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異世界少女も許嫁ポジを狙っているちょっと危険が危ないラブコメ  作者: 御子柴 流歌
第3章: 新たなる日常になるかもしれない光景
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3-8. お勉強は大事

「何か、その……スゴかったですね」


「驚いたよ」


「み、みなさん、あの、その……、すみませんでした……」


 お会計と戦利品の整理を終えて、()()がようやく()()に戻った。俺以外の5人、とくにカリーナとセーラは完全に望愛を畏怖の対象として見ているようだったが、それが余計に居心地を悪くしているらしい。――そりゃそうか。


「エイちゃんも……あの、その……」


「昔からだし、全然何とも思ってないけど」


「……ほんと?」


「これも昔から言ってるけど、ホント」


 小さな身体をさらに小さくして望愛は恐縮しているようだが、本当にそんなことを今更言われてもという話だ。俺は何度も()(むら)さん家の買い物に同行したことがあるし、その時に望愛も望愛のおばさんも、さっきの望愛と同じように目の色を変えて――はさすがに言い過ぎだ。ふたりとも真剣な眼差しで買い物をしていたし、俺はそのサポートをするようにカートを押していたのは昔と変わらない。お会計を済ませばまたいつも通りの大人しい雰囲気になるのも昔と変わらなかった。


「勉強になったよ、(えい)()クン」


「何がです?」


 ()()()先輩は如何にも『イイものを見せてもらったよ』的な表情で頷いている。


「中学の時、部活でスーパーに買い出し行かなきゃいけなくなったときがあってね」


 ――あ、察した。望愛が何か慌てたようにしているが、スタートが遅い。


「その時の望愛をどう扱ったらいいのか、って思ってたんだけど、なるほどねー……」


「ご理解いただけましたか」


「下僕になればいいのね」


「……え、あの時の俺ってそう見えたんですか?」


 それは、ちょっと聞き捨てならない。


「さっき私もそう言ったつもりだけど」


「え」


 ()()がじっとりと湿度の高い視線を向けてきた。


「ま、私は下僕とまでは言ってないよ」


「そうなのか?」


「召使いとは言ったけど」


「それ、大体同じじゃん……」


 っていうか、そんなことを言われたような気がした。思い出してきた。


 あのタイミングではとにかくバーサーカー状態な望愛を制御できる人間がいなかった。もしかしたら優里亜先輩が知っているかもと期待したが、あの瞬間の先輩を見て状況を把握するのは簡単だった。トリセツをある程度理解している俺が動くしかなかったというわけだ。


 だから何を言われようが、どんな見られ方をしようが、とにかく望愛のサポートに徹することを優先したまでだ。


「ごめんなさい……」


「いや、だからイイんだって、別に」


 俺がイジられていると思ったのか、望愛はさらに恐縮した。ふだんの物腰穏やかな感じからは一変して買い物の最中は文字通り『人が変わった』ようになるが、その後の恐縮っぷりが実は面白かったりする。「はー、やれやれ、今日もしっかり買い物できたわぁ」なんてあっけらかんとするおばさんの域に達するには案外まだまだ時間がかかりそうだ。


 本当にヒいていたりイヤだったりしたら、望愛の買い物に何度も付いていったりなんかしていない。いくら俺の方に事情があったとしても。


「私、勉強になりました」


 若干いたたまれなくなってきたところで、カリーナが意を決したように口を開いた。何か少し空気が変わればいいのだが。


「お買い物ってあんな感じにすれば良いんですね!」


「いや、うーん……」


 空気は、確かに変わった。でも考えは甘かった。変わることは必ずしも良いこととは限らない。それを念頭に入れ損なっていたらしい。思わず唸るだけになってしまった。


「ち、違うんです、あれはホントに悪い例なんです……」


「そうか? 私もカリーナもそうは思っていないぞ」


 ますます縮こまる望愛だったが、さらにセーラがフォローする。


「同じ値段のモノからはその中でも良いモノを選ぼうとする。重さで値段が決まっているモノならばしっかりと消費しきれる分量にする。生鮮食品などの購入における正しい考え方が、ノアとエイトの姿を見ていたら、まだ少しだけだが分かってきたと思う」


「……なるほど」


 俺自身も特段自炊を好んでするタイプではないが、野菜などの目利きは得意だ。それは間違いなく望愛たちのおかげだと思う。どうやらセーラもカリーナもそこをしっかり見てくれていたようだ。良かった。望愛も少しだけ肩の力が抜けたらしい。


「もしよかったら、ノアさまのお買い物のときは私も連れて行ってくださると嬉しいです」


「私もお願いしたい」


 カリーナやセーラが自分たちの国で普段どうしていたかは分からないが、彼女たちの口ぶりからすれば普段から買い出しに行くような環境には居なかったことはわかる。

 それもそうか。一国の姫君がバスケット片手に商店街へお買い物――なんて姿はさすがに想像しづらい。そういう国も素敵だなとは思うけれど、お忍びで変装して一般国民に紛れて庶民の生活をするなんていう『ローマの休日』めいたことをするならば話は別だ。


 ――いや、確信は無いけど、何となくこのふたりならそういうことをしそうな気もする。というか、こうして異世界にまで()()をしに来るくらいだ。それくらいのアグレッシブさは持ち合わせていそうだ。わりとそういう想像は難しくなかった。


「え、そんな……、私で良かったら」


「ホントですか」


「よろしく頼む」


 無事に話がまとまった――と思いきや、3人の視線が何故か俺に集まった。


「ん? な、何?」


「エイちゃんも来てくれる……よね?」


「エイトさま……?」


 あれ? もしかして、俺は固定メンバーだったりする?


「荷物持ち要員?」


「……ってことも、ないんだけれど」


 察した。概ねそれが目的だな。


「買い過ぎには注意してくれよ」


「うん!」


「ありがとうございます!」


 パッと晴れやかな表情がふたつ。元気な返事で何よりだ。



板東は英二~。

ナナ(以下略

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