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異世界少女も許嫁ポジを狙っているちょっと危険が危ないラブコメ  作者: 御子柴 流歌
第3章: 新たなる日常になるかもしれない光景
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3-3. 充実しすぎでは?



        §



 1学期が始まればさすがに混雑もスゴいことにはなってくるだろうが、今はまだ春休みの期間中。昨日の俺たちのように寮の食堂で済ませる生徒が大半で、こちらの食堂まで来るのはそこまで多くはない。キャパシティが絶大なだけにいつもなら本命にもなるだろうけど、今日みたいな日ならば穴場になる。


「すごい……、メニューもいっぱいある……」


 何やら感動している()()。それもそうだろう。デパートのレストラン街に入っているお店を全部まとめて戦わせても、こちらが勝つ。勝つだろうではなく『勝つ』と確信出来るくらいのボリュームとクオリティが兼ね備えられていると思う。


「スゴいよねー」


「はい、もう……スゴいです」


「望愛、()()(りょく)下がった?」


「しょ、しょうがないでしょ……」


 顔を赤くした望愛を見て、()()()先輩と()()が笑う。


「ちなみに、料理・製菓部はここのキッチンを借りて活動できるよ、ってことを付け加えておくね」


「えっ……!!」


「さらにちなんでいくと、ココの料理長さんがウチの特別顧問だから」


「あ、そうだった……っ!!」


 おお、望愛の目が今日イチ光ったぞ。


 そういえば、著名なホテルの総料理長を務めていた人だとかいう話は聞いていたが、顧問まで務めていたとは。俺自身にはとくに関係がないネタだと思って、説明会のときにはスルーしていたのかもしれない。


「先輩、入部届っていつ出せるんでしたっけ……?」


「はーい、ご新規1名様おいでませー!」


 そう言った優里亜先輩が元気よくカバンから取り出したのは、『入部届』と書かれた書類を挟んだバインダー。しかもご丁寧にボールペン付き。

 用意が良すぎる。さてはこの人、ここに来ると決まった時点で持ってくることを決めていたのか。てっきり昨日の段階でもう何らか書類は出していたのかと思っていたが、まだだったらしい。


「コレでいて寮の方も充実してるから食事で困ることは無いんだよな」と大成。


「そうだな」


「寮の方の食堂のメニューとかの監修もココでやってるからね」


 調理担当の腕の差も最小限に収まっているから恐ろしい。


「でも、部活だけだと料理の腕鈍っちゃわないかな……。せっかく炊事設備充実した寮を選んだからしっかりやらないといけないのに、つい食堂のお世話になっちゃいそうで」


 たしかに自分の部屋の設備を思い返してみれば、IHコンロなんかもいわゆる簡易式じゃない、しっかりとビルトインタイプだったけれど。炊事設備、充実しているのか。

 へえ、考えてもいなかった。

 寮を決める時期にやたらと優里亜先輩のゴリ押しされていたのもあったし、俺としても部屋の広さとか収納の充実ぶりはチェックしていて最終的には自分で決めたのだが、さすがにそこら辺が検討項目に上がることはなかった。


「別に、それでも良いんじゃないのか?」


「ええっ? ……そうかな?」


 心配そうな望愛。


「もちろん、サボってイイとかいう話じゃなくてさ」


 そういうことを言いたいんじゃなくて――。


「……何て言うか、食堂のお世話になることに罪悪感は持たないようにすればいいんだよ。美味しいモノを実際に食べることでわかることっていうのがあると思し、それを自分の糧にすれば良いんじゃないか? 『イイお手本がある』って捉えれば」


 と、そこまで言って急に冷静になる。自炊なんてほとんどしない分際で何を言うか、って話なのだ。一応少しくらいはするけれど、望愛や優里亜先輩となんかは比べものにならないレベルの差があるだろう。やっぱりちょっと出過ぎたことを言った気がする。


「……そっか」


「あー、ごめん、そんなに気にしないで」


「……うん、たしかに。ありがとね、エイちゃん。やっぱり頼りになるね」


「え? いや、俺は別に……」


 取り繕おうと思ったところで望愛に微笑まれて、俺は言葉に詰まってしまう。良いことを言おうとしたつもりもなければ、的外れな感じもある。そんなに信用しないでほしかったのだが。


「なるほどな……」


「ん?」


 どうにか言葉をひねり出そうとしたところで、小さく呟く声が聞こえた。そちらに引き寄せられるように視線を送れば、セーラが腕組みをしながら真剣な目でメニューのサンプルを眺めていた。


「参考になります、エイトさま」


「え?」


 そして今度はカリーナから何やら賞賛を貰ってしまった。何のことかと思って自分の言ったことを遡るが、望愛に対して言ったことを指しているらしい。彼女の(きん)(せん)にも触れたのなら、それはそれで良いことかもしれない。


 ――が。


「さっきから気になってたんだけど、訊いてもいい?」


「ええ」


 優里亜先輩が、ニッコリ笑顔を崩さないままで、カリーナに話を振った。


 嫌な予感しかしない――というか訊きたいことなんて、今の流れから考えたらひとつしかないだろう。


「何で『エイトさま』なのかな、って」


 ――嗚呼、やっぱりか。


 俺以外の4人が気にしていたことは知っていたし、それでも休憩になるまで放置していたのも解っていた。どこかで訊いてくるならカリーナがまた実際にそう呼んだときだろうとは思っていたのだが、絶好のタイミングだったと思う。


「……そうですね」


 意を決したのか、大きく頷くカリーナ。


「でしたら、みなさんで注文したメニューが届いたらお話しします」


「うん、了解」


 満足のいく回答だったらしく、優里亜先輩の笑顔が濃くなった。


「じゃあ、先に席を取ったら各自で注文して来よっか」


 先輩の号令に従って、みんながそれぞれ気になるところへ散っていく。俺はそれを少しの間だけ眺めてから歩を進めることにした。


こんな学食、あったらいいな。

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