16歳、入学直前
シモンの祖国、
モルトダーンから押しかけ従者(見習い)として
アルノルトがやって来てから瞬く間に月日は過ぎ、
わたしとシモンは
16歳になった。
来月にはとうとうフィルジリア上級学園に
入学する。
上級学園はフィルジリア共和国の最東端、
我がイコリスの国境と目と鼻の先に
学舎を構えている。
この王城からは
馬車で片道45分くらいで、
通おうと思えば通えるのでわたしとシモンは、
寮や別邸からではなく、
毎日イコリスから学園に通う事を選択した。
わたしはもちろん、
国土結界の維持があるので
イコリスから出て暮らすつもりはなかったのだが、
シモンもその選択をするとは意外だった。
シモンなら合理性を考えて寮に入りそうだもの。
まぁでも一緒に通えるのは嬉しいな。
上級学園入学にあたって、
入試試験などというものは存在しないが、
学力を測るというためのテストは受けた。
シモンはなんと首席という成績を収め、
入学式で『新入生の誓いの言葉』となるものを
述べる事になったのだ。
凄い!さすがはイコリスの期待の新星だ。
そのテストによりクラス分けも決まり、
シモンとアルノルト(アルノルトも通うのだ)は
Aクラス、残念ながらわたしは奮闘虚しくBクラスとなった。
でもCクラスまであるのだから、
わたしとしては頑張った方だと思う。
制服も届き、学用品の準備も万端。
あとは入学式を待つだけ……という時に
その報せは届いた。
わたしの母方の祖母が亡くなったのだ。
この国の王妃であったお母さまの生家は
他国の伯爵家で、
お父さまとお母さまは
フィルジリア上級学園で出会ったのだそうだ。
お母さまに一目惚れしたお父さまが
猛アプローチの末に見事お母さまのハートをゲットしたとか。
わたしはお父さまと共にすぐさま
お婆さまの葬儀に参列するために
イコリスを発った。
シモンには入学式までには必ず戻ると告げて。
でもわたしはシモンの元へ戻れなかった。
入学式前どころか、
それ以降も戻れなかった。
授業が始まったというのに
学園に通う事すら出来ない。
なぜなら、わたしは……
よりにもよって
酷い感染性の病に罹ってしまったのだ!
この生まれてから一度しか
風邪を引いた事のないわたしが。
腹痛でさえ数年に一度しか起こさない
このわたしが。
その病のせいで2ヶ月間も
お母さまの生家にご厄介になる事に
なってしまったのだ。
お父さまは政務があるので
感染していないと分かった時点で
国に帰ったけど。
うっ……
御不幸があったばかりなのに申し訳ない……。
感染性のある病なのと、
高熱を出して動かせないとの理由で
イコリスに戻る事も出来ず、
お母さまの生家で回復を待った。
その間、シモンから何度も手紙を貰った。
嬉しい!
体調を気遣い、
イコリスの様子を知らせてくれて、
最後には起きれるようになったら
予習だけはしておけ、
と有り難いひと言も添えての手紙だった。
この手紙はもちろん家宝にする。
毎回内容は大体同じだけれども
わたしはとても嬉しかった。
だってシモンと繋がってる感じがしたから。
もう2ヶ月もシモンに会えていない……。
寂しいな。
シモンに会いたいな。
……シモンも少しはわたしに会いたいと思ってくれているだろうか。
シモンと一緒に入学式に出たかったな。
入学式で『誓いの言葉』を述べるシモンの勇姿を
胸に刻みたかったな。
でも、明日はとうとうシモンに会える!
わたしはこちらに制服を送って貰い、
明日はいよいよここから学園に向かうのだ。
びっくりサプライズさせようと思って
シモンには何も伝えていない。
アルノルトにはこっそり
教えておいたけど。
ふふふ♪
久しぶりに会うシモンが
びっくり顔で迎えてくれるのが楽しみだ。
……でもこの時のわたしはまだ知らなかった。
びっくりサプライズさせられるのが
まさか自分の方だという事を。