怪奇幻想
町にはビルがいっぱいあって、その隙間全てに幼い僕がぎっしり詰められているの。
乳児の僕幼児の僕児童の僕それらいっぱいぎゅうぎゅうにつまって
遊んだり笑ったり泣いたり絵本読んだりしてるの。
絵本を、僕を、捨てました。
僕にも子供時代があったという証拠を捨てました。
ピアノを、僕を、捨てるのです
ピアノを弾くのが好きだった僕を捨てるのです。
自分でさえも忘れてしまった自分がこの世にはたくさんいて、
それは誰かの頭の中とか、写真の上とか、絵本の隙間とか、駄菓子屋とかに残されている。
そこにさえ居場所のないやつは、ビルの隙間に暮らしているんだ。
誰も住んでいない窓に暮らしているんだ。人の来ない屋上に住んでいるんだ。体育館のギャラリーで遊んでいるんだ。
ときどき顔を上げてやつらと目が合うと、
片手上げて挨拶してくれるんだ。
駄菓子屋がなくなった
紙芝居屋はもう来なくて
空地はマンションになって、
写真はデータになって
絵本は灰になったから、
僕はだんだん死んでいく。
失ってしまうのが少し怖い
忘れていくのが少し怖い。
久しぶりに通る道に立って気づかないうちに三歳になっていて、
本棚をあさっていたら五歳の僕が顔を出して、
大掃除してたら幼稚園みたいになっちゃった。