぁ……


病み上がりで体力が落ちていたのか

精神的に思った以上に

疲れてしまっていたのか、

わたしはいつの間にかうとうとしてしまっていた。


ふわふわふわふわ心地いい。


風が前髪をさらさらとくすぐって気持ちいい。


気持…「ぎゃふんっ」


いきなり脳天に衝撃を感じた。


この衝撃……知ってる。わたしは知ってるぞ。


「っ……」


頭を押さえてながら頭上を見上げると


そこにはやはり脳天チョップの貴公子がいた。


「シ、シモン……っ」


「こんの……ポンコツがぁぁ……」


え?え?怒ってる?


なんで?なんで再会1秒で怒られてるの?


「こんな庭の片隅の一画で、

不用心に一人で寝てるんじゃねえっ!」


「ふぎゃっ」


そう言ってシモンはまたまた

わたしの脳天にチョップを入れた。


「いくら学園内といっても男がわんさかいるんだぞ!そんな所で隙だらけで居眠りなんかしてたら危ないだろっ!」


シ、シモン様、かなりのご立腹。


わざと寝てしまったわけでは……


でもそんなやりとりも久しぶりで

嬉しかったりして。


「えへへ、ゴメン」


「反省してないだろっ」


「ぶ」


そう言いながら今度は片手で

わたしの両頬を掴んだ。


「お前……ホントは朝から登校してたんだろ、なんでさっさと会いに来ないんだよっ」


「ふぇっ?はんへひっへふの?」


「ああ!?」


仕方ないでしょ、

頬を押さえられ変な喋り方に

なっちゃうんだから。


「はかは、はんへひっへふの?」


「ちっ、」


舌打ちですか、そうですか。


でもシモンの手から両頬は解放された。


わたしは改めて言い直す。


「なんでわたしが朝から来てたって

知ってるの?」


シモンは一瞬、押し黙ったが、

すぐに答えてくれた。


「昼休みに他の奴が話してるのが聞こえたんだよ……その…、Bクラスに…今まで居なかった

可愛い子が居たって……

それで慌ててBクラスに行っても居ないし、

探してもどこにも見つからないし」


「え?何?」


シモンにしては

歯切れの悪いゴニョゴニョした小声で

言ったのでわたしは聞き取れなかった。


「うるさいっ」


「なんで怒るのよ!」


「とにかく!今日から登校ならなんで事前に

知らせないんだよっ」


「だってサプライズしたくって」


「あ"?」


「ゴメンナサイ」


「ったく……俺は今日はどっと疲れた。

ほら、帰るぞ」


そう言ってシモンはわたしの鞄を取り上げる。


「え?もう生徒会のお仕事はいいの?

アルノルトは?」


「今日は早く帰らせて貰えるように頼んだんだ。

急ぎの用件はさっき伝えたし大丈夫だ。

アルノルトはもう馬車で待ってる」


「そっか。あ、鞄は自分で持つよ」


「一つも二つも一緒だ」


そう言ってシモンは自分の鞄と

わたしの鞄を持ったまま

スタスタと歩き出す。


「ふふふ」


病み上がりだからと気遣ってくれてるのね。

こういう何気ない優しさも

シモンの好きなところなんだ。


わたしはついスキップしそうになるのを堪え、

シモンの後について行った。



でもわたしは結局シモンに、


「あのピンクの髪の女生徒とは仲良いの?」


というそんな簡単な質問が何故か

出来なかった。



後から思えば、

何か予感めいたものを感じていたのかもしれない。





































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