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1-5. 嘘はついていない、はず

嘘は吐いていない。

それはつまり、本当の事を言っているとも限らない。

 (たい)(せい)は仁王立ちで、大袈裟に顔をゆがめて言ってくる。


(えい)()くん。キミはまさか、このオレに、3年間もの間、ウソをついていたのかい?」


「何を言ってるんだ?」


 口調もまわりくどい。こういうときの大成はいつもの数倍面倒だ。


 しかし、コイツにウソを吐いたことなんて――そりゃあ無いわけではないが、3年間もぶち抜きで吐き続けたモノはさすがに無いと思うのだが。


「キミは以前、オレに『彼女も友達もいない』って話をしてくれたと思ったが、あれはウソだったのかい?」


「ああ……」


 ――なるほど、そういうことか。


「幼なじみなんだよ」


「ならウソは言ってないね、一応」


「だろ?」


 大成の反論が入り込む余地を、蒼空がきっちりと潰してくれた。物凄く小さな声で『ホントのことも言ってなさそうだけど』と呟いたのが聞こえてしまったが、今は無視しておこう。話を逸らすためにも、ここは蒼空に望愛のことを紹介しておくに限る。


「それで? 纓人の幼なじみなこの人は?」


「この娘は()(むら)()()。その……ウチの母親同士、仲が良かったんだ」


「あ、えーっと……」


 一瞬だけ望愛が怯んだように見えた。ともすれば無感情にも思えなくはない表情と声色の()()に圧されたのだろうか。たしかにそういう部分の起伏はないが、実際に何度か話してみるとそんなこともないのだが――。


「私は(なか)()蒼空」とまで言いながら、蒼空は自分のスマホの画面を望愛に見せた。「こうやって書いて、ソラね。ソラって呼んでくれたら嬉しい」


「蒼空、ちゃん……?」


「私も望愛って呼んでいい?」


「うん!」


 無事に蒼空との自己紹介が済んだようで一安心。そのままトークアプリのID交換までさくっと進んだようだ。


 望愛はそこまで人見知りをするタイプではないが、圧しに強いわけでもないところも昔から変わっていないらしい。まず蒼空を味方に付けるという部分で、俺のミッションは無事コンプリートとなった。


 俺が見ていることに気が付いたのか、蒼空は無表情にちょっとだけ塩を振ったみたいなくらいの笑顔でピースサインをしてきた。それはそれは、おめでとうございます。


「なあ、纓人くん」


「あ、こいつは(うえ)(さと)大成っていうバカで、蒼空のいとこ」


「なあ、纓人くん」


「……おう」


 どうあっても仕切り直したいらしい。蔑称(ニックネーム)を付けつつ望愛に名前を紹介してやったのだが、それではダメなようだ。


 実はさっきから大成が、望愛に対して何かしらの――恐らくは、あまりよろしくない類いの――アピールをしようとしていたことは知っている。そして、そのすべてがきっちりと蒼空に防御壁を張られたせいで完全に失敗に終わっていたことも、視界の端でしっかりと捉えされてもらっていた。ありがたい。


「『彼女ではない』ということは百歩……、否、一万歩ほど譲って真実だとしよう」


「だから、そうだっつってんだろ」


 紛れもない事実だというのに。


「でも、『かわいい幼なじみがいる』ってことも黙ってたよねえ? それも立派にウソじゃないかい?」


「いやお前、それ、だいたいブーメランになってるからな?」


 それを言うなら、蒼空はどうなるんだよ、と。お前みたいなキャラでかわいいいとこがいて、そのセリフを吐いているのだとすれば、かなり挑戦的な態度だと思うのだが。感情の起伏は大きくないが返ってそれがイイという類いの話を、風のウワサとして俺でも拝聴したことがあるレベルだ。


 ――ああほら、言わんこっちゃない。大成は一度チラッとでもイイから、俺たちと同じように新入生サポートのために来ているその辺の男子連中を見た方がいいと思う。説明するのも面倒なくらいに攻撃的な視線を大成に向けている。俺の目には彼らが血の涙を流しているようにも見えるくらいだ。近くに優里亜先輩も居るから、今自然と俺たちは目立ってしまっているんだぞ。


「ハイハイ、痴話喧嘩はそこまでねー」


 俺に詰め寄ってくる大成との間にぐいっと入ってくる優里亜先輩。


「では蒼空チャンと纓人クンは望愛のサポート頼むねっ! よろしく~」


「え」


「生徒会命令です」


 このタイミングでまさかの強権発動。俺はもちろん、大成も文句は言えなくなった。


「キミはワタシといっしょに、やってくる新入生をお迎えしましょうっ」


「う、うっス」


 そして急に緊張する大成。女の子耐性があるのか無いのか、よくわからないヤツだ。もしやレベルが高すぎる美人には軽く出られない()()だったか。あるいは、()()なのか。


「とりあえず、望愛の荷物取りに行こっか」


「あ、うん」


「こっちな」


「ありがとう、ふたりとも」


 俺たちの去り際、先輩は俺たちに見えようにぐっと力強いサムズアップをしてくれた。あの一瞬で上郷大成というヤツの危険性に気付いたのだろうか。さすがは先輩である。


纓人クン、君はそう思っているとしてもだよ。

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