2-1. 謎のセカイが開けた先には
ようやくタイトルの要素が出せます。
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「……見慣れない場所だな」
どこか違う世界にでも飛ばされた時に呟かれる言葉ランキング第17位くらい(当社比)のセリフが、ぼんやりと自分の口から出ていった。
「見慣れないっつーか、そもそも何も見えないけど」
周囲を見回すが、濃い霧か煙にでも包まれているようになっていて、真っ白で何も見えない。本当に霧が立ちこめているのなら、肌に触れる水分のようなモノがあるはずだが、今はそれがない。きな臭い感じもないので、どこかで火事が起きているということもなさそうだった。
「これは、夢か?」
今度はどこか違う世界にでも飛ばされた時に呟かれる言葉ランキング第12位くらいかもしれないセリフを吐いてみる。
「……っていうか、何だこの既視感」
つい最近も同じ様なシチュエーションで同じようなセリフを言った気がするのだが、あれはいつだっただろうか。
「あぁ……」
深く記憶を掘り起こそうとするが、それは目の前に転がっていた。
びっくりするほどにあっさりと思い出してしまう。
「……夢の中だ」
何のことはない。これは今朝にも、その前にも見た夢だ。夢なんてそうそう見ないタイプ、もしくは見たことを起きたら忘れているタイプのクセして、何故だかこれは一丁前に覚えていたから解る。
しかし、夢だと解ったからといってどうにかなる話でもなさそうだ。普段起きて生活している空間と同じで、自分の身体を自分の視界に捉えることはできている。だから一応歩くこともできている。
だけど、いくら歩いても歩いても、周りの風景が真っ白なままで動かないのだからどうしようもない。
ただそれでも、誰もいなくなった学生寮と真っ白な夢の世界とを比べて『いくらか見覚えのある場所に来た』と思ってしまう辺り、もしかすると自分の神経はやっぱりどうかしてしまっているのかもしれない。まともじゃないことを自覚して、何だか笑えてきそうになる。どこで違えてしまったのやら――って、パッと思い付くのはやはりここの中等部に入ることになる直前くらいなのかもしれないけれど。
「どうでもいいな」
今はもう少し建設的なことを考えるべきだろう。それはわかる。
だけど、この状態で建設的な考えって何だろうとも思ってしまう。
こんなところに長居をしても仕方が無いが、だからと言って脱出方法を知っているわけでもない。
「どうしよう」
じゃあ、こうしよう――と、カンペや台本でもあるみたいに、すぐに優れた代案が出せるわけもなく、俺はただ薄ぼんやりと棒立ちになるしかない――。
「……っ!?」
今度は、さらに強く周囲が光り輝き出した。映画か何かで見たような気もする、大きな爆発物が炸裂するときの光にもよく似た光り方だ。
思わず怯む。防御本能は俺にも備わっているらしく、身体が少し縮こまった。
とても目を開けられるような状況じゃなく、反射的に目を閉じる。さらにその上から手で覆う。それでもまぶしくて、全方位からまぶしいのにも関わらず顔を背けようとしてしまう。
――時間にして、10秒くらいだろうか。
少しずつ、苛烈だった輝きが落ち着いてくるのを感じて。
ゆっくりとその明るさに慣らすようにして、目を開けていくと――。
「……は?」
――そこは屋上だった。
恐らくここは特別教室棟群の中にある情報教育棟と言われる建物の屋上。アリスト学園の建物の中でもそれなりに高層な建物だ。
アリスト学園中等部で過ごした3年間で、もはや見慣れてしまった風景だ。
眼下にはさっきまで居たはずの学生寮群。他にも一般教室棟やら大講堂やら、センターホールも見える。遠くにはそれなりに高い山と。反対側にはギリギリで水平線も見える小高い丘陵に作られている分だけ眺望も良い。
風が屋上を吹き抜けていく。朝の春風。昨日よりも陽射しが強いせいか、かなり心地の良い風だ。お昼くらいにはお弁当を広げてみるのなんて良いかもしれないとさえ思える。勝手に屋上に上がれたかどうかはこの際別問題だ。
そして、音が聞こえる。学生寮にも比較的近いここにも、遠くの方から話し声が聞こえてくる。幾分か緊張したような声を包み込むように、出迎えるような元気な声が重なっていく。緊張している声は今日入寮をするべくやってきた新入生で、出迎える声は当然ながら彼らをサポートすべくやってきた生徒だろう。先ほどの無音地帯は何だったのかと思えてしまう。
だけど――――。
それ以上に今は、彼女たちに注目しなくてはいけないのだろう。
なぜなら、俺の目の前には。
「驚かせてしまって、ごめんなさい」
「非礼を詫びるよ」
今朝の夢にも出てきたはずのふたりの美少女が、アリスト学園の制服を着て、そこに立っているから。
いったい誰なんだろう……。