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異世界少女も許嫁ポジを狙っているちょっと危険が危ないラブコメ  作者: 御子柴 流歌
第3章: 新たなる日常になるかもしれない光景
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3-5. 昔の話は初恋談義


「それでそれで? どうして『エイトさま』の話と関係があるのかナ?」


「それはですね……」


 全員が固唾を飲む。話を改めて振っておいて、()()()先輩まで同じようにドキドキしたような顔をしているのはちょっと意味がわからないけど。


「実は、その小さい頃にこちらに来たときに、エイトさまに会っていて」


「え」


「ええっ、ホント!?」


 俺の小さな驚きは、当然のように優里亜先輩で上書きされていった。残っているのは情けなく見開かれた俺の目だけだ。


 いつの話だ? 記憶にない。

 ホントに小さい頃、物心が付く前の記憶もおぼろげなほどの時期のことか。それともぼんくらな俺が忘れているだけなのか。


「恥ずかしながら初めての国で迷ってしまって、その時に助けてくれた少年がエイトさまだったのです」


「ははぁ……その時から(えい)()は人タラシだった、と」


「…………」


「いや、ちょっと纓人。一応はツッコミ待ちのつもりだったんだけど」


「……え? あ、えーっと、何でやねん」


「……」


 ()()に反応をしなかった俺への見返りは、真冬の風のように冷たい蒼空の視線だった。


 いきなり漫才の提案をしてきた蒼空が悪いような気がするのだが、違うのか。文句のもうひとつくらい重ねてやってもいい気はしたが、状況はそれどころじゃない。


「本当な名前を伺おうとしたのですが、まだこちらの言葉もそこまで分かっていたわけではなくて。ただ、お別れになる直前にどなたかにお名前を呼ばれて、それが『エイト』と私にも聞こえて」


「なるほど。じゃあ、その時の恩人だから『エイトさま』なんだ?」


「そう、ですね。敬称として『さま』を付けるということを知ったので、私はお名前をお呼びするときはやはりそうするのが礼儀かと思いまして」


 そういうことだったのか――と考え無しに状況を飲めれば楽なのかもしれない。ところが、俺の記憶にはそんなことをしたことすら残っていない。反応にも困る。どういう効果があるのか分からない錠剤と水を渡されたとしても、それを何も考えずに飲み下すことなんてできないのだ。


「纓人もまんざらじゃなさそうだしね」


「んぇ?」


 さっきからどうして蒼空は俺に不意打ちばかりしてくるのだろうか。別に気を抜いているわけではないし、何なら『何を言われるのだろうか』といつもより気を張っている位だと思うのだが。今日の蒼空にはどうやってもタイミングを崩されがちだ。ポーカーフェイスで緩急を付けてこられると、カンタンには太刀打ちできない。


「え、エイちゃん、そうなの?」


「……な、何が?」


 次の矢は()()から飛んできた。


「『さま付け』、されたいのかな、って」


「え!?」


 ――そっち!?


「い、いや、別にそういうことではなくて」


 個人的にはそこまで畏まられるような身分じゃないし、何ならこちらの方こそ最低でも『カリーナさん』とか、普通に考えれば『カリーナ様』とお呼びするべきなのだが。


「……そうなんだ。だったら私も、そう呼んだ方がいいのかな」


「ち、違う違う。望愛、お前は何か勘違いしてると思うぞ」


 だったら、ってどういうことだ。俺と望愛の間にはそんな関係性はない――はずだ。


「そっか。だから、こっちの言葉を覚えたり、こっちでの食事作法を覚えたりしたのも」


「はい。またこちらに来るときのためです」


「はは~、そういうことなんだぁ」


 俺の状況を敢えてスルーしたのかはわからないが、マイペースを貫きながらとても納得した様子の優里亜先輩は、自分のスープをひとくち飲もうとしたところで、やっぱり何か引っかかることがあったらしくその手を止めた。


「……え? っと、ちょっと待って? ということは、もしかして……?」


 そして、俺とカリーナを交互に見て。


「今までのそういう勉強は、ココに来るためのっていうよりも……全部、纓人クンに会うためにしてきたってことだよね?」


「え、っと」


 一瞬だけ言葉に詰まるカリーナ。自分を落ち着かせるように小さめの深呼吸をして、お冷やに口を付けようとしたところで――。


「……まぁ、そういうことだね」


「ちょ、ちょっとセーラちゃん!」


 またしても美味しいところをセーラがかっ攫っていった。


「先輩だってもう気付いているのに、わざわざお前の口から言わせようとしているんだ。そんなに勿体振ることもないだろう」


「……え、そ、そうだったんですか?」


「さーねー?」


 気が付いていないのは()(ちゅう)の人だけだったらしい。正直、俺でも分かった。何かを話し始めるときに「ちょっと待ってちょっと待って」と連呼するのは、本当に待ってほしいときには言わない。注目を集めてから話の本題を盛大にぶちまけるための準備でしかない。


 鳴らない口笛を鳴らすように唇を尖らせつつ、明後日の方向を見遣る先輩。

 案の定だ。態度で暗に認めている。


「カリーナも覚悟を決めた方がいいぞ」


「もー、セーラちゃんは。他人事だと思って」


「……別に、そういうわけじゃない」


 苦笑い気味にセーラが返すとカリーナはそれで踏ん切りが付いたようで、俺たちをぐるりと見回すようにして、最後に俺をしっかりと見つめた。なかなか慣れない。穏やかそうな顔つきなんだけど、こうしてビシッと見つめられると背筋が伸びる。やはり王族のオーラのようなものはどこかに潜ませているらしい。


「……実は、昨年もこちらに来る機会に恵まれたんですが、その時に無理を行ってまたこの辺りに来ることができたんですが。……その時に、アリスト学園の制服をお召しになっているエイトさまをお見かけして」


「……え」


「ちょっとぉ、何その運命力……!」


 唖然とする俺。なぜか感動する優里亜先輩。


「なので、……セーラちゃんの言うとおりなんです。エイトさまにまたお会いするために、来ました」


 直球、ど真ん中。ものすごく度胸が必要な事だと思う。それを、若干焚き付けられた感はあっても、しっかりと自分の言葉で、カリーナは俺に告げた。


 俺にもそれをしっかりと受け止められる度胸があれば、良かったのだが。生憎、彼女の真っ直ぐな眼差しにも射貫かれてしまいそうで、俺は少しだけ視線を逸らしてしまう。


「まぁ、有り体に言ってしまえば、君はカリーナの初恋の相手ってことだよ、エイト」


 一刀両断とばかりにセーラが再び登場。


「もうっ! さっきからセーラちゃんイジワルだよ」


「それくらい言わせてくれたっていいじゃないか。私は何年も散々お前からエイトの話を聞かされてきたんだから」


「た、たしかにそうだけど~……」


 顔を真っ赤にするカリーナ。セーラへの指摘のせいか、それとも初恋談義のせいか。どちらが原因なのだろうか。


 いや、そんな冷静に話を聞いている余裕なんて、俺にはもう残ってない。初耳情報だらけ、しかも言うなれば相当なスキャンダルネタだ。一国の王女様がどこぞの世界のニンゲンとも解らないようなヤツに恋をしたなんてことが、果たして許されていいのだろうか。


 ――やっぱり俺、誰かに叩き斬られそうな気がするんだけど。


 イヤだぞ、目を開けたら異世界からやってきた刺客が剣を振り下ろすところだったなんて。全く笑えない状況だ。笑った顔で死ぬことすら許してはもらえなさそうな気しかしない。


「なるほどねー。いやぁ、昨今じゃお目にかかれないくらいの純愛だねえ。うんうん」


 優里亜先輩はそう言いながら、食後のコーヒーを啜る。何そこでしみじみと浸っているんですか――と突っ込めたら楽なのかもしれないが、それは部外者だからできること。俺はしっかりと渦中の人なわけで、そんな危険を冒す気にはならなかった。



純愛、好き。

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