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ニアちゃんのお屋敷に出発だ!

 アパートのポストにニアちゃんからの封筒が届いた翌日、わたしたちは共和国中央駅前で迎えの馬車を待っていた。


 封筒の中に収められていたのは一通の手紙。

内容はこうだ。

『助けていただいたお礼がしたいのであなた方をお屋敷へとお招きしたい。迎えの馬車をよこすのでこちらが指定する時間と場所でお待ちください。』とのこと。


 何やら怪しげな手紙である。

さてどうしようかとみんなで色々と話し合った結果、どうせ暇なんだしみんなで一緒に行ってみようということになって今に至るというわけだ。


 わたしは駅前の歩道からあたりをぐるりと見渡した。

さすがは都心部といったところか、まだ早朝というのに多くの人々が行きかい、口から白い息を吐きながら各々の目指す場所へと足を運んでいる。

駅前のロータリーには蒸気馬に引かれた送迎馬車が停車し、行き交う人々を乗せてどこかへ走り去っていく。


 「しっかし、遅いわねぇ〜〜。」

 ロータリー中央の大時計に目をやると、時間は午前八時半。

手紙で指定された時間は八時ちょうど。

約束の時間から既に半刻も過ぎている。

いくらなんでも待たせすぎだ。


 「いったいいつまで待たせるつもりかしら?」

「本当に場所はここであってるロボ?」

「うん、ここで間違いないはずだけど……。」

わたしはよそ行きの外套の懐から手紙を取り出し、もう一度内容を確認する。

共和国中央駅前、午前八時。

日付も今日で間違いない。


 「まったく、自分から呼び出しといて遅刻だなんて、なんて身勝手なのかしら!」

わたしは怒りで頬を膨らませながら壁に寄りかかる。

あと三十分待って来なかったら、そのまま家に帰ろう。

そんなことを考えながら手元の封筒を睨みつけた。


 「うん?」

暇つぶしに手元で封筒を弄んでいると、わたしはあることに気づいた。

「この封蝋の紋章……どこかで見たことあるような……?」

どこか既視感のあるデザインだが、いまいち思う出せない。

「なんだっけ?」

壁に寄り掛かりそんなことを考えていると、遠くから蒸気馬の蹄の音が聞こえてくる。


 「マスター見て!あの馬車こっちに近づいてくるよ!」

ステラがわたしの肩の上で飛び跳ねながら馬車の方を指さす。

ステラの指さす先には、黒い蒸気馬に牽引された真っ黒い馬車。

ご丁寧に御者の服装まで真っ黒ときている。


『ヒヒ―ン!!!!』

エナメルブラックの蒸気馬が馬の嘶き声に似た合成音声を発し、関節から圧縮蒸気を噴き出しながらわたしたちの前で立ち止まる。

封蝋の紋章と同じマークがペイントされた馬車の扉が滑らかにスライドして開いた。

そして低いモーター音と共にタラップが降りてくる。

馬車の扉をくぐり中から現れたのは、執事服に身を包んだ気の弱そうな初老の男性だ。

老執事はハンカチで額の汗を拭いながら、申し訳なさそうな顔で挨拶した。


 「はぁ、はぁ、ドロシー・アプリコット様でございますね?わたくしアーサー・クロックと申します。お嬢様からの命により、あなた様をお迎えに参りました。」

「アーサーさん、でしたっけ?約束の時間から三十分も遅れてるんですけど?」

わたしがむっつりした顔で文句を言うと、アーサーさんはしまった!という表情になり、顔を青ざめた。


 「も、申し訳御座いません!このあたりの道は不慣れでございまして、その、わたくし少々道に迷ってしまいまして……その……あの……誠に、誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

アーサーさんは今にも土下座しそうな勢いでわたしたちに向かって頭を下げる。

通りを行き交う人々が何事かと訝し気な視線をこちら向けてくる。

その刺すような視線にいたたまれなくなり、必死にアーサーさんをなだめすかした。


 「あの、謝罪はもういいですから、頭を上げてください。それよりニアちゃんのところに連れて行ってくれるんですよね?早くいきましょうよ。ね?」

「おぉ、そうでしたな。これは申し訳ない。ドロシー様、ささ、どうぞこちらへ。お連れの人形の皆様方にも席をご用意しております。」

アーサーさんが懐からリモコンを取り出しスイッチを押すと、タラップの側面が展開し、中から小さな階段のようなものが現れた。

大きさから察するに、どうやら人形用の昇降口らしい。


 「はは……。ありがとうございます。それじゃみんな、行きましょう!ニアちゃんのお屋敷に出発よ!」

「「「おーーーーーーーーー!!!!!!!!」」」

歓声をあげながら人形用ののタラップを駆けあがっていく人形たち。

それを後ろから見守りながら、わたしも後に続いて馬車の扉をくぐる。

あぁ、何だか知らないけどどっと疲れた……。

朝からこの調子だと次はもっと疲れることになりそうな予感がする。

ぼんやりとそんなことを考えながら馬車の柔らかな座席に沈み込むように座り、わたしはゆっくりと目を閉じたのだった。



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