トラウマ
「ご主人……。あの敵、この前戦った蜘蛛にそっくりロボ!」
ロボ丸が顔を強張らせながら叫んだ。
『蜘蛛』。
私とロボ丸がドワーフ遺跡で遭遇した機械人形。
忌まわしい機械仕掛けの鋼鉄蜘蛛。
私たちは死力を尽くし戦ったけど、結局あいつには一歩及ばす敗北を喫した。
目の前の敵は、あの蜘蛛にそっくりだった。
しかも数は一匹ではない。
目に見えるだけでも、ざっと十数匹はいる。
しかし、幸いにも蜘蛛はまだこちらを視認していないらしい。
紅いルビーの様な目玉を光らせ、あちこちをガサゴソと動き回っている。
しかし、こちらを見つけ出すのも時間の問題だろう。
こちらから仕掛けるか?
いや、しかし……。
思考がうまくまとまらない。
頭の中に苦い記憶が甦る。
私はあの蜘蛛に喉元を掴まれ、石壁に散々叩きつけられ殺されかけた。
頭の中が緞帳が降りた様に暗くなり、胃液が逆流し口の中に苦いものが込み上げる。
まるで悪酔いしたかの様に視界が歪み、胸の動悸が激しくなってくる。
足に力が入らなくなり、膝がガクガクと震えている。
トラウマになっているのだ。
さっきまでの意気込みがまるで嘘の様に消え失せ、頭の中にドス黒いものが渦を巻いている。
頭の中ではどれだけ意気込んでいても、いざ本物を目の前にするとこのザマだ。
情け無いったらありゃしない。
ふと、視線を落とし、ロボ丸の方を見る。
顔は恐怖で強張り、バイザーの下の瞳は大きく見開かれている。
彼女もあの敗北がトラウマになっているのだろう。
無理もない。
ロボ丸もあの蜘蛛に下半身を砕かれ、危うくスクラップにされるところだった。
きっと怖くて仕方ないのだ。
しかし彼女は必死に歯をくいしばり、恐怖に屈さぬよう堪えている。
ロボ丸も頑張っているのだ。
マスターの私も頑張らないと!
「よっしゃぁ‼︎」
パァンとほっぺたを叩き、気合いを入れる。
「マスター、ロボ丸!怖くない!みんなをいじめるわるいやつ、ステラがやっつける!」
ステラがガッツポーズをとり、私たちを鼓舞してくれた。
すごくかわいい!
そうだ。
今の私にはステラがいる。
ロボ丸だって以前よりパワーアップしているのだ。
あと、アリスさん……はまぁ魔族だし強い……よね?うん……。
「よーし、それじゃあいっちょやっちゃいますか‼︎」
「「おーーーーー‼︎‼︎‼︎」」
私たちは拳を天に突き上げ、己を鼓舞した。
しかしアリスさんは手をあげず、きょとんとした表情でこちらを見つめたままだ。
私たちはじぃ~っとアリスさんを見つめ、無言で圧を掛ける。
「わ、儂もそれやらんといかんかのう……?」
アリスさんが戸惑いながら尋ねた。
私たちは構わずに、さらに無言で圧を掛け続ける。
「お……お~~……。」
アリスさんも少し照れながら、私たちに付き合ってくれた。
ちょっとかわいいところあるな、この人。
ブゥン……
蜂の羽音の様な機械音が響き、蜘蛛の紅い瞳が光った。
どうやら、こちらを視認したらしい。
「来るぞ、お主ら!」
アリスさんがグリモワールを構えて叫んだ。
戦が始まる‼︎
よっしゃ!やってやるぜ‼
次回に続く




