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1-10. 誰も居なくなった……?

サブタイトルは、もちろんあの小説をオマージュ。

 身支度は調えた。動きやすい恰好が良いだろうということで、今日は大成との付き合いで何となく買った紺色のトレーニングウェアを着ている。昨日のモノとはちょっと違っていて、こっちの方が微妙に高い。その分だけしっかりと品質も良いので満足はしている。


 朝飯は昨日の内に購買で買ってきたものだ。いつものように、適当に棚から引っ掴んできたおにぎりと、一応おかずになりそうなモノを数点。しっかりとしたキッチンもついている部屋に住んではいるが、残念ながら朝からしっかりと作る気にはならない。いや申し訳ない、ウソを吐いた。昼も夜も、毎日そこまでしっかりと作る気にはなってない。たまにはしてるけど。これでも家庭科は昔から得意な方だ。


 正直なところ、この学校の購買は、もはやそんじょそこらのスーパーマーケットを通り越してショッピングモールくらいの規模感はあるが、名義的にはアリスト学園の購買だ。マンモス校はやることが違う――とかいうレベルでもないかもしれない。


 貴重品の類いを確認し、部屋の電気やらなんやらがオフになっていることを確認し、手元にしっかりと部屋の鍵があることも確認する。


 ――大丈夫だ、問題無い。


 何となく大丈夫そうじゃない言葉が脳内に響いた気がしたが、問題はない。きっとだ。


 部屋の鍵を閉め、自分の両頬を軽く張ってから玄関へと向かうことにした。






 違和感に気が付いたのはエレベータで1階まで降りてきたときだった。


 妙に静かな気がする。とにかく物音がしない。


 おかしいなぁとは思いつつ玄関前までやってくると、まだ生徒会の人たちの姿もない。他の手伝いに来た生徒の姿もない。


 珍しい。昨日は俺が着いたときには大半の役員が既に揃っていて、いちばん近くに居た子がすぐさま「新入生サポートの方ですか?」と訊いてきたりしたのだが。


「……あれ?」


 時間を間違ったかもしれないと思ったが、そうではなかった。スマホの時計も寮の玄関に取り付けられている時計も同じ時刻――7時45分を指している。昨日と同じ、集合時刻の15分前だ。


「いや、さすがにそんなことは……」


 さっき部屋の前でやったように自分の頬を軽く叩いて、一瞬だけ脳裏を過った良からぬ妄想を弾き飛ばす。今度は玄関から少し離れたところを見て回ることにする。


 とはいえ、そこまで見て回れる領域はない。談話室、休憩室、購買ほどではないけれどもそれなりに大きな売店。ひとまずザッピングをするくらいの感覚で見ていく。





 ――結局、誰も居なかった。





「……んん?」


 思わず首を傾げる。その瞬間、さっきどこかへと弾き飛ばしたはずの妄想が、また俺の脳を食い荒らそうと戻ってきた。


 まさか、俺はまたおかしな夢を見ている――?


「いやいや。……いやいやいやいや」


 自己否定。おかしな考えを脳内から『いや』という発音で必死にかき消す。


 が、そんなことで消えてくれるような問題でもなかった。


 待てど暮らせど、誰も来ない。そうだ、よく考えればエレベータホールに来てみても、エレベータが上がっていく音もしていないし、誰かが降りてくることもなかった。



 というか、よく見たら寮監室にも誰も居ない。



「いやいやいや……。ちょ、っと待って」


 独り言も喉の途中で引っかかって、うまく出てこなくなる。呼吸も浅くなってくる。このままでは過呼吸まっしぐらだ。手近なところにあるベンチに腰を下ろして、とりあえずは気持ちを落ち着かせるところから始めてみる。


「……落ち着けるかっての」


 土台無理な話だ。


 ふと気が付けば周りには誰もいないだなんて、さながら時々ネットを賑わす『ナントカ駅』的なホラー話か、あるいは神隠しか。神隠しであれば、俺以外の全員が遭ったと考えるよりも、俺だけが遭ったと考えた方が妥当なんだろう。


 だけど、きっとそういう問題じゃない。


 とりあえず、何か打開策を講じてみよう。


 ――叫ぶか。


 どうせ誰もいない。誰もいない空間では声が必要以上によく響くだろう。


 もし何かが居たのなら――まぁ、それはその時だろう。


 大きく息を吸い込んで。


 廊下の隅々まで通るように。


「誰かー! 誰かいませ――」







 ――――叫んだ瞬間。


 辺りは、光に包まれた。


これにて第1章終了。

いよいよ「異世界要素」出てきます。

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