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フェリックス=ファーブラ〜獣と鎧の物語〜  作者: シュオウ
過去編、短編等
1/21

過去編1話、遠征と挨拶回り

過去話として短編をば。


色々と3流な文章力と展開力ですが、お付き合いくだされば幸いでございます。


4〜5話で終わったらいいなぁ……(´・ω・`)

久しく帰ってこなかった、美しき深い緑の土地。

小鳥たちは囀り、花は咲き誇り、水は心地よいせせらぎを奏でている。このまま、ずっと眠ってしまいそうな暖かい空気。


森の入口では小さな動物が迎えてくれた。1本角があるリスや、鋭い牙と爪を持つモフモフしているうさぎさん。果ては毒針を持つハムスター等、どれもこれも一般人が相手にするには強大な相手だが、彼女からすれば可愛らしい小動物である。


森の中に1歩踏み出す。そこから先はほとんど木しか見えないが、さわやかな陽の光は行き先を照らしていく。


やがて、目的地まで残り半分のところまで進行した。

ここに来るまでにちょこちょこいた小動物たちはすっかりなりを潜め、気配すら読めなくなった。その代わり、迎えてくれるのは一目見て凶暴だと分かる生き物だ。物陰からじっとこちらを見ていた個体が多いようだ。様子を伺っているのか、見た目にそぐわない温厚な性格なのか、はたまた実力差がわかっているのか。

そんな獣が多い中、その中の1匹が飛び出してきた。


尖ったナイフのような鋭い視線は腰を抜かすほど強烈で、エサを見つけたような息遣いの荒さは今すぐ食ってやるという意志が分かりやすく示されている。垂らしているヨダレは、断食から解放された後に用意された極上の飯を用意されたかのように勢いよく流れている。


そして、肝心なのはその外見だ。わかりやすく伝えるならば、なんでもスパスパ切断できそうな、大剣の様な角を持つサイといったところだろうか。

全長は6mはあるかという巨大な体躯。なにより、傷が1つもないという身体付きが特徴だった。


女はそんな獣を見てクスリと笑う。この光景を懐かしむが如く、目を瞑って。


嗚呼、そういえば、ここはこういうところだったっけ。

かつて教わった自然の厳しさ。自然の恵み。自然の優しさ。自然の摂理。 それを教えてくれた、4体の両親。

今では感謝してもしきれない、私に生きる術を教えてくれた。私の土台を作ってくれた。私に力を教えてくれた。


そう物思いに耽っていると、対峙していた獣が牙をむく。

何の変哲もない、ただの突進。獣の角が女を穿たんと全速前進。

まるで高速道路を走る車のように、凄まじい速さで女に迫る。


ガシィ!!


獣は突如として止まり、それでも前に進むかのように前足を上げようとする。

だが、進むことは叶わなかった。何故なら、女が素手で獣の角を掴んでいるからだ。


額を押さえつけられては立ち上がれないように、獣もまた前に進めない。それは、女の力が獣よりも強いことを示していた。


そんな獣に、女はニッコリと微笑みかける。人間から見れば聖女のような微笑みだが、目の前の獣にとっては畏怖の対象としてしか見れなかった。


ーーー人間の女が、ここまで強かったなんて……。


獣の瞳に恐れが宿る。この付近では負け無しの獣の瞳に初めて。

他の獣は自身の糧となり、人間だって何人も胃袋の中に放り込んできた。


ーーーなるほど。今のところ負け無しですか。では、私が初めて貴方に敗北を与えることになるのですね。


!?なぜ分かる!?と獣は慌て始める。相手は綺麗な衣装に身を包んだ女。宝石や装飾品は付けていない。露出している肌にしても、汚れは何一つ無く、汗は一雫も流れていない。臭い匂いもしない。女からは美味しそうな匂いしかしないのだ。だからこそ、腹を満たすために。美味いものを食べる為に出てきた。目の前の女という柔らかく、美味しそうなエサを食す為に。


だが、エサであるはずのあの女は何故畏れない?何故攻撃を受け止められる?何故俺の言葉が分かる?


それを問う前に、受け止めていない方の腕でぶん殴られ、獣の意識は刈り取られた。命は奪われていないようだ。


女はその獣には目もくれず、遠くから見ても大きい、天高く聳え立つ大樹に向かって前進する。


ーーーそして、大樹の根元に辿り着いた。時折、獣達の妨害にあったものの難なく切り抜けてきてここまでたどり着いたのだ。


嗚呼、懐かしいなぁ。


大樹から墜落するロケットのように超スピードで降りてくる鳥女を見て、そう呟いた。


鳥女はあわや地面にぶつかる!……かと思いきや、スレスレで急カーブ。そしてくるくると回転した後、大きく翼を広げて女の元へ向かう。


ーーー久しぶり!


女は泣きそうかつとても嬉しそうな笑顔で鳥女の元へ走っていった。

鳥女はそれを優しく抱きしめ、女はニコニコと元気そうな笑顔で顔を近づける。

あと少しで唇と唇が合わさりそうな距離で、女は口を開く。


ーーーねぇ、お姉ちゃん!私ね、いっぱい話したい事があるの!


ーーーーーー







フェロック大陸にある美しい森林地帯。見る者の心が洗われるような深緑に、綺麗な空気と澄み渡る川と湖があるこの地。

だが、その地帯はモンスター達の楽園でもある。森林の入口付近はそこまで強いモンスターは居ないのだが、少し奥に踏み込めばベテランの騎士でも無事ではすまない魔境。その地の名は『ヴェルディン大森林』という。


人間とモンスターとの終戦前、ギスギスしていた4匹の強大なモンスター達。

1匹目は、格闘家のような風貌の雄々しい角を持つ巨大な獅子のようなモンスター。

2匹目は、絶世の美女で、美しい翼と強靭な肉食鳥のような強靭な脚を持つ鳥人間。

3匹目は、湖の中に立っている刃のように鋭い鱗を持つ大きな半魚人。

4匹目は、剣のように鋭い爪と鱗を持つ漆黒の大きな狼。

バチバチと目線だけで刺突できるようなピリピリとしたオーラがこれでもかというほど出ている。それは、1目見ただけで強そうなモンスター達が蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていく程に。

後1つ、何かが起これば大爆発が起きてしまいそうな様子だが、その剣呑な空気を一瞬にして砕いた出来事があった。

川上からどんぶらこ。どんぶらこと人間の赤子が入った小さな箱が流れたのである。


4匹の視線が赤子へと降り注ぐ。この森林では信じられない光景だ。野生溢れるこの土地で人間の赤子が流れるはずがない。

ここでの水源は、広大な滝であるアトランディア・フォールから生まれる湖しかない。人間を流すには滝か湖に流すしかないのである。


ーーー殺してしまおうか。


ある出来事がきっかけで大の人間嫌いになったモンスター達。大森林のモンスターも例外にはならず、赤子を殺害しようとしていた。


ーーー赤子とはいえ、人間は害にしかならない。


4匹を代表するように、漆黒の狼が剣のように鋭い爪を振り下ろそうとする。


だが、ここで体を張って待ったをかけたのがハーピィ・クィーンだ。彼女はゴブリン・サベージ等の100%害にしかならない奴を除く、全ての子供の味方だったのである。都心部では討伐対象とされるが、田舎では子供たちの守り神のように崇められているハーピィ・クィーンは、遭難した子供達を村へ送り返したというエピソードも存在するのだ。


私が育てるから、殺さないで欲しいと。真っ白の羽で赤子を抱えながら訴えるが、他3匹はどうするか相談をしている。

何しろ、赤子とはいえ人間だ。育ったら何をしでかすか分からない。

この森に住んでいるモンスター達も、人間の蛮行は嫌になるほど耳にしてきた。

獣は自身や子供達が生きていくために行う狩りか、自身の縄張りが侵されるかで初めて命を奪う戦闘を行う。無論、必要以上に殺したりはしない。モンスター同士でも縄張り争いはあるにしろ、相手が抵抗しなくなれば殺したりはせず、異種族同士ならばルーティーンや範囲等の交渉の上貸す形となる。

大して人間は他者の縄張りに我が物顔でズカズカ入り込み、殺して追い出して我がものとするのだ。

しかし、子供を愛し、捨て子ならば巣に持ち帰って母親のように育てる、情に溢れるハーピィの女王ならば、幾ら対象が人間でも大事にはならないか。と獅子と半魚人の2匹は半ば折れるような形で賛成した。女王が熱心に懇願しているのならば、相応の覚悟や意志はあるだろうと考えての事だ。狼は納得はしていないものの、ならば育てて見せろと一応の保留を示す。


獅子と半魚人は賛成はしたが、育てる事に乗り気では無かった。育てるにしても、人間とこの森に対する根本的な問題があったからだ。

いくらハーピィ・クィーンの膝元が安全だと言っても、人間の身体自体は貧弱である。少し転んだだけで出血し、モンスターが軽く体当たりしただけでも紙のように吹っ飛ぶのだから。その上、ちょっとしたショックで気を失う事もあるのだから尚更だ。この森は人間の育成には適さない。

そのことは分かっているが、ハーピィの女王様の熱意に負け、渋々この地で育てる事に賛成したのである。この赤子は私が育てるからと。こうなってしまってはテコでも動かないため、本当に渋々といった感じだ。狼はというと、興味無さげにハーピィ・クィーンを品定めするような視線を送った後、赤子をチラ見して退散した。

ハーピィ・クィーンが赤子を持ち帰ってすぐ名が与えられたが、アリィと言う名は、一緒に流れたペンダントに名前が書かれていた為それを使っているとの事。



アリィと名付けられ、元気よく歩けるようになった頃。ハーピィ・クィーンは我が子を自慢する為に3匹のボスモンスターの元へ行った時から始まった。

ハーピィ・クィーンの元でとはいえ、以外にも人間が成長していたからである。ハーピィと共に育てられたからか、身体能力の面でも並の人間どころか、森の中盤くらいの下級モンスターならば対処出来る強いだろうということが分かったからだ。

特にハーピィ・クィーンに見せたいがために蹴りで岩を破壊したのは驚いた。


だからこそ、ボスモンスター達はアリィに興味が湧いたのだ。

人間が歩くのをマスターした時点であそこまでの強さを会得したならば、これから先もっと強くなるだろうと。

相手が人間とはいえ、自身と同格のモンスターであるハーピィ・クィーンに育てられたならば安心は出来る。 ……というのは少しだけで、好奇心を燻られたのが大半だ。自分も、人間を育ててみたいと思ったのである。


それから半魚人が加わり、そして狼が加わり。今やアリィは4人の親に育てられて逞しく成長していった。





やがて、8年の時が流れた。今ではアリィはハーピィ・クィーン以外の3匹にも受け入れられ、大事な娘として扱われている。

……まぁ、スパルタな特訓や狩り、サバイバルもあるのだがそこは置いといて。



その奥にある大きな湖、『セフィラス湖』付近にある、天にも登るような高さの樹木。『生命の大樹』と呼ばれる樹木の頂上。そこに2人の女が居た。


1人……否、1匹というのだろうか?街中に居たら少なくとも2度見はするであろう絶世の美女だが、両手両足が美しくも強靭な鳥のようで……一言で言えば『異形の存在』である。種族名は『ハーピィ・クィーン』。ヴェルディン大森林に生息する4大ボスモンスターの1匹だ。


もう1人は、とても小柄な少女だ。炎のような赤い髪に茶色のメッシュがかかっている。

最低限大事なところを隠すように乱雑に毛皮を身にまとっている姿はさながら野生児である。そんな彼女は『アリィ』と呼ばれ、ハーピィ・クィーンの他3匹のボスモンスターに育てられている人間だ。


光沢がかかっているかのようにツヤツヤとした髪質は、ハーピィ・クィーンにやって貰ったのだろう。満足気な表情で少女を見ているようだ。

この子を自慢しまくりたい。もっと可愛がりたいという思いをぐっと堪え、優しい眼差しでアリィと目を合わせ、口を開いた。


<……お母さん……話……って……?>


<ええ>


話がある。とクィーンから聞き、不安そうな表情でクィーンを見上げるアリィ。よからぬ事をやらかして親に怒られる前の子供のような反応だ。最も、それが分かるのは大森林の4大ボスモンスター位で、傍から見ると無表情なのだが。

そんなアリィの様子を見たクィーンは優しそうに微笑みかけ、真っ白な羽で頭を撫でる。


満足するまで撫でてあげると、不安そうな表情はすっかり消え、目線をアリィ位まで下げてゆっくりと話す。


<アリィ。私と一緒にエルフの郷へ行くわよ>


その一言に、アリィは首を傾げた。いつもならばオアンティアーラという半魚人と暮らすはずだ。主に水中戦や肺活量、水圧に耐えられる身体作りを担当している。


他にも地上戦や肉体、狩りの腕を鍛えてくれる獅子のモンスターであるシュハーガトゥ。本格的なサバイバルや格上との立ち回り、過酷な環境で鍛えてくれる狼のモンスターであるジルニモス。

そして魔法や体力作り、座学に撤退戦等。とにかく生き残る事を教えてくれるハーピィ・クィーン。主にこの4匹のボスモンスターの世話になっているのだ。


普段は1週間毎のローテーションで特訓をしている4匹。シュハーガトゥから始まり、ハーピィ・クィーン。オアンティアーラ。ジルニモス。そしてまたシュハーガトゥ。こういう流れで普段に来ているにも関わらず、ここへ来て全く話題にも上がらなかった『エルフの郷』という単語がアリィの頭を悩ませた。

エルフというのは、ハーピィ・クィーンから聞いた事があった。森に住んでいる人に似た種族で、長い耳が特徴だと。ここ、ヴェルディン大森林の辺境に住んでいるエルフの事を指しているのだろう。

その場所に行く理由もわからなかった。エルフが住んでいる土地は、森の入口付近にいる小動物より多少強い程度のモンスターしか生息していない。狩りの訓練のグレードが下がるならば、いっその事行かない方がいいと思えてくる。

それよりも普段のようにオアンの元で水中での狩りと潜水時間を伸ばすことや、水中で素早く移動すること等、あちらの方が学ぶものも多い筈だ。


<お母さん……次は……>


<ええ。次はオアンの番……の筈なんだけどね……>


クィーンが言うには、移動範囲が広い大森林とはいえ、主な交流が4大ボスモンスターのみ。というのが不安材料だったらしい。

ほか3匹は『他の種族にまで交流を広げる必要は無い』とは言うが、本来の人間の子供達は言葉を発した時から他の子供たちと交流を深める事が多い。集団生活や行動、相手との接し方、遊び方等など。色んな事を学ぶ機会が多くなる。

対してアリィはボスモンスターにしか交流が無い。覚えている魔法もハーピィの歌位で、それ以外は何も取得していないのだ。

それに、エルフは魔法技術が発達している。4匹のボスモンスターで魔法が使えるのはハーピィ・クィーンのみなのだが、如何せんお世辞にも彼女自身、魔法に長けていると断言するのは難しいものがある。

それは、ハーピィ特有の『歌魔法』というのがある。リズムに乗り、歌を唄い、それに魔力を込めて効果を発揮する代物だ。

成功すれば効果は絶大ではあるが、隙が大きすぎるのが弱点だ。唄っている間に攻撃を受けてしまい、命を落とすハーピィは多い。故にハーピィ達は集団を組んで狩りを行う。


覚えると増える選択肢は多い方がいい。そもそも、ハーピィの歌は集団戦法が成立して初めて成立するのである。

実戦では囮役、本命や視線を釘付けにする役等と連携して初めて歌魔法に効果を持たせることが出来るのだ。歌のみを使用して相手に効くことは稀である。


<ええ。オアン達には事前に言ってあるから、一言かけてから行きましょう>


<……でも、お姉ちゃんたちは……>


<大丈夫よ。私が留守の間、アウルンがやってくれるわ。私不在でも何とかしてくれるようになってくれないとね……。さ、行くわよ>


<……ん>


コクンと小さく頷き、クィーンの脚に掴まる。クィーンの脚に掴まり、大樹の頂上から急降下。

最初は良く落ちていたが、今ではもう慣れたものである。時折、ジェットコースターのようにコースを変えたり、アクロバットに動いたりするとたまに落ちるのだが、そういう時はクィーンが回収している。


そして、アトランディア・フォールが生み出す湖、セフィラス湖に到着する。

待っているのは湖の主、巨大な半魚人のモンスターであるオアンティアーラだ。

よろよろとクィーンの脚から手を離し、酔っ払いのような足取りでオアンティアーラの元へ向かう。その姿を見てハーピィ・クィーンは貼り付けたような笑みを浮かべた。顔からツゥっと1滴冷や汗が流れるものの、気にしないように意識を向ける。


足元がおぼつかないものの、着実に半魚人の元へ向かっているアリィ。それを見守るオアンティアーラの視線は父親そのもの。例えるならば、自転車を1人で乗れるように練習に付き合っている親の心情だろうか。この原因となったハーピィ・クィーンに呆れたような目線を送るが、クィーンはあはは……と笑うのみだ。


数分かけ、ようやくオアンティアーラの元へ辿り着いた。アリィはゆっくりと顔を上げ、オアンティアーラは少しほっとしたような顔つきでアリィを見つめる。


<……行ってきます……>


<クィーンから話は聞いている。遠征だとな。……生きて帰ってこい>


<……ん>


<この私がついているわ。心配しなくても大丈夫よ>


<……>


<あっら〜?もしかして数ヶ月間アリィと接することかできないから妬いているのかしら〜?ごめんなさいね〜。私がアリィを独占して。まぁ、遠征が終わったらたっっっっぷりと自慢するわよ〜>


<……お母さん……めっ……!>


<(´・ω・`)>


半魚人に激励を貰い、クィーンとのいつものやり取りを終わらせて今度は荒野へ。

漆黒の狼のモンスター、ジルニモスへと会いに行くためだ。


……今度は安全運転で向かったというのは、言うまでもない。





シムリーゴン荒野と呼ばれる、大森林の奥地にある土地。大地は砂に覆われ、草も水も貴重なこの場では、弱肉強食という摂理が大森林よりも強く根付いている。

そこのボス、漆黒の狼のジルニモスが佇んでいる所はセフィラス湖から流れる川辺。いつもそこで半魚人と待ち合わせしているため、ここを合流ポイントに選ぶのは当然と言える。

まぁ、今回合流するのは半魚人では無く、ハーピィの女王なのだが。


<……>


無言で佇むその姿はどこか異言が立ち込めており、荒野のモンスター達は怯えてその場を離れていく。

遠征と聞いて、ジルニモスが感じた事は『無』である。弱者であるならば、たとえ我が子であろうと野生で死ねばそこまで。という考えだ。オスの子供を群れから追い出す肉食獣と同じようなものである。

エルフがどうなろうと、遠征に行くアリィがどうなろうと知ったことではない。



ハーピィ・クィーンの脚から降りて、トテトテと巨大な狼へと歩を進める。


<……> <……> <……> <……>


1人と1匹はじっと目を合わせる。それから続くのは無言の時間だ。瞬きもせず互いの目を見つめ続けている。


<アンタらなんか喋りなさいよ!>


さすがにこの沈黙の空間には耐えられなかったのか、クィーンは思わず大声を出した。それもそうだろう。こっちは一刻も早く挨拶回りを終わらせてからアリィとイチャイチャしたいのに、こんなのが続いていたら日が暮れてしまう。


ちなみに、クィーンはこの地が大森林よりも過酷な環境である事は理解しているが、ジルニモスの育て方は……というより、他3匹がやる育成は全く知らない。それはどのボスモンスターに対しても同じ事だが。


一方のジルニモスはアリィの事を一応我が子として見てはいるものの、野垂れ死にしたり食われたりすればそれまで。という考えが他3匹と比べて格段に強い。遠征に行くにしても、<他のモンスター達の餌候補が来なくなるのか>という風にしか捉えていないのだ。


<……> <……>


1人と1匹は無言で見つめあった後、アリィは小さく頷いてクィーンの元へ行き、脚を掴む。

クィーンはそのまま飛翔し、今度は獅子のモンスター、シュハーガトゥの元へ舵を取る。


<え?何今の?アイツと何をしたの?ていうか話してたの?>


<……帰ってくるって……宣言した>


<……あら……そう……>


アイツならそれだけで充分そうね。と呟きながら飛んでいく。

ハーピィ・クィーンの脚に掴まっての空中移動で見える景色。いつの間にかほぼ砂や岩しか無かった荒野の景色が、緑溢れる大森林の景色に変わっていった。





セフィラス湖周辺の森の中に、広場のような場所がある。

草や花が風で美しくなびき、背景も相まってどこか別世界に迷い込んだような綺麗な光景。

隅っこには大樹でできた大きなトンネルのようなものがある。大雨にも大風でもビクともしないような大きなものが。


その入口で空を見上げているのは、シュハーガトゥと呼ばれる巨大な獅子だ。逞しく、雄々しい立派な2本の角と、ヒラヒラしたヒダがある。

銀色のサラサラとした体毛は美しさを際立たせているが、ゴリマッチョのように強靭な手足のせいで全くそう見えない。

オナガザメのようなヒラヒラとした尻尾もあり、水中で生活するのか陸上で生活するのかどっちなんだいという容姿だ。


普段ならば、ジルニモスの訓練期間が終わる時にアリィが徒歩で来るのだが、今回は違う。エルフの郷へ行く前の挨拶というもので、ハーピィ・クィーンが付き添いで来る日なのだ。


遠征と聞いて、獅子が出した考えは期待であった。人間ではあるものの、今では立派な我が子である。可愛い娘に強くなる経験を積んで欲しいから。強くなった姿を見たいから遠征に賛成した。


しばらく会えなくなるのは寂しくなるが、その分強くなった時の期待が高まるというものだ。


<ふっ……>


空を見上げ、じっと待つ。既にハーピィ・クィーンとアリィの姿は視界に入っていため、思わず、頬が緩んでしまった。


<遠征か……。それを終えた後、どれほど強くなったのか……。楽しみだな>


やがて、広場に着地した1人と1匹を確認して小さく吼える。

笑った獅子の母親を見たのが嬉しかったのか、シュハーガトゥの元へと駆け足で向かうアリィ。それを見て嫉妬の混じった視線を送りながら歩くハーピィ・クィーンを見据える。


<……お母さん……遠征に……>


<知っている。強くなった姿を私に見せてくれ。私からはそれだけだ>


<……うん!>


言いたいことは言い終わったし、可愛い娘の笑顔も見れた。

ハーピィ・クィーンからもいつものように頼むと、任せなさいとばかりに胸を叩き、飛び立っていった。



<……今のエルフ達は過度に敏感になっているが……大丈夫なのだろうか>



飛び去った姿を見送った後に吼えたその一言は、ハーピィの翼の音と風の音で掻き消えたのだった。












最初の描写、要らんかったら消すわ(´・ω・`)

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