実戦テストだ!メイガス・ギア〜その4〜
平原での兵装試験を終えたわたしたちは、次の試験を行うため、近くにある洞窟へと赴いていた。
つい先ほど兵装試験を行った平原から、さらに東に歩いて三十分程度。
そこにあるのは、小さな雑木林の奥に隠された鍾乳窟だ。
洞窟の入り口は、毒々しい色合いの粘性の液体がべたべたと塗りたくられており、洞窟の奥からは風に乗って、鼻を突くような酸性の異臭が漂ってくる。
この液体はスライム種の魔物が分泌するものであり、彼らの巣の周囲でよく見かけられるものだ。
モンスターの研究者によると、スライムは自分の縄張りを主張するために、この種の粘液を巣の周囲に分泌するのだという。
これはつまり、この洞窟はスライムの巣であることを示しているのである。
次の試験は、洞窟やダンジョンなどの狭い空間においての兵装試験だ。
今回とり丸に与えられた任務は、洞窟内部のモンスターの掃討と洞窟内の正確なマップの作製だ。
視界が悪く、そして障害物も多い閉鎖された空間において、とり丸が与えられた任務を正確にこなせるかどうかをテストするのである。
今回の試験ではとり丸が単独で洞窟内に潜入し、任務を行う。
わたしたちは万が一に備えて、洞窟入り口で待機だ。
「さて、それじゃあサクサクっとはじめましょうか?」
「うむ、それでは今から閉鎖空間内での兵装運用試験を始める。ステラ殿、とり丸に指示を頼む。」
「了解!とり丸、またお仕事の時間だよ!今度は洞窟にいるスライムを倒してきて!」
「クェェェェェェェ‼︎」
とり丸はステラの声に元気よく鳴いて答えると、洞窟の深い闇の中へと飛び立っていった。
「さて、それじゃあとり丸の様子を見てみましょうか。」
わたしはタブレットを取り出し、地図モードからとり丸の一人称視点へと切り替えた。
画面には緑と黒の濃淡で洞窟内部が映し出されている。
アリスさん曰く、とり丸の眼には暗視装置なるものが組み込まれており、そのため暗い洞窟内でもまるで真昼のように周囲を見渡すことができるのだという。
「アリスさん、暗視装置は正常に動いているようです。……アリスさん?」
彼女の返事が返ってこないので、ふと視線を横にやると、彼女は訝し気な表情で何かを睨んでいた。
「アリスさん、どうしたんですか?」
彼女の視線の先に目をやると、そこにあったのはスライムの粘液だった。
「なにか気になることでもありました?」
アリスさんはわたしの問いかけに答えず、深刻そうな顔でその粘液を睨みつけていた。
そしておもむろにそれを指で掬い取ると、口先に運びペロリと舐めた。
アリスさんは渋い顔で、くちゃくちゃと粘液を咀嚼している。
「おいしいんですか?それ。」
「違うわ、馬鹿もん!これはテイスティングといってだな、モンスターの体液を口に含むことによって、含有する魔力の総量や属性などを調べるという、鑑定術の一種じゃ。」
アリスさんは口に含んだ粘液をぺっと吐き出すと、白衣の裾で口を拭った。
「へー、そんなのあるんですね。知りませんでした。」
「へーって……。これ魔術師のあいだじゃ結構有名な術じゃぞ?聞いたことないか、テイスティング?」
「いいえ、まったく。わたし、さっきはじめて知りました!」
「えぇ……。ほんとに知らんのか……。」
アリスさんは、感心するわたしのことを少し呆れたような顔で見つめた。
「それで、何かわかりました?」
「うむ、どうもこの粘液には、異常に濃い量の魔力が含まれておる。この辺りに生息する、野生の種類では考えられんほどの魔力濃度だ。おそらく、ここのスライムは禁呪かなにかで人工的に強化されておる。それに……。」
アリスさんはそこまで言うと、額に指を当て何やら考え込んだ。
「それに、なんです?」
「ドロシー殿、今すぐとり丸の後を追うぞ!もしわしの考えが正しければ、早く行かねば大変なことになる!」
「た、大変なこと?」
「詳しいことは道中説明してやる。ついてまいれ!」
アリスさんはそう言うなり、荷物を背負い、洞窟の中へと駆け出して行った。
「り、了解です!ステラ、ロボ丸、レオナ!行くよ!」
「了解ロボ!」「了解マスター!」「はいはい了解ですにゃ〜。正直めんどくさいけどやってやるにゃ〜。」
わたしとステラたちは、アリスさんの後を追って洞窟へと駆け込んで行った。
あの時のアリスさんは、すごく深刻そうな表情をしていた。
いったい彼女は、あの粘液から何を感じ取ったのだろう?
この洞窟の奥に、いったい何が待ち構えているのだろう?
……なんだか嫌な予感がする。
何か、とてつもなく強大な敵が待ち構えているような、そんな予感が。
わたしはモヤモヤとした不安を胸に抱きながら、暗い洞窟の中を駆け抜けて行った。




