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1-1. 謎のセカイと新生活

「古き良きハーレム系ラブコメ(異世界要素もあるよ)」的なお話です。

いっぺん書いてみたかったヤツです。

楽しみながら書いていきますが、あくまでもみなさんが楽しんでいただけることを最優先にして行きます。

何卒、何卒。

「……見慣れない場所だな」


 どこか違う世界にでも飛ばされた時に呟かれる言葉ランキング第17位(当社比)のセリフが、(もや)のようにぼんやりと自分の口から出ていった。


「見慣れないっつーか、そもそも何も見えないけど」


 周囲を見回すが、濃い霧か煙にでも包まれているようになっていて、真っ白で何も見えない。本当に霧が立ちこめているのなら、肌に触れる水分のようなモノがあるはずだが、今はそれがない。きな臭い感じもないので、どこかで火事が起きているということもなさそうだった。


「これは……、夢か?」


 今度はどこか違う世界にでも飛ばされた時に呟かれる言葉ランキング第12位(当社比)かもしれないセリフを吐いてみる。


「ここまで実体の無い夢も珍しいけどな。そもそも夢ってあんまり見るタイプじゃないけど」


 この3年と少しの間、学校にいる間はともかくとして、それ以外の時間は独りで居ることが増えたからか、独り言も増えたとは思う。でも、これはたぶんそういう理由での独り言じゃない。間を保たせないといけないような得体の知れない何かを、きっと俺は心か頭のどこかで感じているのだろう。


「誰かー……。誰かいませ――」


『はい』


「んはひいぃっ!?」


 びっくりした。何も見えない空間から女の子の声がした。同い年か、やや年上の先輩くらいを想像できそうな感じ。そして、とても透き通った声だった。


 (よわい)十五を迎えた男子たるもの、そんな情けない声を出すなどけしからん――。そんな頑固一徹オヤジ的なセリフが脳内に響く。でも仕方ない。こんな得体の知れない空間に放り出された挙げ句、いきなり自分以外の誰かの声がしてきたら誰だって焦るはずだ。そうだろう。お願いだ、誰かそうだと言ってくれ。


「え、誰? 誰なんだ?」


()()()()()には、こちらが見えていますか?』


「いや、そもそも真っ白で何も……」


 というか、この人はどこから話しかけているのだろうか。ふと冷静になってしまう。向こうからはこちらの声は聞こえてるし、こちらの姿も見えているということになる。


『でしたら、それで問題ありません』


「へ? あ、そう。そうっスか……」


 そうなんだ。


 ――いや、こちらとしてはそれで何がどう問題がないのか、まったくわからないのだが。


『これは、ちょっとしたテストだったのです』


「テスト……?」


『はい、テストです。お手を煩わせてしまいまして、申し訳ございません』


「いや、まぁ、うん。とくに俺は、何もしてないと思いますが」


 本当に、気が付いたらココに居ただけだ。そして話し相手に影響されて、何となく敬語になってしまっていた。


「そのテストとやらの詳細については」


『禁則事項です』


 どこかで聞いたことのあるような気がする、ある種の常套句とも言えそうなセリフで、俺の質問は華麗に遮られた。


『ですが、これで今回のテストは無事終了です。何も問題がないことを確認できました』


「あ、そうなんですか」


『はい、ご協力ありがとうございました』


「いえいえ、こちらこそ」


 意味も無くお辞儀。誰に見えてるわけでもないだろうけど。


 ――あ、違う。この人には見えている可能性はあるのか。


『良かったです。これで4月からも安心です』


「それはそれは……ん?」


『それではお身体には気を付けてくださいね。もしかするとまた同じようなことをするかもしれませんが……お会いできる日を楽しみにしています』


「え、ちょっと待っ――――」


 どういうことかわからないが、それに加えて周囲が一気にまぶしくなった。


 もう何が何だか分からない。


 そしてせめて、どうして俺の名前を知っているのかくらい教えて――――――




        §




「――――――!?」


 窓からこれ見よがしに注ぎ込まれる朝日。照らし出される部屋には、ほとんど何も残っていない。まだ夏にはほど遠い時期。掛け布団はすべて床に落ちている。それなのに、備え付けのベッドから跳ね起きた俺は、とんでもない量の寝汗をかいていた。


「さっきのは……何だ?」


 夢――であっているのだろうか。俺はそもそも、夢を翌朝にまで記憶に留めておけるタイプではない。見ていたかどうかすら記憶に留められないタイプだ。たしかに目に見えていたような光景は真っ白以外になにもなく、まさに非現実の塊だったように思える。だけど、会話をした内容は覚えているし、話をした相手の声もはっきりと頭に残っていた。


「……よくわかんねえな」


 よくわからないのが夢だとも思う。雲よりも掴み所が無くてとりとめのないモノの塊でしかない、夢らしさ全開の夢だと片付けてしまうのが、きっと精神衛生上よろしいはずだ。


「まぁ、いいか……」


 それ以上に今は、自分の額や顔のべたつきの方が気になった。夢のことをいつまでも引き摺っていたって仕方が無い。数度自分の頬を張りながらベッドから降り、洗面台へと向かうことにした。







 春。まだ桜が咲くには肌寒いような頃合い。中等部の卒業式を終えてから約2週間後の今日は、その中等部の学生寮の退寮期限日――要するに追い出される日となっていた。


 昨日は寮のホールで追い出しコンパのようなモノが開催されたが、とくにこれと言ったことはなかった。というか、最初こそ強制参加ではあったが間もなくして自由参加時間に切り替わったため、これ幸いとばかりにこの部屋に戻ってきた俺にとっては、特筆することなど何もなかったという話だ。俺の悪友も『男子連中だけの集まりに長時間居てもつまらん』などと言って、俺とほぼ同時に戻ってきたくらいだ。


 そもそもほとんどの生徒はまだ3年間同じ学び舎に通うわけなのだから、がっつり追い出されるような感覚はなかった。


 今日をもって自分の部屋ではなくなる1K構成のこの空間には、備え付けの家具類――ベッドと机や棚以外は何も残っていない。昨日のうちに個人的な荷物はまとめ終わっていて、高等部の学生寮へと運んでくれる荷物運搬車に預けてある。今頃は向こうの寮の玄関先にでもまとめて保管されているはずだ。


 貴重品だけが入っているリュックを背負って部屋を出る。


「……ありがとうございました」


 近くに誰もいないことを確認してから、ガラにもなくそんなことを呟いてみる。この3年間、俺を守ってくれた部屋だ。感謝を告げても損はしないはずだ。


 部屋の鍵を預け寮の外へ出れば、俺は完全にこの寮の住人では無い。そして1週間もしない間に清掃業者がやってきて、俺が住んでいた形跡は跡形もなくなるのだ。


 感傷的な気分にならないわけではないが、どうせここから数百メートルほどしか離れていないところが新しい根城になる。ある意味これは通過儀礼のようなモノなのかもしれなかった。


 俺は最後に寮の建物にも一礼だけして、背を向けた。

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