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ニアからの招待状

 「マスター起きて、起きてよ!もう朝だよ!」

「うーん……あと五分……あと五分だけ寝かせて。」

「もう、マスターったらさっきからそればっかり!いいから起きて!」

ステラが布団の端を掴み、わたしから無理矢理お布団を引き剥がす。


 「うひゃー!さ、寒い!」

朝の冷涼な空気に肌を撫でられ、全身に鳥肌が立つ。

身体中を駆け巡る寒気が、起き抜けで茫然としたわたしの意識を否が応にも覚醒させる。


 「ひ、ひどいよステラ!どうせ暇なんだから少しくらい寝坊したっていいじゃない!」

わたしは少し恨みのこもった瞳でステラを睨みつける。

しかしステラはわたしの抗議に一切耳を貸そうとしなかった。


 「ダメだよマスター!冒険者はカラダがシホンなんだから!ダラけた生活してるとカラダが鈍って、いざというときに大怪我しちゃうんだよ?」

「それぜんぶロボ丸の受け売りでしょ!だってとり丸の修理が終わるまであと三日もあるのよ?やることないしちょっとくらいダラけてもいいじゃない!……って、あれ?そういえばロボ丸は?」


 いつもなら寝坊したわたしを起しにくるのはロボ丸の役目である。(たまにステラ)

しかし今朝はその姿が見当たらない。

キッチンからも物音が一切しない。

まさかあいつも寝坊したのだろうか?

いや、何かにつけて几帳面なロボ丸が寝坊するなど、絶対にありえないことだ。


 「ステラ、ロボ丸はどうしたの?」

「ロボ丸ならまだトレーニングしてるよ。ほら!」

ステラがアパートの裏庭に面した窓に駆け寄り、勢いよくカーテンを開く。

外はまだ朝日が登ったばかりで仄暗く、朝靄がたちこめている。


 わたしは寒さに身を震わせながら窓に向かい、裏庭を見下ろす。

そこではトレーニングウェアに身を包んだロボ丸が、ゴブリンを模した木人相手にスパーリング訓練を行っていた。


 「フッ、フッ、ハッ!」

ロボ丸は拳を顔の前で構え、軽快なフットワークを刻む。

トレーニングに臨む彼女の眼光は鋭く、目の前の木人目掛けジャブやフックを繰り出す。

ロボ丸が拳を振るうたびに傷だらけの木人が軋み、揺れる。


 「イヤァァァァァァァ!!!!」

ロボ丸は身を低く屈め、滑るような動きで鋭い右ストレートを打ち込む!

ロボ丸の拳の直撃を受けた木人が、一際大きく揺らいだ。

ロボ丸の飛び散る汗が陽光を浴びて輝き、汗で蒸れた爆乳がたわみ、揺れる!


 「さすがロボ丸!今日も精が出るわね~

わたしは裏庭で修練に励むロボ丸を見下ろし、ボーっとした口調で呟いた。

以前の闘いでスライム巨人に負けて以来、彼女は己れの不甲斐なさを恥入り、訓練のレパートリーを増やしたのだという。

そのためか最近では、わたしを起しにくるのはステラの役割になっている。


 程よく手入れが行き届いた裏庭には、木人以外にも人形サイズの小さなサンドバッグやダンベルなどが転がっている。

いずれの器具も細かな傷にまみれており、あちこちに補修した箇所が見られる。


 このアパートの裏庭はロボ丸専用のトレーニング場になっている。

裏庭の掃除を定期的に行うことを条件に、大家さんに特別に許可を得たのだ。


 ここは人間にとっては酷く狭い場所だが、人形たちにとっては充分すぎるほど広い。

実はステラもよくこの場所で、ロボ丸相手に組み手を行っていたりするのだ。


 「このくっそ寒いのによくやるにゃ〜。」

いつのまにかわたしの隣に座っていたレオナが、やれやれといった口調で呟く。

「レオナ、アンタもサボってないでトレーニングでもしてきたらどう?ロボ丸の勤勉さを少しは見習いなさい!」


 「いっつも寝坊してるアンタにだけは言われたくないにゃ〜。それににゃ〜は元から強いから訓練なんて必要ないのにゃ〜。ライオンは鍛えないのにゃ〜。」

まるで昼寝する猫のように窓辺に寝そべりながら、したり顔でそんなことをぬかすレオナ。

更にはムカつくニヤケ笑いまで浮かべているではないか。

このクソネコ……いっちょわからせてやろうじゃないの!


 「な〜にがライオンよ、この駄ネコが!」

わたしはレオナの首根っこを掴んで持ち上げると、ガラリと窓を開いた。

「ロボ丸!レオナがアンタとトレーニングしたいって!」

「にゃにゃ?!ご主人、アンタ何言ってるにゃ?!」


 わたしはジタバタ暴れるレオナを無視し、外の訓練場目掛けてポイと放り投げた。

「にゃにゃ〜〜〜〜〜?!」

叫び声を上げながら落ちていくレオナ。

しかし空中で身体を捻り、猫のように見事に着地する。


 「おぉ!ちょうど組み手の相手が欲しかったところロボ!

レオナも本気でかかってくるロボ!」

ロボ丸が指の骨をゴキリと鳴らし、こぶしを構えファイティングポーズをとる。


 「い、いやあの……にゃ〜は無理矢理ここに投げ込まれて、戦う気はないっていうか……。」

「問答無用!かかってこないなら、こっちからいくロボ!」

ロボ丸は一気に距離を詰めると、レオナ目掛けて正拳突きを繰り出した!

「にゃにゃ〜〜?!あんまりだにゃ〜〜!」

レオナは咄嗟にバク転を繰り出し、寸でのところでこれを躱す!


 「にゃ〜〜!降参ですにゃ〜〜!もう勘弁してくださいにゃ〜〜!」

「待てロボ!まだトレーニングは始まったばかりロボ!」

逃げ惑うレオナを追いかけるロボ丸。

そんな微笑ましい(?)光景を横目に、わたしは茶の間へと足を運んだ。


 ググーッと伸びをしながら、ドッカと座布団に腰をかける。

「マスター!今日の朝刊持ってきたよ!」

ちょうどいいタイミングで新聞とチラシの束を持ち上げたステラがトコトコとこちらに向かって走ってくる。


 「ありがとう、ステラ。」

わたしはステラから新聞を受け取ると、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でてあげた。

ステラは嬉しそうににっこり微笑むと、そのまま玄関へと駆けて行った。

すごくかわいい!


 わたしは新聞を広げ、記事の内容を舐め回すように読んだ。

相変わらずどこぞの企業が政治家に賄賂を送っただの、官僚の天下りがどうのとどうでもいい事しか書かれていない。


 「……やっぱり載ってないわね……。」

わたしは落胆し、ため息を吐いて新聞を閉じた。

そう、あの事件の記事が載っていないのだ。


 既にあの事件が終わってから四日も立っているというのに、一向にあの事件が新聞に載る事がないし、わたしたちに新聞記者が取材にくる事も一切なかった。

あれだけの大事件なのに、これはいったいどういうことなのだろうか?

なんとも奇妙な話だ。


 「……あら?」

新聞を放り投げ、チラシの束を手に取ると、その隙間からヒラリと何かが舞い落ちた。

何かと思い手に取ってみると、それは封蝋が施された白い小さな封筒だった。


 「誰からかしら?」

封筒の裏を見てみると、そこには可愛らしい丸文字で『ニア・マクシミリアン』と書かれていた。







_続く







 



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