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4-11. これがきっとこれからの日常



        §



「うわぁ……!」


 目を輝かせるカリーナ。


「……広いな」


 若干引き気味のセーラ。


「ねえ、エイちゃん」


「ん?」


「これ、ホントに全部本屋さんってこと?」


「紛れもなく」


「……信じられない」


 いろいろと俺に確認を取った上で呆然とする()()


 ――というか、この流れも入寮以来3度目だろうか。いわゆる天丼とか言われるヤツか。


 やってきたのは書籍販売部。さっきも言ったとおり、日用品販売エリアのすぐ下、地下フロアにある。面積は日用品エリアと同じ。そこに蔵書が――いったい何冊あるんだろう。俺の調べが甘いせいかもしれないが、どこにもそういう情報は無いと思う。もしバイト先がここになったときには、機会があれば訊いてみたいところだ。


「購買に本売り場があるのもスゴいけど、大きさもホントにスゴい……」


 ふつうの高校なら、どうだろう。飲み物と軽食と、あとは筆記用具とかそれくらいが相場だろうか。他の高校に足を運んだことがないせいで、想像で語るしかない。


「書籍を売るスペースとしては、ここは広いのですか?」


「もう……かなり広いです。何倍とか言い表せないくらいです」


「ノアさんがそう言うのでしたら、間違いなく広いのでしょうね……」


 カリーナが訊いてきて、どうにか絞り出すように望愛が答える。カリーナも納得したらしい。


 当然だが彼女たちには、こちらの本屋がどれほどのモノかという基準が無い。こちらの住民としては当たり前のことでも、彼女たちにとってはそうではない。ただ、留学生であるという予備知識――建前ではあるが――があるおかげで、望愛が説明をするときに配慮してくれていてとても助かる。俺が話すと、()()()()のせいで余計なことを言ってしまいそうだ。


「それにしても、学校内で本が買えるというのは素晴らしいな。他の学校もそうなのか?」


 セーラは俺に訊いてきた。


「いや、高校くらいだとあまり聞いたことはないかな。大学……って言って通じるのか?」


「それくらいなら分かるぞ。これでもある程度必要な知識は揃えているつもりだ」


 小声で訊けば自信ありげに返ってくる。なら良かった。話は早い。


「大学とか、もう少し上の教育施設になら書店はあった気がする。メインで扱われるのはあくまでも教科書だけど、小説とか雑誌とかも扱っていたりするらしい」


「なるほどな」


 それにしても、ここまで広いところはそう無いだろうけど。


「これもまたアリスト学園らしさということか」


「それも、もちろんある」


「少し含みがある言い方だな。他にも何か理由があるのか?」


 あえてわざとらしい言い方をしてみたが、セーラは直ぐさま拾ってくれた。


「一応は、ある……らしい。あくまでも人伝に聞いた話だから、そこまで信用しないでほしいんだけど……」


 念のため責任逃れの言い訳めいたモノを挟んで、俺は説明を続けた。


「ここの学校って、……なんというか、ちょっと『下界』から離れているだろ?」


「……下界って」


「仕方ないだろ、イイ言い方が思い付かなかったんだ」


 案の定、()()にツッコまれる。


「だからって、(たい)(せい)が言ってた言い方することないでしょ」


「思い付かなかった、って言っただろ」


 少々の墓穴を掘ったみたいだが、今は無理矢理気にしないことにする。


「で、寮生がほとんどだから、日用品の買い物も気軽にできないと困るってことで、購買部を充実させようってことでこういう風になっているらしい。もちろん本とかもその一環で、当然勉学で使われるだろう書籍が優先されて売られているから参考書はもちろんだけど、ちょっと特殊な専門書も多い。でも、娯楽も必要ってことでマンガとか雑誌の取り扱いもある……って話」


「そういうことだったんだぁ……」


 感心してくれる望愛。カリーナとセーラも頷きながら聞いてくれていた。


 ただ、ひとりだけ。自分の記憶を辿るようにその大きな目をくるくると動かしていた蒼空は、どこか腑に落ちないところがあったらしく。


「それ、私も知らなかったんだけど。どこ由来の情報?」


「……あー」


 今朝方出席した学内バイト説明会でもらった資料に書いてあった――とは、何となく言いづらかった。


「……去年学校祭準備委員のときに()()()先輩から訊いた」


「生徒会役員情報なら確かか」


「……まぁ、そうな」


 どうしよう。ある程度信用のおける情報筋を自分の知り合いから探して、いちばんマシだったのが一応学内でも重要な役割を担っているはずの優里亜先輩だったから名前を出してみたのだが。これ、裏取りとかされるとマズいかもしれない。


 でも、まぁ、たぶん先輩も知ってるだろう。


「じゃあ、お料理本コーナーへの案内はエイちゃんに任せていいんだよね?」


「もちろん」


 至る所に案内板みたいなのはあるが、今回はメインターゲットが決まっているからさっさとそこに向かうのがベストだろう。


 ただし――。


「そういえば、望愛には間違いなく朗報なんだけど」


「え、なに?」


「……雑貨コーナーもあるからな」


「えっ!?」


 嬉々とした声。嬉々とした表情。


 意外にもよく通った歓声のせいで、周囲の視線が(こと)(さら)にこち

らへ向けられた。





    〇




 カリーナは3冊、セーラも1冊、自分が気に入った本を見つけられたらしい。望愛まで2冊買っていたのは、あくまでもふたりが買っていた流れに乗ったということにしておこう。


 目的のブツを手に入れた俺たちは、結局夕飯の時間帯くらいまでを書籍エリアで過ごすことになった。そりゃそうだ。じっくりと見ようとすれば余裕で1日は使えるくらいだから、その程度の時間くらいは簡単に融かすことができるのだ。




 なお、夕飯時には優里亜先輩と大成も合流し、昨日と同じメンバーでテーブルを囲むことになった。


 購買部の紹介をしながらいろいろと見て回ったという話をすれば、当然のように大成は妬いた。


「どうしてオレを呼ばなかった!」


 大成はそう言ったが、もちろん新入生サポートをするから呼ばなかったことを告げれば、少しだけトーンダウン。それでも文句を言おうとしていたところで、「『かわいい女の子探すため』とか言っていたのはどこの誰だっけ?」と蒼空に切り捨てられ、敢え無く撃沈していた。


 大成が本懐を遂げたかどうかは、――とくに興味もないので訊かないことにした。

 

これにて第4章全篇公開完了です。

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