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閑話 『ジプソフィのノートの秘密』

 


 いい質問ですね!(ある日のルブ先生)


      挿絵(By みてみん)

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「 天才ですか!!」


 メイドがすぐそばで驚いた表情かおをした。ルブセィラは、思わず大きな声をあげていた。

 あわてて、ノートを教室から届けてくれたことに礼をいい、大声を出したことをあやまる。

 しかし、ルブセィラの目線は、そうしている間も落ち着かない。手元で開かれたノートの中身、書き込まれていた事々を確かめたい、一刻も早く、と指が忙しなく動いている。


 花の絵が描かれた羊皮紙の表紙。

 それはジプソフィが教室に忘れた学習ノートだった。




 ルブセィラは最後まで気が付かなかったが、メイドをおどろかせたのは大声でもセリフでもなかった。


 《 わたしの教え子、最ッ高ー!!!》


 愛する生徒がみせた才能の片鱗を手放しに喜び、誇らしい気持ちであふれた至福の表情。

 原因は、彼女の魅力的な笑顔だった。


 メイドはすぐに微笑み、仕事に戻る。ルブセィラも、意識をすぐにジプソフィの学習ノートに集中させた。

 明らかなスペルミス、

 つたない文字、

 曲がった線、

 昔のルブセィラなら、このような子どもの手書きを一顧だにしなかったかも知れない。

 だが、ノートを精査し、見慣れた字のくせ、 講義内容を思い返して脳内で補正すると、浮かんだフローチャートはおどろくべき内容だった。


 すごみのあるシンプルさ。


 魔獣は、そもそも生理生態の根幹部分が未解明だ。個々の種族となると推測や仮説、情報の空白が多い。

 それをルブセィラは、正確を期そうとするあまり、錯綜する学説をいちいち列挙し、定説の反証、有力仮説、マイナーな伝承や検証が足りていない報告まで触れた。

 しかも、魔獣学の授業は、基本、口述だった。


 ジプソフィはあふれる言葉から本筋を見出し、よくまとめている。とくにーー



    挿絵(By みてみん)

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「『進化した魔獣』の進化メタモルフォーゼを図にまとめた? しかも矢印で示す流れ図(フローチャート)………こんなまとめ方は教えていないのに。もしや、ルミリアさまから? 」


「子どもたちが、独自に編み出したのでしょうか? あるいはジプソフィひとりで?」


「まさか。いえ、ありえますね。ふふふふふふふ」


「半人半獣からの魔獣形態ーー 完全魔獣化。

 変身? あれは、獣化魔法というべき特殊な魔法を使うと聴いた覚えが………

 ーー いえ!

 わたしはまだ、完全魔獣化を彼女たちに講義してません⁉︎ 」


「ジプソフィさんはこれを調べた? だれかに聞いた?

 もしや、進化した魔獣に関する深都の禁忌情報?」


「うむ、むむむ」


 ーー 未知の情報によろこんだり、あわてて記憶にある事柄と照合したり。資料をたしかめ、いつものメモに書き付けて。

 ジプソフィの試行錯誤を、いくつもの書き直しからたどり、幼い生徒がどれほど思索を重ねて閃いたものか。この図はなんと貴いのかと感嘆するルブセィラ。


 ルブセィラは、ジプソフィ(生徒)のノートをみる自分がとても楽しそうで、愛おしげで。ころころ表情を変えていることに気がつかなかった。


    挿絵(By みてみん)

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 [たらてくと、毒のヘビ食べた→ ポイズンたらてくと]


 上機嫌のルブセィラ。

 彼女はその後、双子たちの部屋をこっそり訪ねると、生徒たちが気が付かないうちに部屋に置かれたジプソフィの背中カバン(ランドセル)にノートをもどした。学習ノートのとある書き込み(落書き?)には、幸か不幸か最後まで気がつかなかった。

 ルブセィラが見落としたページには、隅に少しばかり不安なことが書かれていた。



 [じぷ、大きな鳥を食べる → 羽根で空飛べる?]


 [じぷ、ヘビたくさん食べる → ふぉーの好きな、あしぇみたいにかっこよくなる? 長くなる? ふぉーにまきつける?]

イラストのルブセィラ先生は、加瀬優妃様(https://mypage.syosetu.com/849627/)からの頂き物です。

今回、掲載した模式図もです。そして、各話冒頭の黒板風のタイトルをすべて、つくっていただきました。


本当にありがとうございます。


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