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異世界少女も許嫁ポジを狙っているちょっと危険が危ないラブコメ  作者: 御子柴 流歌
第3章: 新たなる日常になるかもしれない光景
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3-4. 野菜とマナーとエイトさま



 今の時間帯はちょうど配膳担当がいなくなった、つまりセルフサービスでの営業が始まったタイミング。それぞれが好きなメニューを頼み、場所取りをして置いた席に戻ってきたのは5分後くらい。外を吹き抜けていく風はまだまだ冷たさは残っていたが、建物の中なら別だ。大きな窓越しに差し込んでくるお昼の陽の光は幾分か温かそうだった。


「窓辺の席は、眺めも良くて素晴らしいですね」


「そうだねえ。ココはホールとかも近いからその辺りも考えられてるんだよー」


「なるほど……そうだったのですね」


「もう少しあったかくなってきたらオープンテラスの席もできるからお楽しみに」


「素晴らしいです」


 ラッキーなことにいわゆる眺めの良い席というのが取れた。微笑むカリーナに、先輩兼生徒会役員としてか()()()先輩が説明を加えた。いろいろと新入生に対してアリスト学園のいいところを見せていきたいというのが見て取れる。基本的に悪ふざけが多い人だが、こうしてシゴトが出来る人でもある。


「大講堂というのはあれのことか?」


 トレイを自分の席に置いたセーラが訊いてくる。焼き魚がメインになっているということは、日替わりランチBセットか。単品注文でサラダを足したようだ。あんかけ焼きそばのみというシンプルチョイスをカマした俺とは、絶対に比べてはいけない。


「ん? ああ、そうそう」


「あっちも随分大きいな」


 生徒だけが利用する機会はそれほど多くはないが、入学式や全校集会に学校祭、あるいは外部の人を招いてのイベントなど、相当数の人が集まる場合に使われる施設だということを説明すると、セーラも納得してくれた。


「……やはり、似ているな」


「え?」


「エイちゃん、野菜も摂らないとダメだよ」


「うっ」

 バレた。そんな予感はしていたけれど、ものすごくあっさりと()()に指摘を喰らった。本当はセーラが言ったことの意味を訊きたかったのだが、どうやらそれどころではなくなりそうだ。


「あ、ホントだ。……ハイ、レッツ・ゴー」


「ウッス」


「そこで『俺シラネ』みたいな顔をしているキミもね?」


「……ッス」


 当然のように、(たい)(せい)も優里亜先輩にも指摘される。ヤツは味噌ラーメンのみ。結局麺類単品が正義というのは、俺と大成で中等部時代から共通していた。

 先輩が指差した先にあるのはサラダバー。男ふたり、おとなしく言うことを聞くことにした。




    〇




「お待たせしましたー」


「……どうでしょうか」


「ん、合格」


「今度からは必ずサラダを足すこと。……いい?」


「はいっ」「ん」


 優里亜先輩と望愛の審査には合格。一安心して椅子に座った俺とは対照的に、やたらと威勢の良い返事をする大成。何だか妙に表情がツヤっとしているような気がする。


「なぁ、(えい)()


「……何だ」


「カワイイ女子に怒られるって、イイな」


「…………」


 ――何だコイツ。


「そんなさぁ、道路脇に落ちてるゴミでも見るみたいな目で見るのはさぁ」


「ならば発言を慎め。……すべての」


「すべての!?」


 お前みたいなヤツは、一度すべての発言を検閲にかけてもらった方が良い。たとえ一切の発言を禁じられるようなことがあったとしてもだ。


「では、いただきます」


 何事もなかったかのように()()が食事開始を告げれば、全員が揃って後に続いた。予想通りだが、その辺もしっかりしているメンツだった。


 ある程度それぞれが無言で食べ進んでいく姿をぼんやりと眺める。


 ふたりは、食事の姿も、整っていた。


 もちろん、ビシッとしつけられていたことを知っている望愛も、間違いなく箸使いとか姿勢などを含めて整っている。優里亜先輩も、蒼空もだ。


 だけど、カリーナとセーラからは、それまでに受けていた教育がそういった一般家庭の水準のモノでは無いというような雰囲気が漂っていた。歩き方からして俺程度の人間が余裕で違いを感じるくらいだ。食事なんていったら、言うまでも無いだろう。


 それには優里亜先輩も気が付いたようで、途中から箸を口に運ぶ回数が減ってきて、とうとうふたりと交互に見つめるだけになった。せっかくの煮込みハンバーグが冷めてしまいそうだ。そもそもさっきから冷ます回数が多かったような気はしていたが、それには気付かない方が良かっただろうか。


「ふたりとも、食べ方がキレイだねえ……」


「え、……そうでしょうか?」


「はい、教科書に載せたいくらいです」


 望愛もやはり見ていたようで、頷きながら先輩に続いてふたりを褒める。


「そんな……」


「お互い、その辺りの躾は厳しいからな」


 謙遜するカリーナ。受け流すセーラ。


「なるふぉろねえ……」


「アンタはもう少しキチンとしなさい」


 今までの流れを見ていなかったのか、それともカラダを張ったボケのつもりか。口いっぱいに頬張ったまま話そうとする大成の頭頂部を、蒼空が軽く叩く。大成にはこのふたりの爪の垢を煎じて飲ませるべきだろうか。

 ――でもコイツのことだから、喜んで飲みそうだから怖い。っていうか、絶対そうだろう。むしろご褒美だとか言い出しそうな予感もする。


「でも、そんな感じする。付け焼き刃じゃない、しっかりと身に付いてるのがわかるよ」


 優しい表情で優里亜先輩が褒め言葉を重ねる。


「そういえば、ふたりとも箸もすごくキレイに使えてるし……」


「あ、ホントだ」


「そういえば。あまりにも自然だったからツッコミ忘れてたよ。もしかしてそれもどこかで教わったりするの? ココに通うって決める前から練習してないとそこまでは巧く使えないよね?」


 留学生であるという彼女たちの()()は、既にこの場の全員が知るところだ。


「何ならオレよりキレイだな」


「……大成のはちょっと、人前じゃ見せられないレベル」


「え、オレは外でメシ食ったらダメなの」


「犯罪レベル」


「そこまで!?」


「そう思うなら直しなさい」


「じゃあオレ、ふたりに教わりた――」


「は?」


「――い気持ちも山々ですが、ココは蒼空大先生に教わりたいと思いますハイ」


 いとこ漫才で話がこれ以上脱線しない内に、何とか軌道修正した方が良さそうな気がしてきた。オチもひとつ着いたようなので、この辺でもう充分だろう。何年言っても聞かなかったくせにとドスの利いた声で呟いた蒼空はさらにヒートアップしそうなので、むしろこれ以上は危険だ。


「ふたりとも、箸はけっこう使ってたりするの?」


「はい、数年前から少しずつですけど」


 そう答えたのはカリーナだった。


「先ほど、優里亜先輩から訊ねられた件とも関わってくるのですが」


「あ、『エイトさま』の話?」


「そうです」


 そうなんだ。――いや、そんなに落ち着いてる場合じゃないかもしれない。落ち着いてメシを食っていられる状況じゃなくなる可能性がある。


「実は私、小さい頃にもこちらへ来ていたことがあったんです」


「そうなんだぁ」


「戻ってからもまたこちらに来たいとずっと思っていまして。また行くことがあれば必ず必要だろうとこちらでの食事の仕方や作法という物を学んだりして」


「日本語も話せるのもそれが理由?」


「そうです」


「へ~」


「独学なんですか?」


「……一部は、そうですね」


「すごい……」


 優里亜先輩を含めて俺以外の全員が興味深そうに聞いている。


 だけど、正直俺は気が気じゃない。


 大きな声では絶対に言えないけれど、それはつまり、この世界と彼女たちの世界との間の行き来は少なくとも10年くらい前からはできていたことの証拠だ。『知らない間にこの世界は開かれていたのだ!』という安っぽいSF系バラエティ番組のテロップのような言葉が脳裏を過った。


どうしようもないサブタイトル。

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