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1-2. 悪友と良友と元気な声

まずは主人公と、その両脇を固める悪友たちのご紹介。

        ○        ○




 春、それは始まりの季節。晴れて中学生から高校生となる新生活への期待に胸を膨らませてやってくる、ここは私立アリスト学園高等部の学生寮。


 どこか緊張感を持ちつつ、それでも晴れやかな笑顔でやってくる新入生たちを見ながら、超豪華ホテルにも退けを取らないくらいの高等部学生寮を背にして――


「……ふぁ~あ」


 ――俺は大きな欠伸(あくび)をした。


 朝8時。まだ肌寒さも色濃い。学生寮の前にただ立っているだけなのはさすがにツライ。


 新たにこの学園へとやってくる彼ら、あるいは彼女らにとっては『ザ・新生活』という雰囲気もあるだろうけど、中等部から高等部への内部進学組である俺には残念ながらあまり当てはまらない。代わり映えのしない平和が極まっているような日常の訪れに、思わず感謝の欠伸が漏れるくらいだった。

 予想外に大きく長いあくびになり、誰にバレるというわけでもないだろうが、ちょっとだけズレてしまった眼鏡を気付かれないように素早く直しておいた。


「おいおい、(えい)()さんよォ。なんでそんなに退屈そうなんだよ」


 朝には滅法弱いはずの悪友・(うえ)(さと)(たい)(せい)が、耳にかかった若干長めの髪をさらりと払いながらドヤ感満載の笑顔でそんなことを言ってきた。


「俺は陰キャだから別に良いんだよ」


「陰キャは自分のこと『陰キャ』ってあんまり言わなくね?」


 言う人もいるだろ、たぶん。


「……たしかに、自称天然なヤツはきっちり自分のことを『天然だ』と言うな」


 いわゆる『養殖物』などと分類されるタイプだ。


「……お前ってわりと、一瞬で多方面を敵に回すの好きだよな」


「事実を正確に述べただけだ」


「へいへい、了解」


 とくに気にした素振りもない大成は、やたらと楽しそうに身体を揺らしている。


「……俺はむしろ、お前のそのテンション感が理解できないんだが」


 1時間目の授業なんて、毎度毎度ウォーキングデッドみたいなツラで出てきては、そのままデス状態になっていたくせに。一体どの口がそれを言うのか、という話だ。


「それはこっちのセリフだっての。マジでお前のそのローテンションが理解出来ないわぁ……。どんなカワイイ()がこのアリスト学園の門を通ってオレたちといっしょの授業を受けるんだ、と。そう考えたらテンションが上がってこないはずがないだろう!」


「ああ、そう」


 見上げる先の笑顔。意味が分からん。ため息が漏れる。


 それと同時に同時に俺の横、やや下側からもため息が聞こえてきた。彼女の軽いウェイビーなミディアムショートが、不意の風で小さく揺れている。


 ――(なか)()()()。大成のいとこ兼幼なじみ的存在にして、大成のお目付役。そして俺の数少ない友人のひとりだ。


 大成とは正反対とも言えるテンションだが、決してローテンションなわけじゃない。比較する相手が悪いというだけのことであって、ふつうに過ごす上ではこのくらいが丁度いいと思う。


「何度も言うけど、テンション低いなぁお前ら」


 大成が呆れたように言ってくる。誰のせいだと思っているんだか。


(かげ)の者にとっては、いちいち浸るような感慨も無いからな」


「クールだねえ。っつーか、クールじゃなくてむしろ冷たいまであるわ。フリーズドライっていうか?」


「フリーズドライは別に冷えてるわけじゃないぞ」


 作る過程ではマイナス30度くらいには冷やすが。


「そういうツッコミは早いのな」


 特にツッコミを入れたつもりはない。自然とため息が出る。結果、自然に蒼空とシンクロした。


「そりゃあ、ため息も出るよな」


「出ないわけ無いよね」


 呆れたような声色が重なり合って、奇跡的なくらいに陰気なハーモニーになった。


「……まさかコイツ、中等部の時もそうだった?」


 入寮くらいのタイミングではまだ俺と大成や蒼空は知り合いではなかったので、その時の状況は知らない。


「うん。なぁんにも変わりない。成長がない」


 下唇をほんのり突き出して、蒼空は言う。


 ――心中お察しいたします。


 蒼空の小さな頭をポンとひとつ撫でれば苦笑いが返ってきた。


 どう見ても乗り気には見えないような俺と蒼空が、何故朝からこんなところに居るのか。その理由は驚くほどに単純で、あくまでも大成のお目付役だからだった。


 入学式を1週間前に控えた今日からは、内部進学組を除いた新入生の入寮が始まることになっている。内部進学組は既に入寮(もしくはこの近くのマンションなどへの引っ越し)を済ませていて、入学式まではまだ少し時間がある。

 ならば、入寮してくる新入生を出迎えつつ、引っ越し準備などを手伝ったりしながら親睦を深めましょう――というボランティア的な活動である『新入生サポート』が生徒会主導で行われることになっていた。


 勿論これはボランティア的活動なので、自由参加だ。当然俺は引きこもりを決め込む予定でいたし、折角の春休みなのだから昼前には起きていればいいだろう――そんなことを考えていたのだが。


 ここで諸悪の根源、上郷大成の(ちん)(にゅう)が発生したわけだ。


 ――『出迎え、行くよなっ!?』


 昨日の夜、俺の部屋に突入してきて、開口一番にコレだ。まさに「何言ってんだコイツ」だ。


 その理由は、先に本人の口から明かされた通り。これ以上無いくらいに下心全開。本気でコイツは、親睦を深めることとナンパをイコールで繋ぐ気らしい。迷惑な話だ。それに巻き込まれた俺と、俺の告げ口によって渋々お目付役としても参加を表明してくれた蒼空にとっては本当に迷惑な話だった。


 できれば動きやすい服装でという生徒会からのお達しのとおり、俺はカジュアルめな恰好にしている。蒼空はTシャツにジャージで、動きやすさステータスに間違いなく全振りだった。ちなみに大成は、何をどう履き違えたかトレーニングウェアの胸元を大きく開けてアピールに余念がない。誰も見たくないっての。


 まったく、またため息が出てしまう。ついでに欠伸も出てしまう。気怠さを全く隠す気もない俺はそれでも一応背筋だけは伸ばそうとしてみる。


 ――が。


「おはよう諸君っ!!」


 突然後ろから元気な声が響いて、思わずビクゥッと肩が跳ねてしまった。

んでもって、次回は先輩の登場。

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