反応
"事件発生から約16時間後の10月16日の午前4時5分、機動隊が突入。傷害・監禁・恐喝の容疑で、住所不定、無職の真部一男(32)容疑者を現行犯逮捕した。幸い、人質となった幼稚園職員と園児に怪我人はいなかった"
釈然としない気持ちで新聞をベッド脇のゴミ箱に投げ入れた。結局俺は現場で失神し、そのまま病院のベッドに逆戻りだ。
もう、現場に立つのは控えるべきなのかも知れない。俺のようにすぐ熱くなる人間が先頭に立つ時代は終わったのだ。警察官も職業の一つ。今村のように割り切って働くのが正しいのかもしれない。
ぼんやりと今後のことを考えていると、病室に足音が響いた。病院には不似合いな高いヒールの音だ。
「村田さん?」
現れたのは黒髪をアップにし、黒のドレススーツに身を包んだ夏木マミだった。
「夏木さん!どうしてこんなところに!?」
「あの電話の後に倒れたって聞いたからよ。流石に心配になったわ」
お見舞いの品だといって、高そうな箱に入ったゼリーを渡された。
「お構い出来ずに申し訳ありません」
「あら、病人がそんなこと気にする必要ないのよ」
丸いスツールに座って脚を組む夏木マミの姿はやはり女優で隙のないカッコ良さがある。
「いいヌードだったわね。村田警部」
「……やめて下さい。恥ずかしくてテレビもネットも見ていないんです。田舎の母親からの電話もひたすら無視していますし」
「ふふふ。世間に貴方の事を否定している人なんていないわ。堂々としていなさい。きっとお母さんも貴方の事を誇らしく感じているでしょうね」
「そんなもんですかね?」
「そうよ。そんなしょぼくれた顔をしてないで、これでも見て元気を出して」
そう言って渡されたA4サイズの封筒にはそれなりの厚みがある。
「じゃあ、私は行くわ。あまり興奮しちゃ駄目よ」
ヒールの音がまた病室に響き、やがて聞こえなくなった。
しんとした病室で封筒の口を開けて、中を覗き込む。
……ふん。なかなかどうして、65歳の夏木マミも素晴らしい女性じゃないか。詳しく観るのは夜にしよう。
ヴヴヴヴヴヴヴ……
ベッドに転がしていたスマホが震える。ゆっくり拾い上げてみると、相手は田舎の母親だ。
今までは無視していたが、あまり年寄りに心配をかけるものではないな。通話ボタンをタップする。
「電話出れなくてごめんな、かあちゃん。俺は──」
"この恥晒しがぁ!!"
「ひっ」
この後、俺はただひたすら謝るのだった。