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2-6. トップシークレット

(元日公開なので)あけましておめでとうございます。

「……とすると、あの時は『最終テスト』だと言ってたけど」


「最終テストだったのはカリーナの魔法のことだな。私の方は本番一発勝負だった」


「え」


 なにそれこわい。


「ああ、いや、少し語弊があった。あくまでもエイトに対して行うのは一発勝負だったというだけで、事前の練習はしている」


「そ、それにしても」


「……済まないが、これ以上となると言えないことが出てくる」


「ああ、いや。そういうのは全く問題無いよ。守秘義務みたいなのがあるならそれに従ってほしい。俺は優先しなくて全然構わないから」


 別に、黙っていたのはそういうことではないのだが。


 この言い方が正しいのかは分からないが、随分とセーラはカリーナに対して過保護なように感じてしまった。要するにここ数日俺が何らかの被検体のようになっていたのは、すべてカリーナの魔法の成否をより安定的にするためなのだろう。

 ふたりがそれぞれ俺に対して行った魔法の難易度とか、それぞれの魔法の技術とか、そういうことは俺が分かることなんてこれっぽっちもないので黙っていただけだ。


「いくらテストを何度もしてきたとはいえ、本当にエイトさまの身体と精神を移動させられるかどうかの保証は100%出来るモノでは無かったので、安全には安全を重ねるという方法を採らせていただきました」


 最後にすみませんと添えながら、カリーナは深く頭を下げた。


「今いるココは、間違いなく俺が昨日まで生きてきた世界なんだよね?」


「はい、それは100%保証致します」


 それなら良かった――いや、そうか? 今、『身体と精神』って言ったような。

 つまり、もしかすると、俺の身体と精神が別々になってしまう場合もあったということか?


 それは、だいぶヤバイ。


 何だかとんでもない規模感の話に巻き込まれたような気がするのは、きっと俺の気のせいではないと思う。


 大きく深呼吸をして、おかしくなってしまいそうな気分を強引に抑え付ける。力で上から押さえ付けようとしてどうにかなるタイプの物では無いと思うが、時には強権を発動させる必要もあると思う。


「ということは……」


 何とか落ち着いたところでまた訊き始める。どうぞ、とカリーナが目で促してきた。


「こうして俺を他の生徒たちから隔離してから伝えてきたっていうことは、もちろんこの話は黙っているべきなんだよな?」


 俺にだけは伝えなくてはいけない。俺以外には聞かれてはいけない。そういう雰囲気は感じ取っていた。そうでなければわざわざこうしてこの地球上で――彼女たちにとっての異世界で魔法の類いを使って、俺だけに話すようなことはしないはずだ。


「そもそも異世界が実際にあって、そこに住んでいる人はこの地球(セカイ)に来られるっていうのは、きっと大部分の人は知らなかっただろうし。実際にこういうのを見せられて……っていうと人聞きが悪いかもしれないけど、目の当たりにしたから信じられるけど。……正直言って、にわかには信じられないから」


 それに、もしこれが明るみになってしまった時のことを考えれば、相当に危険な事態が発生することは避けられないはずだ。


「そうですね……。今はまだ、トップシークレットですから」


「基本的には他言無用でお願いしたい。少なくともそこら辺の人間に言いふらすようなことはしないでもらいたい」


 だろうな、というのが率直な感想だった。誰も好き好んで彼女たちを奇異の目に晒して、そのまま吊し上げにしようなんて思わない。


「その辺は大丈夫だと思うけどね」


「ええ、私たちもエイトさまのことは全幅の信頼を置いていますし」


「あぁ、えーっと……ありがとう」


 ド真ん中ストレートみたいな言い方をされる。そこで小粋な返しが出来るほどのセンスと度胸は持ち合わせていない。許してほしい。


「なので、エイトさまのご学友の方であれば、お伝えしていただいても大丈夫かと思います」


「もちろん一部に限らせてもらうとは思うけれど」


「………………ん?」


 あれ。てっきり『だから絶対に他の人には言わないで』のパターンだと思ったのに。他言無用の前に付いていた『基本』って、まさか『基本プレイ無料』的なニュアンスの『基本』だったりする?


 こっちとしては、俺の交友関係なんてこの学校随一の狭さだから安心してよ、という意味合いでの『大丈夫』だったんだけれど。不用意にそういったネタを言いふらす趣味もないから、概ね合っているといえば合っているけれど。


 それにしても、そもそも数が少ないモノに対して『一部』なんて言われたら、ほとんど何も残らないような気がするんだが――って、行ってて哀しくなって――いや、哀しくなんてない。これっぽっちも哀しくなんてない。


「え、でも、それってホントに大丈夫?」


 こんな話、世界70億人の内の何人が知っているというのだ。

 どこかの国の大統領とその周辺とか、諜報機関とかのトップシークレット的な話題じゃないのか。

 それを俺みたいな一般人とその友人とやらに広めてしまってもいいのだろうか。


 いや、さすがにそれは、良くはないだろう。


「私たちがこの学園の入学を希望したのはいろいろと理由はありまして、もちろんそのひとつが『エイトさまに会うため』なのですけれど」


 ――あ、イチバン大事なことを訊きそびれていた。今のカリーナの言葉でそれを思い出したが、しかしふたりの話は続く。今はこちらが受けのターンだろう。


「エイトさまのお友達の方とも仲良くさせていただきたいですし、学園生活というモノを楽しんでみたいというのもありますし」


「その中で、大きすぎる秘密を抱えたままで生活するのは、やはりいつかは互いに息苦しくなってしまうと思ってね」


「それは、……解らないではないけれど」


 言われて『友人』とやらの顔を思い浮かべる。――まぁ、口は堅そうなのが多いとは思う。()()()()は大丈夫だろうし、(たい)(せい)()()()先輩も基本的なテンションはあんな感じだけど根っこはしっかりしている方だ。完全なるちゃらんぽらんではない。そもそもそうじゃなきゃこの学校には来られないはずだし。


「でも、わざわざ好き好んでしゃべる必要はないと思うんだけど、それで良いんだよね?」


「ええ。その辺りはエイトさまの自由にしてくださって全く構いません」


 カリーナの返答にセーラも頷く。


「まぁ……そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、用心のためにも俺からわざわざ誰かを集めて話すようなことはしないから」


 信頼をしてもらえるのは嬉しいが、しっかりと弁えるところは弁えなければいけないだろう。


「だから、ふたりがいつか、そういうことを話せそうな機会が欲しいと思ったときには必ず協力する。……そういう感じでいい?」


「もちろんです!」


「その配慮だけでもありがたいよ」


 これでこの点については双方の合意が為されたと言えそうだ。


信頼、大事。

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