4-10. 何事も勉強
……サブタイトル、良いのが思い付かなかったのでどこかで変えるかも。
「セーラちゃんだって、勉強したいって言ってたでしょー」
「私は、カリーナが『勉強したいよね』って訊いてきたからそう答えただけだ」
「もー、素直じゃないんだから」
そのままセーラに主導権を取られるかと思いきや、今回はそうでもないようだ。むしろカリーナは元通りになり、セーラは俺たちから視線を外した。どうやら少し話を盛っていたのはセーラの方らしい。ちょっと意外。口調は男勝りっぽいところがあるセーラだが、案外こういうところもあるのか。
「昨日は少ししか訊けてなかったから訊くんですけど、ふたりとも料理の知識とかはどれくらいあるんですか? 誰かに教わったことがあるとか、自分で調べたことがあるとか……」
「私は、そこまででは……」
「私も全く触れてないわけではないが……、望愛たちの足下にも及ばないな」
「……というと、家事経験自体が」
「恥ずかしながら、あまり無くて……」
「私もほとんど無いな……」
「そんな! 恥ずかしがる必要なんて何もないです!」
縮こまりそうになるふたりを望愛がフォローする。
「みんな最初はそうですし、私もそうでしたし……。だから全然そんなことないんです!」
「望愛、何かスゴい力入ってる」
その様子を見てぽやーっと蒼空が呟いた。
「アイツ、けっこうそういうところあるよ。大人しそうにみえるかもしれないけど」
「そうなんだ」
「たぶんだけど、今後そこそこ見る機会もあると思う」
「へえ」
興味があるのかないのか、今ひとつ冴えない反応を返される。まぁいい。本当に関心が無ければ訊いてすら来ないのだろうし、そこそこ予想通りの答えだったのだろうと自分の中で結論付けることにする。
「ノアさんは、どうやってそういった知識を身につけていったのですか?」
「ネットでもレシピとかコツとか書いてあるところはたくさんありますし、私も参考にすることは多いですけど、本で読んだ知識の方が多いと思います」
「本、ですか?」
蒼空とは正反対、カリーナは自分の知らないひとつひとつの知識をしっかりと吸収しようとしているのがよくわかる。
「小さい頃から母に教わりながら勉強してきたんですけど、母の知識は基本的に本からのモノだったので、私もそれに倣って本から習得してきた感じですね」
「ちなみにですけれど、ノアさんは今そういう本はお持ちなんですか?」
「何冊か家から持ってきていますが……、さすがにたくさん持ち込むことはできなかったので、よく使うモノを10冊くらいですね」
「なるほど……」
「……いや、それでも多くない?」
カリーナが小さくうんうんと頷きながら聞いているのとほぼ同時に、蒼空が俺にしか聞こえないくらいの声で呟く。
俺は望愛の家にある本がどうだったか思い出してみる。望愛の部屋はもちろん、望愛の両親の部屋など。書斎のような部屋は無かったと思うが、納戸は有った。小学生男子と言えば探検を好むもの。いろんなモノが収められている場所というのは、やっぱり忍び込みたくなるのだ。
「……まぁ、実家にある本の量からすれば、ごく一部だなぁ」
「すご」
思い出を手繰れば、蒼空がさらに驚いた。無理も無い。羽村家は家族全員が本好きだったから蔵書の数も半端ではなかった。
「私たちも少しそういった書籍にも触れてみたいところだな」
「あ、お貸ししますよ?」
「それはもちろん嬉しいのですけど……」
望愛の提案を、カリーナは意外にもやんわりと押しとどめた。セーラも頭上に小さな疑問符を浮かべているようで、小首を傾げた。俺ももちろんそのひとり。てっきり「よろしいのですか!?」などと言いながら、勢い込んで望愛の手を握ると思っていた。
「やはりそういったモノは、自分のモノとして、いくつか持っておきたいなと……」
なるほど、そういうことか。借り物ではなく、しっかりと自分の本として買いたい――と。そこまで本気だったか。
「素晴らしいです。あ、そういえば、購買部には書籍エリアって……」
「ん? 書籍販売部はあるぞ?」
この広大なアリスト学園の購買部。勉学に励めと言って止まないこの学園の購買部で、本の取り扱いが無いなんて、そんなことはないのだ。
「学園内で本も買えるのか」
「そこら辺の書店より明らかに広いし、本の数も多いぞ」
「……その『そこら辺の書店』という基準が我々には分からないのだが?」
「おっと、ごめん」
セーラのツッコミを受けてしまったので、ひとまず個人商店のような書店といわゆる大型書店と言われるサイズ感を学園の施設で例えることにした。セーラはそれで納得してくれたので、今度は望愛の疑問を解決する番だ。
「書籍のエリアがあるのは学園のパンフレットでも見てるから知ってるけど……、でもどこに?」
「さっきの日用品エリア、あっただろ?」
「うん」
「あそこの地下フロア」
「……地下があるの?」
「あるぞ。何か知らんけど」
大型ホームセンターと同等の広さを持つ日用品エリアと同じだけの面積を持つ空間があの地下に広がっていて、そこにある棚はすべて本で埋まっている。読書家にはたまらない空間のひとつだ。
実はこれよりもさらに広くフロア数も多い、アリスト学園中央図書館というものもあるが、それはまたの機会だ。
「エイトさま、次はそちらも案内していただけませんか?」
「いいよ、もちろん。料理系の本の場所は分かってるから、そこから先は望愛に案内してもらって、何冊か良さそうなのを買うのもイイんじゃないかな」
「ぜひ、そうさせてください!」
「じゃあ、そこまでの案内はエイちゃんに任せるね」
「ん」
そうと決まれば話は早い。必要なモノを揃えて会計を済ませて、買ったモノは部屋までお届けしてもらえばいいだろう。
「……そうだ。何だったら、ソラもいっしょに勉強しないか?」
「……考えとく」
煮え切らないヤツだった。