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1-8. プラチナブロンド

「いやさ。さっき見た娘たちっていうのが、ふたりともちょっと珍しい感じの色の、めっちゃ綺麗な髪してたんだよ」


「へえ……。どんな?」


 ()()がそう訊くと、(たい)(せい)は少し悩み始める。


「何て言ったら良いんだろうな……。(はく)(はつ)ともちょっと違うんだよ、金髪みたいな銀髪っていうかさぁ……」


「……プラチナブロンドみたいな?」


 蒼空が答えの候補を出した。


「……あ? ……ああ、ああ! そうそれっ!」


「知らなかったろ、お前」


 蒼空に対する反応を見ればわかる。明らかに知らなかったヤツのそれだ。図星を突かれた大成は、それでも咳払いをして何の問題もない風を装った。


「……で、そんな感じの髪色の娘がふたりいたんだけど、もうひとりはその娘よりももうちょっと銀髪っぽい感じだったな」


「なるほどな。……たしかにそんな髪の子は、すぐそこら辺に居るような感じじゃないな」


「あと、制服は着てた」


「だったら新入生で確定か」


 中等部の時点でその生徒数は半端ではないが、そこまで珍しい色味であればある程度視界に入ったときに認識されそうなものだ。そして何より、今日入寮してきたということから内部進学組でないことも明らかだった。


 アリスト学園の生徒指導自体は厳しめではあるが、過度な染髪でなければある程度お目こぼしがされ、地毛であるならば当然お(とが)め無しだ。そんなウチの学校でもプラチナブロンド系の髪色はさすがにほとんど見たことはない。教員の中には居たはずだけれど、生徒では数名いれば良い方だろう。少なくとも俺は見た覚えがなかった。単純に他の生徒のことをあまり見ていないというだけの話だが。


「だろ? どっちもすっげえ綺麗な髪だったし、100年にひとりの美人と言っても過言じゃねえぞアレは。……ああ、そっか。もしかしたら芸能コースに入る子なのかもしれないな」


 ちなみに芸能コースとは高等部の芸術科にいくつかあるコースのひとつ。既にそういった業界に生きている、あるいはこれから生きていくのだろうという華やかな人たちがたくさんいる、俺みたいなヤツには縁もゆかりもなさそうなクラスが構成されているらしい。


「ん? もし芸能コースなら、寮もココじゃないような気がするんだが?」


「それもそうだ。あの(ふく)()殿(でん)だもんな」


「言い方よ」


「『伏魔殿』ってどういうこと?」


「……理由はいろいろあるんだよね」


 学校内では滅多に出てくるワードではない。()()がそう訊いてくるのも無理はなかった。


「寮の外観が城みたいだからとか、門番とか言われる守衛が常時目を光らせているだとか、……まぁ、何か変なウワサとかもいろいろあるらしいけど、詳しいことは()()()先輩とか蒼空とかが知ってるよ。……たぶん」


「へえ……」


 変なウワサという言い方にホラーめいたものでも感じたのか、望愛は少しだけ苦笑いを浮かべた。


 単純に俺がそういう話に疎いというか、興味を持たないようにしているというのもあるので、『らしい』というあやふやな言い方をした。


 ただ、芸術科に特有な授業で使われる教室は他の科の生徒が使うモノとは離れた場所にあるため、実際に芸術科所属の生徒を見られる機会はそれほど多くないからだ。音楽などの授業のコマ数が多い都合上、騒音などの問題を回避するためか。それとも、『悪い虫』などと言われるタイプの子から引き離すためなのだろうか。いずれにしてもその辺りの事情に関しては俺たちが分かることではない。


 そもそもな話、生徒数は多い、授業や講義の種類も多いと来て、学校生活の間で会話どころか顔すら合わせない生徒だっている。俺だって、中等部の3年間で全生徒の何パーセントの顔を見ただろうか。そもそも交友関係はかなり狭かったのもあって、まともな会話をした覚えがあるのは、それこそ大成と蒼空、そして優里亜先輩くらいのような気すらしてしまう。


「いやー、『100年にひとり』じゃ効かないな。何年だろうな……」


 俺が望愛に説明をしている間も、大成はずっと良さげな例え方を探していたらしい。


「もう面倒だから、nを自然数として『100n年にひとり』ってことにしておけよ」


「それが楽だな」


 意外にもノってきた。


「……まぁ、大成がそこまで熱心に言うんだから、間違いなく可愛いんだろうな」


「おぅ、そこだけはしっかり信用してくれて構わん」


 そこだけは、な。自覚してりゃ世話ねえよ。


「ところで、大成」と蒼空が切り出した。


「ぁん?」


「顔は見えたの?」


「いや? あんまり。一瞬だったし」


「あ、そう……」


 拍子抜けする蒼空。俺もため息をつく。大成は俺たちの反応を気にすることなく、今頃は真新しい自分の部屋で新生活に向けた作業をしているかもしれない『100n年にひとりの美人(ただしnは自然数とする)』とやらを妄想し続けていた。


「それにしても何かの特殊能力みたいだよな、お前のそのセンサー」


「照れるぜ」


「……前向きよね」


 俺が然程褒めるニュアンスでは言ってないことを、しっかりと蒼空は察してくれた。とりあえず何らかの有益なモノとして、大成の将来で役に立ってくれることをほんのり祈っておくことにした。

前向きは大事、黙示録はカイジ。

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