デザイア邸の転移門
翌日、デザイア邸に招かれたわたしたちは、アリスさんに導かれ地下研究所に集まっていた。
「ここに来るのも久しぶりねぇ。……それにしても。」
わたしは研究所の内観をぐるりと見渡し、ふと思ったことを口にする。
「なんだか、標本の数が増えてない?」
わたしは再度、周囲を見渡して展示物を確認してみたが、どうやら見間違いや気のせいではないようだ。
あきらかに以前来た時より室内の密度が高くなっている。
とくに、生物の剝製や、植物の標本の数が増えているように感じる。
「ねぇねぇ、マスター!みてみて!」
部屋の向こう側から、ステラの呼ぶ声が聞こえる。
声の調子からすると、何か興味深いものでも見つけたようだ。
「どうしたの?ステラ?」
わたしはステラの声のする方へとひょこひょこ歩いて行った。
「え?これって……。」
「みてみて!おっきい鳥さん!」
わたしはステラが指さすものを見上げて、思わず目を丸くした。
そこにあったのは、黒くつややかな羽毛を生やした、巨大な鳥の剝製だった。
見覚えのある異様なまでに大きく長い、黄色い嘴。
それを支える巨大な頭部と、余りにも貧弱でアンバランスな体躯。
わたしたちが遺跡内のジャングルで遭遇した、古代の怪鳥そのものだった。
「アリスさん……いつのまにこんなものを……。」
わたしは半ば呆れながらそう呟いた。
他の展示物に目をやると、あのジャングルを飛び回っていた巨大トンボや変な頭のトカゲ。
おそらくあのジャングルで採取したであろう植物などが標本として保存されていた。
どうやらアリスさんは、あの後も一人であの場所へと出向いていたらしい。
「ご主人!みんな!こっちに来るロボ!」
展示室の奥から、ロボ丸の呼ぶ声が聞こえた。
「どうしたの?ロボ丸?」
わたしたちは、ロボ丸の声がする方へと駆け寄って行った。
「あれを見るロボ!」
そう言ってロボ丸は、室内のある一点を指さした。
そこにあったものを見て、わたしは一瞬絶句した。
「……あれって、蜘蛛?」
丸い鋼鉄の胴体に、そこから放射状に伸びた四本の長い脚。
コロッセオで戦ったあの小型の蜘蛛が、天上からフックで吊り下げられていたのだ。
アリスさん、まさかこんなものまで回収していたとは。
「マスター、これ、動いたりしないよね?」
ステラがどこか不安げな様子でわたしの顔を見上げてきた。
「案ずるな、ステラ殿。それは動力炉を取り外しておる。動き出したりはせんよ。」
わたしたちの背後から舌足らずだがどこか貫禄のある声が聞こえてきた。
振り返ると、そこにはいつの間にかアリスさんが佇んでいた。
「アリスさん!」
「よう!またせたな、お主ら!」
サイズの合っていない、ぶかぶかの白衣に身を包んだ幼女アリスさんは、こちらに向かって手を振り、よっ!と会釈した。
「アリスさん、何時の間にこんなもの回収してたんですか?」
わたしは少し呆れたような口調で、彼女に疑問を投げかけた。
「いやな、実はあの後何度かあのジャングルに戻って、色々と調査しておったのよ。当然、あのコロッセオにも出向いておった。そこで機能停止した蜘蛛を調べておったら、ほとんどは壊れておったが、その中でほとんど無傷に近い個体をいくつか見つけたのじゃ。これは持ち帰って調べにゃならんと思うて、この屋敷の地下に運び込んだのだ。まぁ、ここまで運ぶのはちと苦労したがの。」
アリスさんはやや自慢げな口調でそう答えた。
「それで、見せたいものってこれなんですか?」
「いや、これも見せたいものの一つではあるが、本当に見せたいものはこの先にある。ついてまいれ!」
アリスさんはそう言うと、研究所の奥に向かって、つかつかと歩いて行った。
わたしと人形たちはしばし顔を見合わせた後、アリスさんの後をついていくことにした。
さて、それから半刻ほどたっただろうか?
研究所の奥にある長い螺旋階段をゆっくりと下っていき、わたしたちはデザイア邸の最奥部にまでたどり着いた。
そこは、石造りのドーム状の空間で、アリスさん曰く昔何かの儀式に使われていた場所らしい。
「これじゃよ、お主らに見せたいものは。」
アリスさんが指さす先にあるもの。
ドームの中央部の床にでかでかと描かれた、わたしたちにとって見慣れた魔法陣。
「これって……ドワーフの転移陣?!」
いったいなんでデザイア邸の地下にこんなものが?
驚くわたしたちを尻目に、アリスさんは訳知り顔でにたりと微笑んだのだった。




