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1-9. 謎のセカイ、再び

サブタイトルはポケモン映画のBGMタイトルをオマージュ。

        §



 気が付けば、辺り一面が真っ白だった。1DKの間取りである俺の新しい部屋は一体何処へ行ってしまったのだろうか。


 真っ白の原因はわからない。雪ではない。霧でもない。靄でもない。四方をレフ板にでも囲まれたみたいな、喩えるならばそんな真っ白さ加減。


 そんな真っ白な空間に、俺と、他にもうふたつの人影がある。


 女の子がふたり、こちらに――というか俺に向かって微笑んでいる。


  まるでどこかファンタジーめいた国のお姫様のようなドレスに身を包んだふたりは幽霊や亡霊の類いでは無さそうだが、それにしても綺麗だった。

 ある意味()()()のモノとは思えないくらいに綺麗なふたりだ。


 背格好はだいたい同じくらい。一般的な女性よりは少し背が高いくらいだろうか。とりあえず顔が小さくて、いわゆるモデル体型で、そして美人だった。


 強烈に目を引いたのは、ふたりのその髪。


 右側に立っている娘はふんわりとしたロングヘアー。


 もう片方、左側の娘はすらりとしたロングヘアー。


 顔も見える。


 右の娘は幾分か優しい顔立ち、左の娘は幾分か凜々しい顔立ちをしているものの、どちらも目鼻立ちもはっきりしていて、要するに美人だった。


「エイトさま?」


「え?」


 右側の娘が、何故か、俺の名前を呼んだ。教会の鐘の音のように透き通って染み渡るような声。聞き覚えのある声――のような気もするが、どうだろうか。


「私の声は聞こえていますか?」


「……はい」


 返事は、した方がいいのだろう。懇願するようにも聞こえる声音を無視するようなことはできなかったがやはり正解だったようで、訊ねてきた方の女の子が心底ほっとしたほうな顔をして見せた。柔らかい顔立ちに見える。


「私たちの姿は見えているか?」


「はい」


 今度は左側の娘が訊いてきた。どことなく王子様の雰囲気すらある少し低めの声に、頷いてから、答える。今度はふたりとも安心したような顔をした。


「良かったぁ……!」


「良くやったな」


「うん、ありがとうね」


 ふたりで何かをしていて、それが成功したような雰囲気は見せているが、こちらとしては何も解らない。


「ああ、すみません。今回のテストは大成功でした」


「……あ、ああ。そう、ですか。それは何より」


「最後のテストだったし、予行演習みたいなモノだったけど、無事にできたみたいだ」


「……なるほど」


 何がだ。受け入れるな、俺。だったら日頃の授業の内容も予習・復習なしで覚えてくれ。それくらいの理解力を持て。


「では、そろそろ」


「そう、だね。ちょっと名残惜しいけど……」


「すぐにまた会えるだろう?」


「それは、そうなんだけど」


 またふたりで話し始めた――と思ったらすぐにまたこちらに向き直って、微笑む。


「それではエイトさま、また」


「え、あ、は、ハイ」


 何が何だかよくわからない内に会話が終わる。


 ひとつ瞬きをする間に、さっきまでそこに立っていたはずのふたりの姿が、消える。


 さらにもうひとつ瞬きをすれば、世界は一転して真っ黒になった。





        §





「……?」


 スマホのアラームが鳴っている。画面を見る。午前6時45分。まだ1発目のアラーム。 まだ重たい脳みそと身体をたたき起こすように、腹筋を使って上体を起こす。そこからゆっくりと伸びをしながら立ち上がり、じっくりとアラームを切った。


 薄いカーテンを突き破るみたいに朝日が俺の部屋を照らしている。開けっぱなしにしていたとしても大差は無さそうだ。一気に開け放つ。良い天気。でも、部屋の空気は少し冷たかった。


 ――どうやら、夢、だったらしい。


 まただ。また俺は、先ほどまで見ていた夢を覚えている。


 先月くらいに見た夢とよく似た光景だった。気が付いたらまた俺は真っ白な空間に立っていて、同じようなことを呟いたところから始まる夢だった。


 そもそも夢を見ない、あるいは翌朝まで覚えていられないタイプの俺が、以前見たことを覚えているモノとそっくりな夢をもう一度見るなんて。そんなミラクルめいたことがあるだろうか。そういえば、何年か前にも似た様に、やたらと夢の中で見た景色とか話した内容を覚えていることがあった気もするが、あの時ほどではない。


 ただ――。


「あれは、……誰なんだ」


 今度は明確に、ヒトが出てきた。前回は会話こそできたが声の主までは確認することができなかったので、そこは大きな違いだったと思う。これが進歩かどうかは、また別問題だとも思うが。


 さて、問題はそのヒトのことだ。


 明らかに、昨日大成と優里亜先輩が言っていた『プラチナブロンドの美少女』という特徴に合致していたから、なおのこと奇妙だった。


 あそこまでよく似た夢なのだから、きっと前回の夢の声の主は今回の夢に現れてきたプラチナブロンドの子でいいのだろう。深く考える必要もないはずだ。どうせ夢なのだ、俺しか見ることのできない夢なのだから。


「……しかしなぁ」


 結局、交わした会話も覚えているから困る。


「『今回のテストは大成功でした』、って言われてもなぁ……」


 何なんだ、という話だ。自分の(あずか)り知らぬところで勝手にテストに参加させられてそれが成功でしたと言われて、「そうなんだ! やったね!」とハイファイブを交わせるほどに、俺は人間ができていない。でも、そうかといって「テストに協力したのだから、それ相応の対価を求めても良いだろう?」なんてことを言い放つ度胸がないのも確かだった。


 もちろんそもそも夢物語なのだから、どうでもいいことではあったが。


「最終試験だったとか、予行練習みたいなモノとかさぁ」


 ものすごくおぼろげな記憶を辿れば、たしかに前回の夢でもテストがどうとか言われたような気はしている。その時に『4月からよろしく』的なことを言われたような覚えも、辛うじて残っている。


 だとすると、この夢は『プラチナブロンドの美少女たち』に関係がある――――?


「いやいや。……いやいやいやいや」


 無いだろ、無い無い。そんな突拍子もないことがあってたまるか。いくらなんでもそんなことが起きるのはマンガとか小説とかアニメとか、そういうフィクションの世界だけだ。


「うん、無い。間違いない」


 自分に言い聞かせるように何度も唱える。


 そうしている間にふたつ目のアラームが作動した。スヌーズ機能は使っているが、以前スヌーズをオフにした後に思いっきり二度寝をするという()()()()の経験がある。予防線にはさらに予防線を張っておく()()だった。


 さて、いずれにしてもそろそろ支度を始めなくてはいけない。今日もまた大成たちといっしょに新入生の出迎えだ。あの野郎、自分の欲望に従順すぎて、今回の出迎えは毎日出席するという届けを出していやがった。当然のように、それには俺も蒼空も巻き添えだ。全く面倒なことをやらされたモノだ。せめてもの救いは、そこに望愛も加わってくれたことだろうか。


「……はぁ」


 朝からため息が出る。これ見よがしに元気な太陽が、よくわからない夢とこのため息をどこかに吹き飛ばしてくれることを期待するしかなかった。


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