1話
一時間後、2話目が投稿されます。
『もし、この世界が変わるのであれば、あなたは何を望みますか?』
そんな、ありきたりな問が、世界中の人々に届いたことがあります。
そして、その問に答えた人々も、すっかり夢の中での話だと思いこみ、長い時と共に忘れ去られ、日常へともどって行きました。
これは、なんのことはない、ただ夢現な問と、それに答えた人々の想いが、形となっていく物語である。
―― ―― ――
「ぴーぴ、ぴーぴ、ぴーぴ…… ぴぴぴぴ――――」
「んーー、ふあぁ〜」
薄明かりの漏れるカーテンが朝日を遮る部屋で、デジタル音の目覚ましアラームが鳴り響き、ベッドの上で布団に包まれたままの状態で、腕だけでアラームがなり続く目覚まし時計を探り当て、時計上部を叩くように手のひらで押し潰し、もぞもぞと起き上がります。
「ああ……? もう朝か。 ちっ、ふぅ……」
ベッドの縁に起き上がり、座った男は薄暗い窓辺をにらみ、舌打ちをしつつも、眠気が残る重い身体を持ち上げるように立ち上がり、洗面所へと向かいます。
「シャーー。 ジャバジャバ……。 キュッ。 ぷふぅ…… ん、……はあ、ねみぃ」
洗面台に貯めた水で、男は顔を無造作に洗い、滴り落ちる水滴を手の平で拭うと、顔を持ち上げ重いまぶたを半眼まで開き、鏡にうつる己の顔を見て、ため息を漏らす。
まだ眠気を引きずる男は、洗面所を出てゆきタオルを求めて、再びベッドのある部屋へ戻りました。
「ぐし、ぐし、ぐし…… はあー」
半透明なプラスチック製の引き出しに入ったタオルをつかみ取り、男は湿ったままの顔を手早く拭いて、再度ため息をもらします。
「んー、朝飯あったかなあ?」
朝日がカーテンの下からもれて、部屋をうっすら明るく照らす中で、男は部屋にある冷蔵庫の中を物色しだし、飲み物と食べかけの食パンを手にして、再度ベッドに腰掛けます。
「あ、塗るもんがねえや…… まあ、いっか。 いただきます……」
ベッドに腰掛け、無造作に持ってきた飲み物と食パンを食べ出した男は、徐々に覚醒していきます。
食パンには何もぬらず、もぐもぐと口を動かしては、乾いていく口に牛乳を流し込んで飲み込みます。
こんなズボラな朝を、この男は数年に渡って繰り返しています。
そして、この男の日常は、いつもこの様に始まるのでした。
男の名は『村上 雄二』。
何処にでも居そうな見た目の、五十代前半の独身男性である。
仕事は一応就いてはいるが、超高齢化した社会のいわゆる非正規職であり、超ブラックな職場で働いています。
詳しくは言えない仕事な為、表立っては介護職といってお茶を濁す程に、人には言えぬ仕事でした。
3K、4Kは当たり前どころか、何かあればすぐに『代わりは、幾らでもいるぞ!』と罵る言葉を浴びせられる日常を送っているといえば、お分かりかと思います。
その分、収入的には良いので、この男は十年以上を勤め上げる程に、タフな精神をもった変態であるとも、揶揄されていました。
「おし! 今日も頑張らんとな!」
こうして、毎朝同じルーティンを行った男は身支度を終えると、さっきまでとは別人の様な雰囲気を纏って、激務の待つ職場へと出勤して行きました。
これは、そんな男が何処にでもある日常に、負けまいと暮らしていく中で起こった、非日常へと変わりゆく世界の物語でもあります。
もしも願いが叶うなら、なにを願いますか?
そんなありきたりな質問に、世界が変わるならどうなるのかな? という安易な考えを元に書こうという、思い付きの作品です。
ありきたりな作品だとは思いますが、暇つぶし程度でお付き合い頂けたら、幸いです。