マクシミリアン邸へようこそ!ー後編
「こちらでございます、ドロシー様。」
わたしたちの目の前にあるのは、いたって普通のお屋敷の玄関だ。
その扉は幅広でとても大きく、鋼鉄で出来ているであろうそれは重厚なフラットブラックで塗装されている。
蒸気式の機械錠で厳重に施錠されており、扉中央部にはマクシミリアン家の家紋である『薔薇十字に磔にされた少女人形』が彫刻された真鍮製のレリーフ。
陽光を浴びてきらりと輝く。
扉の側面にはカードリーダーが設置され、半球型のランプが無機質な赤い光を煌々と灯している。
「少々お待ち下さい。すぐ扉を開けますので。」
アーサーさんは懐からパンチカードを取り出すと、扉の側面にあるカードリーダーにそれを差し込んだ。
ジ……ジジ……
読み取り機が微かなゼンマイ音を立て、穴だらけの白いカードをゆっくりと飲み込んでいく。
ピコン!
軽快な電子音が鳴り、カードリーダーの赤いランプが消え、代わりに青いランプが点滅する。
ガゴン!プシュー!
圧縮蒸気を吐きながら機械錠が次々と外れていく。
扉中央のクレストがガチャリという音を立て360度回転。
地響きのような音とともに鋼鉄ドアが開いていく。
「ささ、どうぞこちらへ。」
アーサーさんがうやうやしく一礼し、屋敷内へわたしたちを招き入れる。
玄関ドアを抜けたわたしの視界にまず飛び込んできたのは、思わず息をのむような煌びやかで美しい光景だった。
そこはいかにも貴族の住むお屋敷といった感じがする、吹き抜けの玄関ホールだった。
白を基調とした清潔感あふれる内装。
壁にかけらた歴代マクシミリアン家の当主の肖像画。
天上から吊り下げられた豪奢なシャンデリア。
床一面にはよく磨かれた大理石が敷き詰められており、暖かな照明に照らし出されキラキラと輝いている。
「ほぇ~~……、すっごい……。」
目の前に広がる煌びやかな空間。
そのあまりの美しさに私は思わず息をのむ。
「すごいお屋敷ロボ……。まるで王宮みたいロボ!」
「きれ――い!まるで絵本にでてくるお城みたい‼︎」
ステラとロボ丸もこの場所を随分気に入ったようだ。
キラキラと目を輝かせ、まるで子供のようにはしゃいでいる。
とても穏やかで可愛らしい光景だ。
「昼寝には不便そうな場所だにゃ~。ちょっとキラキラしすぎて目にうるさいにゃ。」
レオナよ……お前は昼寝のことしか頭にないのか?
「ニアお嬢様!ドロシー様御一行をお連れしました!」
「ご苦労様です、爺や。」
ホールの奥の扉がゆっくりと開き、中から凛とした声が響いた。
中から悠然とした仕草で歩み出たのはニアちゃんだった。
スパンコールの散りばめられた桃色のドレスに身を包み、髪をポニーテールにまとめている。
彼女はわたしたちの前まで歩み寄ると、ドレスの裾をつまみあげ優雅な仕草でお辞儀した。
「ようこそ、ドロシー・アプリコット様。お待ち申し上げておりました。わたしはニア・マクシミリアン。現マクシミリアン家の当主、マイケル・マクシミリアンの一人娘です。そしてこちらが……、お梅、こちらに来て御挨拶なさい。」
ニアちゃんが頭を下げたままの姿勢で自分の足元に向かって声を掛けた。
するとニアちゃんの足元で小さな人影がびくりと震えた。
「怖がる必要はないのよ、お梅。私を助けてくれた優しい人たちだから。……ごめんなさいね、この子、自分以外の人形にあうのは初めてだから。」
その小さな人影は、ニアちゃんに促されるままにおずおずとその身を乗り出した。
シャンデリアの煌びやかな光に照らし出され、その姿が露わになる。
艶やかな褐色の肌に、ややくせっけのある桃色の長い髪。
翡翠色の透き通った瞳に口元から覗く可愛らしい八重歯。
パステルカラーのエプロンドレスに身を包んだその魔導人形は、ぎこちない仕草でスカートの巣蒼をつまみ上げわたしたちに挨拶した。
「ど、どーも、お嬢の恩人の皆さん。あっしはお梅。僭越ながらお嬢の舎弟を務めさせていただいてやす。どーぞよろしく!」
_続く




