1-6. 友達が出来て何より、のはず
纓人たちが通う学校の説明がちょこっと入ります。
§
――私立アリスト学園。
なかなかにご大層な名前が付いているが、その大層な名前に違わず施設も大きい。
いわゆる中高一貫教育校だが、高等部からの中途入学も受け入れるスタイルになっている。内部進学組と高校編入組で学級を完全に区別する学校もあるが、アリスト学園は一部混合という形式を取る。編入組の成績優秀者は内部進学組と同じクラスになる可能性がある、というタイプだ。
全国規模で入学者を募るということもあり、中等部は20クラスで固定、高等部は年々増加傾向で今年は25クラスだ。この時点で破格のサイズ感だが、ひとクラスあたりの人数も破格だ。
中等部が1クラス50人なのに対して、高等部は1クラス200人。こんな規模感の学校はそうそうないだろう。
学科も普通科以外には文科・理数科と最初から文理が分離している学科だったり、体育科だったり、芸術科などもある。
基本的には単位制。もちろん奨学金制度も充実しているし、学生寮など福利厚生もばっちり。
一般的にはマンモス校とか、マスプロとか、そういう言われ方をする学校だ。
そんな学校なので、当然学生寮の数も多い。高等部の生徒向けには部屋の形式やサイズ、門限など規則の寛厳の差もそれぞれで全部で12の寮がある。それらすべてを合わせれば1万人ほどが暮らす計算だ。
ちなみに中等部の方は全寮制なので、ここにさらに3千人が加えられる。
家具などの比較的大きなモノについては事前に申請が必要だが、それらは既に利用者の部屋に搬入されているはず。俺たちがするのはその他の細々とした荷物を運ぶことだが、それら荷物の受け取りには申請書類と本人確認が必要である。
そういった細々とした手続きについて、既に中等部の寮からの引っ越しを通して俺たちにはノウハウがある。俺と蒼空の説明を、望愛は一生懸命に聞いてくれた。
「そういえば、俺たちと同じ寮なんだな」
「うん」
「『うん』って、知ってたのか?」
「知ってたというか……優里亜先輩に『寮ならココがイイから! 理由は纓人クン!』って言われてて」
「あぁ……」
そうか、納得。
だからあの人、やたらと俺が高等部から入る寮を猛烈に推薦してきたのか。何だか種明かしをされているような気分になる。もしかするとこの他にもそういう刷り込みや探りを入れていたシーンがあるのだろうか。
「部屋番号は?」
「えーっと、……1023号室」
「あ、そこたぶん私の部屋の隣だ」
「え、ホント?」
衝撃の展開。
「良かったぁ、安心したぁ……」
知り合いが隣人になるパターンは、この学校ではかなり珍しい方だと思う。何せ在籍人数が桁違いだ。同じクラスになったとしても、授業の選択次第では何らかの行事でない限り顔を合わせないパターンすらあると聞くくらいだ。住まいについても、同じ寮になること自体がかなりの低確率なのに、隣同士になるとはさらにレアケースだ。
「ラッキーだったな」
「うんっ」
嬉しそうに頷く望愛を見ながら、俺は寮監から望愛の荷物を一通り受け取った。
「わ、思ってたよりすっごくキレイ……!」
「でしょ。ウチの学校を舐めたらダメだよ」
楽しそうに自室に入っていく望愛と、それに付きそう蒼空。
思ったより早くふたりが馴染んでくれているようで何より。
「あれ? エイちゃん、何で入ってこないの?」
「エ?」
こちらを振り返った望愛がさらりと訊いてきて、玄関先で壁に背を預けていた俺の声は物の見事に裏返った。
「いやぁ……、その、何と言いますか。女の子の部屋だし」
「あれ? ウチは別に、時間さえ守ればその辺自由になってるでしょ?」
「うっ……」
蒼空の攻撃。たしかに、その通りです。
「昔はしょっちゅうウチに来てたし、私の部屋にも何回も入ってたでしょ?」
「ぅぐっ」
望愛の攻撃。まさしく、その通りです。
ああ、たしかにそうだけど。そうだけども。
昔と今とは、さすがに状況が違うというか、何というか。
返す言葉を探そうと思ったところで、蒼空が望愛の方を見てニヤリと笑った。
「へー、……やっぱりそういう関係なんだ」
なぜ『やっぱり』にそこまでアクセントを置いた。いや、何も疚しい事なんてないんだけど。――無いんだけども。
「えっ!? ち、違っ、べ、別に私はそういう意味で言ったわけじゃなくて……!」
「ハイハイ、ごちそーさま。そもそも自称陰キャさんの小学生時代にそんなことが起きてるなんて思ってないから安心して」
本当だろうか。いや、ここは蒼空を信用するしかないのだが。
「じゃあ、家具とかの位置調整とかやっちゃおうよ」
「お、おう。そうだな」
さらりと受け流すように作業に取りかかった蒼空。男手はひとつ。一応パワー系の仕事を期待はされているだろう。一応動きやすい恰好はしてきている。しっかりやらないと。
こんな学校あったら、ちょっと入ってみたい。