エビフライとの戦い
暗い森の中。
目の前に、数匹のゴブリンがいる。その奥には親玉だろうか、エビフライの被り物をした『何か』の姿。勇者は背中を向けることなく、大剣を構えていた。
「あーひゃひゃひゃひゃひゃ! お前らァ……やっちまえぇぇぇ!」
統率のとれたゴブリンの群れが、一斉に勇者へ迫る。
怪人エビフライ男は両手からエビフライを出し、それをジャグリングのように手で回す。
それから、勢いよくエビフライが射出された。熱々のエビフライが口に入るものならば、すぐさまやけどするだろう。
そんな連撃を上手いこと剣で受け流し、勇者は剣を配下のゴブリンへ。一匹、二匹と首を断ち切る。全てのゴブリンを一掃すると、勇者は剣をエビフライ男へと向けた。
「そこまでだ! くだらない真似はよせ!」
「んん? なんだと? なぜエビフライの良さを誰も知らない! なぜエビフライに執着しないんだ……! 俺はこの世界の全ての人間に、エビフライで屈服させてやるんだよォ!」
そして、エビフライを射出。熱々のエビフライを剣で弾き、勇者は吠えた。
「その前に、食べ物を粗末にするんじゃないッ!!」
ゴブリンは血にまみれ、倒れ伏している。残すはエビフライ男のみ。
勇者は怪人に接近して、
「うおおおおおおおおお!!」
飛び上がった。
そして、上段からの振り下ろし。
「させるかよォ!」
エビフライ男はピンポイントに──勇者の口元目掛けてエビフライを飛ばした。
──ぱくっ!
「あ、あっつうううううううううう!? っ、う、上顎がぁぁぁぁぁぁ!!」
勇者はエビフライ男の足下でのたうち回り、恐ろしいほどの熱に悶える。そしてエビフライ男は足を勇者の頭の上に乗せて、踏みつけた。
「あひゃひゃひゃひゃひゃ! どうだ! 苦しいか? 勇者め!」
「う、うおおおおおおおおお!」
エビフライ男の足首を両手掴み、持ち上げる。
「な、なにっ!?」
勇者は再び立ち上がって剣を突きつけると、大きな声で言い放つ。
「俺は勇者だ! 勇者は負けられないんだ……っ!」
光よりも早い一閃。
「ぐっ、なぜ……っ! ぐわぁぁぁぁぁぁあ!!」
首をはねられ、怪人エビフライ男は敗北した。
「──悪いな、俺は……ヒレカツ派なんだよ」
こうして勇者は、またしても平和の道を一歩進んだのである。