2話
男が住む地は、世界の極東にあり、日本という島国のとある地方にあります。
日本の首都、東京。 その近郊の都市にあり、古びた建物と閉鎖された工場が一昔前の繁栄と衰退を覗かせている、廃れつつある時代が未だに残り、貧しく年老いた人々が多く住むエリアのとなり、そんな町の片隅に男の住まいはありました。
少子高齢化が進み、人手不足にあえぐ社会と、持つ者、持たざる者たちの間に、二極化が進んだ事もあって、より貧富の差が明確に現れ始めた時代の結果が、この男の運命を変えました。
若かりし日の男は、それなりの暮らしを送っていました。
一流でなくとも大学を卒業して、それなりの企業に就職。
そして、出世と同時に結婚して二児の父親となっていました。
そんな男が、なぜ貧しくも年老いた人々の多い町に住まう事になったかは、実家の衰退と老いた両親の介護をしなければならなくなったからである。
当初、蓄えも多くあった実家ではあったが、男の兄や弟が尽く事業に失敗して、その尻拭いを両親に肩代わりをさせた事で、老後の年金すら奪われる程の事態となり、最終的にその事態を解決させたのは、男が勤める会社の早期退職者制度の退職金での、一括返済でしか答えが無く、逃げ場のない状況となりました。
本来であれば、兄や弟が自己破産をすればここ迄の事態にはならなかったものだが、どういう訳か闇金にまで手を出し、夜逃げ同然に姿をくらませる事態が発生。
その結果、男の勤め先にまで回収業者が現れる事態となり、一家離散になる一歩手前という感じに至り、男は腹を括り、すべてをかなぐり捨てて解決に乗り出し、ありとあらゆる伝手を使って、何とか乗り切ったのでした。
だが、すべての問題に方を付けても、男に残ったものは、両親の命と幾許かの年金に、多少の現金しかありませんでした。
兄と弟は失踪し、行方不明のまま。 妻とも離婚し、二人の間にできた実子も、妻の実家に引き取られていき、別れ離れになってしまいました。
すべては、家族を守る為の措置とはいえ、男に残ったものは余りにも無残な現実しかなく、職場や地位は勿論、信頼していた友までも失い、残ったものは本当に僅かなものしかありませんでした。
それでも男は、こう思います。
『生きてさえいれば、それで良い』
以前のような暮らしには戻れなくとも、生きて暮らせるならばマシであると、笑って答えました。
行方不明の兄弟には言いたい事はたくさんあったが、残された両親の居場所や、元妻とまだ幼い子供ちの為なら、まだ頑張れると強がってみせる事しか出来ませんでした。
現在、両親ともに他界。
元妻には新しい夫であり、子供たちには父親が出来た事で、男は胸を撫でおろします。
勿論、元妻の実家や知人たち、そのすべてが納得したが故の結婚であったし、『これで、すべての問題に方はついたと』男は笑って、元妻の再婚を喜びました。
その後、相手である男とも会い、酒を酌み交わし、残されていた家族のすべてを、彼に託しました。
涙に暮れていた過去は、もうありません。
両親の最後と、残されていた家族との決別とも、円満に終わりを迎えて、男はやっと再スタートのラインに立てたと思いました。
子供たちの事が気にならないとは言えませんが、少なくとも成人を迎えるまでの支援はするし、会えなくなる訳でもないので、後は相手しだいとしか言えません。
実際、よい相手であったと確認出来たことも、大きな理由でもあります。
別れ際に、『何かあれば許さん!』とも伝えてあるので、男にはなんの不安もありません。
この先、本当に何かあれば、すべてをかけて護りぬく覚悟はあります。
この時点での男には、残された余生を何に使うかを、考えているだけの存在でありました。
そして、十年の年月は流れ、運命の時がこく一刻と、近付いてきます。
―― ―― ――
男が五十代を迎え、半ばを迎えようとしていた頃、とある地方にある大国に異変が起き始めていました。
それは、本当に些細な異変です。
歴史的に様々な問題を抱えていたこともあり、誰もがその異変に気付かないでいます。
そして、そういった問題を抱えたままの、とある別の大国の地方都市で、原因不明の争いが起きました。
どこどこの村で、テロが起きた。
また、どこどこの権力者が謀反を起こした。
または、謎の流行り病が発生して〇〇村が滅びたとか、なんの根拠もない情報が、各国のマスコミやネットを介して、拡散されて行きました。
勿論、該当国の発表は否定する物ばかりなのは当たり前。 なんの証拠もなく疑われても答えようもなく、その国自身が調査中であると発表すれば、それ以上の介入は出来ません。
ですが、その後に伝わる実態は、世界を震撼させる事態へと発展しいき、世界は大きく変わって行きます。
次回より本編となります。