4-8. 所変われば何でも変わると言う話
§
フロアを一巡し終わったところで会計を済ませる。ちょっと買いすぎた感じもあったが、それはあくまでも分量の問題。お値段は未成年な学生でもそこまで驚かずに済む程度に収まるあたりは、やっぱり学校内の施設だったりする。わりと脳みそがバグりそうなものだ。
カリーナとセーラに訊けば、今日は夕方あたりまで購買部を見て回って、そのまま中央食堂で夕食を済ませるつもりという。
「だったら私たちが案内しようか?」
それを訊いてこんな提案をしたのは蒼空だった。
ただ、ふたりはすぐに頷かなかった。俺たちは当然「どうして?」と思ったわけだが、ふたりの視線の行く先を見て一瞬で把握した。何のことはない、俺の荷物が原因だった。そりゃああれだけの嵩がある荷物を持って他のところを見るなんて、非常識が過ぎる話だ。
ということで、俺の荷物は少々の間保管してもらうことにした。大型の商品を買ったときや、一定数以上あるいは一定重量以上の商品を買った場合は、後から部屋まで届けてもらったり一定期間保管してもらうことができる。今回はそのシステムを活用することにした。
――まぁ、今日の閉店間際か明日の朝にでも行って、ココと部屋の間を何往復かすればイイだけの話だ。このまますぐ持ち帰ろうとすると、女子たちに荷物持ちを手伝ってもらうようなことになりかねない。それは、やっぱり避けたかった。
そんなこんなでやってきたのは、2日連続になる食料品エリアだった。
「今日は、ふたりのために、案内しないとね。……ね、望愛?」
「うう……」
これ見よがしに強調されて言われれば、望愛も縮こまるしかない。真っ赤になっている。望愛なりに触れて欲しくない部分なのだろう。そこまで恥ずかしがることもないと思うけれど。とはいえ、ちょっとイジって満足したのか蒼空もごめんねと言うような感じで望愛の肩を撫でていたので、あまり心配はしなくて良さそうだ。
「ふ、ふたりとも、行きましょうっ!」
「はいっ」「よろしくな」
恥ずかしさを振り払うように珍しく大きな声を出して先導してくれる望愛のすぐ後ろを、カリーナとセーラがぴたりと付いていく。
――ああなるほど。これが昨日、俺が他の奴らに見せていた行動か。
そんなことを思いながら何となく視線を感じて左を見れば、蒼空がじっと俺を見つめていた。
「何?」
「纓人は何か思うところは無いのかなぁ、って思っただけ」
――どういうことだ?
考えていることは、どうやら隠せていなかったらしい。俺の顔を見た蒼空は、片唇だけを上げるようにして俺を嘲笑ってくれた。
〇
店内を巡るルートは昨日と同じだ。望愛が先頭に立っているところも同じだが、望愛がまとってくる雰囲気は全然違う。ショッピング時の戦闘モードではない。いつもどおり、穏やかなものだ。唯一だが、その違いはあまりにも大きい。
何も買わないにしても、念のためカートがあった方がいい。そう言って望愛がカートを取りに行った。
「エイトさま」
「ん?」
「昨日訊きそびれてしまっていたのですが、よろしいですか?」
何か思い出したことがあったらしく、少しだけ急いた感じでカリーナが訊いてきた。
「もちろん。……俺でもわかるような内容だったら」
笑いながら「大丈夫です」と言ったカリーナはそのまま続ける。
「こちらでは、食料品にしても日用品にしても、どこへ行ってもこのような風に売られているのですか?」
「ああ、私もそれは訊いてみたかったな」
セーラも入ってきた。
「『このような』というと……」
少し詳しく訊いてみると、それぞれ大まかに売り物の陳列が分かれていて、欲しいモノを客が自分で選んでいき、会計はひとつに集約するという買い方のことを言いたいらしい。
「たしかに、こういう買い方が主流かな。専門的なお店もあるけれど、購買部には無いね」
とは言っても、商店街のようなモノはこの近くにはない。ここからバスなり自転車なりで行くような距離にある大きな駅の前にあるのが、最寄りの商店街になるだろうか。スーパーも駅前商店街とは逆方向にあるが、そっちは購買部があるので足を運ぶようなことはほとんどない。
そんなことを説明していく。カリーナはいつでも真剣に話を聞いてくれるので、がんばって説明しなくてはという気になる。そういう気にはなるが、きちんとした説明になっているかは別問題だけど。
「そうなんですねー」
「あれ? カリーナの国はこういうお店って無いの?」
「……!」
一通りの説明が終わったところでするりと蒼空が話に入ってきた。
完全に油断していた。
留学生が日本の――というにはさすがにこの学園は異色のような気もするが――見慣れない光景について訊いているから話を広げようとしている。蒼空にしてみればその程度の事かもしれない。
だけれど、今俺たちが話していたのは、要するに異世界の状況にも関する会話だ。俺が異世界のことを聞き出そうとしているところではなかっただけマシなのかもしれないが、事情を知っている側からすればいきなり核心に迫られたような感覚になる。
「えーっと……」
「ああ、いえ、その……」
「いや、私たちのところでは、商店街……というのか、小さいながらも専門的なお店だったりでの買い物が主流のような感じだから」
「なるほど」
口篭もった俺に代わって答えてくれたのはセーラだった。
「そう言われれば、ヨーロッパとかの街だとお肉ならお肉屋さんみたいな感じで買い物してる映像とかは見たことあったわ。専門の人に頼んで買うモノを選んでもらうみたいな感じだよね、たぶん」
「……そうだな」
少し考えながらセーラが蒼空に答える。
「国が違えば全然違うモンだよなぁ」
「そうねー。こっちだと……あっちの方くらい?」
そう言って蒼空は、さっき俺がふたりにも説明した商店街がある方を指差す。他に俺の知らないような商店街は無いらしいことがわかって、少しだけ安心する。
「お待たせー」
「行こっか」
「はいっ」
望愛が戻ってきて、蒼空が促す。カリーナが元気に返事したところで、今日のショッピングタイム・パート2が始まった。
どんなセカイなんだろうなぁ、カリーナたちのセカイって(他人事