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2-2. 美少女と抱擁

ダイレクトなサブタイトルにしてみました。

        §



「……え?」


 第一声がコレ。情けない。

 さっきまでは音ひとつも聞こえないような空間だったり、誰もいなくなってしまったセカイみたいな場所に居たせいか、声が聞こえたり人を見たりしただけで張っていた気持ちが急激に緩んでしまったらしい。


 だけど、そんな情けない俺を見て、向かいに立つふたりは微笑んでいた。


 右側に立っている娘は穏やかで優しい顔立ちで、ふんわりとしたロングヘアーの女の子。


 もう片方、左側の娘は対照的に凜々しさもある顔立ちで、すらりとしたロングヘアー。


 そして、ふたりのそのロングヘアーは、プラチナブロンドと形容するべき色合いだった。


 (たい)(せい)()()()先輩が昨日見たというふたりの少女とは、きっとこの目の前の彼女たちのことなのだろう。

 何故だか妙にそのプラチナブロンドの髪は、まるで彼女たちのために設えたようにアリスト学園の制服にとても似合っていた。


 そして、これはもちろん俺の推測の域は出ないが、もしかすると俺の夢に何度か出てきた人というのも、このふたりなのかもしれなかった。


「エイトさま……」


 右側の娘が、噛みしめるように俺の名前を呼んだ。

 思わずそちらに視線が引き寄せられる。


「エイトさまっ……!」


 キラッキラの目をこちらに向けて、世界の中心あたりでラブを叫ぶみたいにして、俺の名前をもう一度呼んだ。心地の良い声だ。心地の良い声なのだが、とにかく俺は何を帰せばいいのかがわからなくなった。


 どう反応したらいいか困っている内に彼女は俺の方に駆け寄ってきた。

 ただ困惑することしかできない俺をさらに困惑の渦に突き落とすように、まだ名前も知らない美少女は俺の手をがっしりと握る。

 その感触を一頻り確かめて――


「!?」



 思いっきり、抱きつかれた。



 そして、そのまま頬にやわらかな感触。



 ――ん、あれ?



 まさか、今、キスされましたか?



 ほっぺたではあるけど、間違いなくキスされましたよね?



 っていうか、現在進行形で頬擦りされてるし。



 いや、もう、何、あの、その、ほっぺただけじゃなくて、触れているところが、全部柔らかいんですけど。



「ようやくまたこうして、実際にお逢いすることができました……!」


「え? ……え、んん? あ、いや、あの、ちょっと」


 可愛らしい女の子に耳元でちょっと切なそうに囁かれて、ドキンとしない男子高校生がこの世にいるだろうか。いや、いない――と思う。居たらぜひ俺の前に名乗り出て欲しい。


 いやいや、いやいやいやいや。そう言われましても。

 生憎こちらは乾いたスポンジではないので、彼女が言う言葉をすんなりと自分の中に吸収することはできない。


 恐らくだが、彼女たちの言葉の意味を知るためには、俺自身が彼女たちについてもう少し知るべきことがある。


 そもそもこの娘はどうして俺の名前を知っているのか、とか。もしかして以前会ったことがあるのか、とか。もし会っているのならそれはいつなんだ、とか。そもそも君たちは一体誰なんだ、とか。訊きたいことは山積みだった。


「カリーナ、あまりひとりで突っ走るな。気持ちは解るが、エイトが困っているだろう?」


「え?」


 カリーナと呼ばれた女の子は、少し身体を離して改めて俺の顔を見つめて、頬を真っ赤に染めた。

 ――これは、突っ走るなということを理解したわけではないように見えるのだが、とりあえず彼女はさきほどまで立っていた場所、もうひとりの少女の隣に落ち着いた。


「ご、ごめんなさい。セーラの言う通りだよね」


「そもそも私たちは、()()()に来てから彼にしっかりと自己紹介を済ませていないな」


「そうだよね、うん。……しっかり説明しなくちゃいけないよね」


 ふたりはそう言って頷き合う。たしかに互いの名前の交換をしたわけではなかった。何故かそちらふたりは俺の名を既に知っていたようで、それは気になるところではあったが。


 それにしても、名前だ。


 カリーナに、セーラか。


 案の定というか、その髪色からもどこか異国情緒溢れる雰囲気はしていたが、どうやらそんな雰囲気の名前らしい。

 ふたりを比較すれば幾分かカリーナは優しい顔立ち、セーラは凜々しい顔立ちをしているものの、どちらも目鼻立ちもはっきりしていて、――まぁ、何だ、()(しつけ)な言い方でしかないが、自他共に認める敏感さを誇る大成の美少女センサーに引っかかるのも無理はないと思った。


 何も言えずに見つめていた俺の方へ改めてゆっくりと歩いてくるふたりには、その一挙手一投足に育ちの良さが見える。

 生徒数がとにかく多いアリスト学園での3年間でいろいろな生徒を見てきたが、やはり育ちの良さというのは普段の動作でもよくわかるものだ。簡単なところでは文字を書くときの姿勢とか、食べるときの食器の扱い方あたりだ。

 だけど、その中にあってもこのふたりの『違い』はわかる。歩く際の手の動き、指先の動きすらも、そんじょそこらの人とは違っているようだった。


 気が付けば、ふたりは俺の目の前。


 ふんわりロングストレートの方の彼女が半歩前へ出る。


「私は、カリーナ・ミラアルゴ=アヴィオールと申します。こちらの学校には()()()()()()()()()でお世話になります。私のことはどうぞ名前で、カリーナとお呼びください」


 入れ替わるように、今度はすらりとしたロングストレートの彼女が半歩前へ出る。


「セーラ・エスピリア=ヌーベルリュンヌ。カリーナと同じく()()()()()()()()で入学することになった。私もファミリーネームが長いので、セーラとでも呼んでもらえれば」


 そして、息を合わせるように、ふたりはお辞儀をしてみせた。



うらやましいぞ。

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