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六時限目 『イブル ベア』

    挿絵(By みてみん)

イブルベア


 ■異称:屠龍牙、凶王熊

 ■種別:熊の野獣型上位魔獣

 ■主な出現地域:魔獣深森の中ほどよりやや奥。

 ■出現数と頻度:単独、ごくまれ

 ■サイズ:頭胴長 8~10メートル超

 ■危険度:大

 ■知能:人間なみ?

 ■人間への反応:攻撃(悪意、害意)

 ■登場エピソード:本編は無し


■身体的特性とパワー

 イブルベアは、鋼の硬さの獣毛をもつ巨大な熊の魔獣です。ブルーベアの上位種で、山野の接近戦なら、ドラゴンの上位種も圧倒できる怪物です。


 巨木の樹海の奥寄りにくらし、さいわいなことに大陸の人間社会との接触はほとんどありません。猛威と残忍さは、樹海遠征に赴いた一部のハンターや学者から知られました。


▷イブルベアの凶笑

 イブルベアは人間が縄張りにあらわれると容赦なく襲います。しかし、優勢なときほど一撃で人間を殺さず。子どもが虫を弄ぶように残酷に傷つけます。


 一般的な魔獣は、人間への強い攻撃衝動をもち、暴走状態で襲ってくるものも少なくありません。

 しかし、イブルベアは、むしろ姿をみせずに最初は慎重に付き纏い。異常な悪意と嗜虐心を徐々にあらわします。人間の捕食にはこだわりません。


『イブル』と名付けられたのも、さらわれて嬲られた犠牲者が、生きたまま何人も送り返されたためです。


 遊びあきると? 瀕死の人間や無惨な遺骸をわざわざ縄張りの外へ運ぶことがあり。捜索隊の進路上やベースキャンプのそばへ放り出し、発見した人間が、怒り、嘆き、恐怖する様を………… 子どもが蟻の巣の混乱をながめるように………… 離れた場所から悠然と眺めてゆくのです。


『熊の笑い』は一部のハンターの言い回しで、イブルベアがそうしたとき、みせたとされる『笑み(⁉)』に由来します。意味は、強者の無慈悲、嗜虐、邪まな愉悦です。



▷戦闘と攻撃力

 イブルベアの最大の武器は、鋭い爪をそなえた怪力の腕です。

 魔力をおびて大岩に深い穴を穿ち、魔術の雷撃を宙で打ち払い、ドラゴンの龍鱗を引き裂きます。大きな牙の噛みつき、頭突き、体当たりも負けず劣らずの威力です。


 まわりのものを激しく殴る、蹴りして飛ばす、、土砂や瓦礫の『散弾』攻撃も得意です。


 さらに上位種らしく、危険な攻撃魔法もつかいます。


 しかし、イブルベアの最もおそろしい点は、怪力の巨駆にほとんど死角がないこと(→レーダー感覚、後述)。

 そして、ほんの数呼吸ですが、巨体が異常に素早く動き。特異な身体強化魔法(ベクトル操作?)で、爆発的突進からの急旋回、急停止。出し抜けに数メートル跳躍してみせます。

 数瞬で高所に身をかくし、割れやすい氷の川面を走破さえします。


✔暴虐の威圧

 イブルベアは、たかぶると炎のような威圧オーラ)をおび、殺意や戦意、害意を魔力にのせてまわりへ放ちます。

 暴力的なプレッシャーは、抵抗に失敗した人間や動物、魔獣の心身を冒し。ある程度離れていても異様な寒気を感じさせます。

 近づくに連れて、発汗、悪寒、呼吸の乱れが生じ、いい知れない不安と恐怖がわき。

 さらにむりに距離をつめたりイブルベアの側から接近されると、からだがこわばり、終いには指も動かせなくなります。


 影響は、魔獣災害になじみの薄い人間、からだの弱い人間ほどはげしく出やすく。子どもや傷病者は、呼吸や心拍を致命的に狂わされ。一部の人間は、精神の均衡を早く失い、闇雲に攻撃したり、恐慌状態で逃げ出します。


 逆に、威圧に抵抗できたものには何の影響もなく。抵抗の失敗、成功と関係なく物理的ダメージは与えられません。



✔威圧の咆哮

 イブルベアの口から放たれる擬似的なブレス攻撃です。吠え声にのせて離れた場所に威圧を届かせ。抵抗に失敗したものを金縛りや一時的な錯乱状態にします。

(抵抗に成功すれば、至近距離の直撃でも、具体的ダメージはありません)


 イブルベアは近接攻撃と肉弾戦を好みます。擬似的ブレスを標的の足止めくらいにしか使いません。

 変わった戦例として、あるイブルベアは、精鋭の猟犬の群れに囲まれて苦戦したさい。悪あがきにみせて咆哮を放ち ―――― 実際は取り囲む猟犬の背後の、離れた場所の牧場へ撃ち込み。暴走させた牛馬を包囲の一角へ乱入させました。


✔レーダー感覚

 暴虐の威圧を放つときにつかえる探知能力です。まわりに自分の魔力を広げることで、自分以外の魔力を『異物』としてとらえます。

 全方位に働いて、闇や濃い霧、煙幕の中の敵も捉えます。背後から急襲も逃しません。


 難点は、魔力を放つことで、敵にも自分自身の居場所を知られること(どちらにせよ目立つ巨体ですが)。自然におきた落石やぬかるみなどの地形障害、単純な仕掛け罠など、魔力をともなわない危険を捉えそこねることです。

 また、大勢の素早い敵に取り囲まれ、一斉に攻撃されたときなど❋、過剰な情報が頭へ流れ込んでしまい、むしろ思考や反射行動を妨げてしまうことがあります。


 なお、魔力探知(レーダー感覚)の要所は、イブルベアの太い首のうなじです。背筋にかけて、毛皮の下がもりあがっています。


❋……飽和攻撃は、人間の軍隊の整然とした隊列の包囲より、小柄で、目まぐるしく動く、猟犬の群れが効果的です。

 ダメージはわずかでも、すきをみて噛みつく(不規則に痛覚情報を与える)と、さらに早くイブルベアの処理能力を奪います。


✔地走りの爪撃

 イブルベアの『射撃』魔法攻撃です。

 剛腕を地面に叩きつけ、四本の斬撃(衝撃波)を離れた場所の相手へ突進させます。地面を欠き削って進み、ある程度、敵を追尾させる(曲げる)こともできます。

 直撃すれば、剛腕の爪に等しいダメージです。


 難点は、目で追えるスピードで、地面や壁面に沿って進むため、素早い相手にかわされやすいこと。空中の敵に、攻撃が届かないことです。


 老練なイブルベアは、魔法の爪を突進攻撃に先行させたり。発動の動作をフィジカルな爪撃(殴打)や瓦礫や土砂を飛ばす散弾攻撃とわざと似せて、相手を撹乱します。



◇人間社会との衝突

 イブルベアの攻撃力はドラゴンに匹敵し、暴虐の威圧オーラや咆哮は、人間の大軍や人口密集地の民衆ほど大きな影響を生みます。

 後者は、魔獣災害になじみの薄い土地ほど効果が強く出。イブルベアを起点にした影響圏は、最大でひとつの村の中心地すべて。あるいは、都市の一街区を完全に覆いつくすと推定されます。


…… 万一、イブルベアに都市に侵入された場合。威圧にさらされた民衆ははげしく混乱し。進路からの避難や火災の消火活動、救助活動も破綻。金縛りで倒れ、恐慌状態で迷走するひとが街にあふれて、犠牲は際限なくふえることでしょう。


 さいわい、イブルベアは翼をもたない陸棲です。移動能力は低く、本来の生息地は、大陸文明圏はかなり離れています。

 これまで大陸西方の人口密集地への被害事例は、公式にはなく。人間への襲撃は、樹海の縄張りに入ったときに限られています。



◆牙爪山とその伝承

 大陸西方の一角に、魔獣イブルベアがくり返しあらわれるとされる未開発地があります。

 ただし、公式に認められておらず、物的証拠も満足に残っていませんでした。


✔牙爪山

 牙爪山は、寒冷な山国のメイモント王国にある大山たいざん)です。高い山頂に氷雪を冠したけわしい地形で、ふもとに未開発の森が広がっています。


 魔獣が多くすむ未開地ですが、魔獣深森の大樹海から離れた場所です。間には、いくつかの地方領があります。

 牙爪山の、狼、猪、熊などの魔獣は、まわりの土地より大柄で気が荒くよく変異種が出ます。また、なぜか餌が不足しても、縄張りを奪われても山のそばをなかなか離れません。


 牙爪山には宝石や希少金属の鉱床が見つかっています。開拓初期から何度か採掘が試みられ、森には開拓者が入りました。

 しかし、数百年もの間、成功した事例はなく。朽ちた小屋、道のあと、崩れた採掘場が山の内外に残されています。今日、山に出入りするのは、一攫千金を狙って廃坑を探る鉱夫。あるいは、大物の魔獣を狩るハンターくらいです。


 公には、開発の失敗の理由は、きびしい自然と魔獣災害とされています。

 しかし、撤退の真因は、現地で正体不明の災厄がたびたび起き、死者行方不明者、廃人が出つづけたことでした。

………何ものかにより、一夜で、防御施設や家屋が更地同然に壊されて住民が皆殺しにされた集落。原因不明の遭難事故、何の痕跡も残さない大量失踪、集団幻覚の異常体験など。


 小国が乱立した時代、ある国は100人もの傭兵を送り込み、敵国がつくった牙爪山の宝石採掘地(未完成)を奪おうとしましたが、森の中の一本道へ進んだきり、武装した男女は全員、消息を絶ってしまいました。



✔『いるはずのないイブルベア(まぽろしのイブルベア)』

 牙爪山は、まわりの土地にいくつもの町や村があり。過去の異常な事件に関連した伝承が残されています。


『いるはずのないイブルベア(まぽろしのイブルベア)』はそのひとつです。牙爪山の暴力的な事件の『犯人』を指しています。

 いわく、はじまりは大陸西方の開拓が本格化するより前からです。数十年〜百年おき、ふだんそこにいない凶猛な魔獣があらわれ、牙爪山に入った人間や、採掘地、開拓村を襲います。

 山を離れて、隣接地の町や村、街道上で猛威をふるうこともあった、と。


 魔獣はイブルベアとされます。また、来寇の『兆し』に、牙爪山の頂きにオーロラのような光が降りるということです。


『いるはずのない(幻の)イブルベア』の伝承はいくつも残っています。しかし、イブルベアがそもそも何のために、大陸西方の只中まで、どのようにしてやって来るのか不明です。

 伝承は、あるとき突然すがたをみせた、と述べ。ドラゴンに匹敵する魔獣が、巨木樹海から旅した目撃情報、移動ルートの話を一切しません。


 兆しのオーロラ光も、ある古伝はだれもみたものはいないと断言し。別の記録は、見えると主張した人間と見えなかった人間がいた、と記しています。


 さらに伝承のイブルベアは、暴れまわったあと、また突然すがたを消します。

 討伐されたことはなく。言い伝えのある『痕跡』は、爪痕の残る崖の岩肌。体当たりで割ったという大岩、一握りの獣毛など。断片的で不確かです。


 長い期間、出現が報告されない年月がつづくと、古い伝承のイブルベアは誤り(イブルベアではない)といわれるようになり。下位のブルーベアの大型変異種だった。あるいはグリフォンなど、翼をもつ別の種類の魔獣が出入りしていた、など。牙爪山のまわりにも否定説が広まりました。


 近年、新たなイブルベアの目撃情報が上ってもひどく疑われました。



✔老ハンター

 牙爪山の近くにすむ猟犬使いの魔獣ハンターです。超一流のベテランでしたが、現在、牧場の広い跡地で孫とくらし、50頭近い猟犬を育てています。


 かれは長年、牙爪山にあらわれるイブルベアの脅威を訴えていました。

 

 子どもの頃、ハンターの父と兄は牙爪山で消息を絶ち。その後、苦心して名人とよばれるハンターになりましたが、ある時、息子夫婦は、牙爪山のふもとで正体不明の肉食魔獣に殺されます。

  後者の事件のさい、老ハンターは牙爪山へ単身乗り込んたものの、ハンター数日後、瀕死の重傷で倒れているところを、仲間に救出されました。


 きわめて大きく狡猾な一頭のイブルベアの凶行、と、老ハンターは主張しました。しかし、たび重なる事件で『魔の熊』の幻覚に因われるようになった、と、まわりはみなし。主張はまじめに取り上げられません。

 

 老ハンターは、因縁深いイブルベアと、手塩にかけで鍛えた猟犬たちを率いて戦うつもりで、準備を進めています。

 


✔雪の妖女スノーハッグ)

 牙爪山の奇妙な事件や古い伝承は、イブルベアだけではありません。話の知名度では、『幻のイブルベア』をしのぐものもあります。


雪の妖女スノーハッグ)』は女のすがただとされる怪物です。寒さのきびしい夜や悪天候の下、出会った人間を幻覚と冷気で苦しめ、気に入れば攫ってゆくとされます。

 牙爪山の隣接地の、村や町の噂が起原です。

『架空の災厄の化身』で、不可思議な遭難事故や行方不明、変死事件を背景に考えられたため、公の調査報告や討伐記録はなく、原型の魔獣もいません


 この魔物の話は、牙爪山と縁のうすい土地にも広まり。現地の山の遭難事件、悲恋話、魔獣災害などと混淆した物語が派生しました。

 しかし、どれほど離れた土地でも『白い長い髪の美しい女』という特徴は変わらず。多くの場合、吹雪の中で奇妙な歌を唄う、と、語られます。



 牙爪山の魔の女の物語は、本当に架空なのか。

 あるいは未知の魔性が生まれて、人知れず牙爪山から各地に広がり。消せない気配のように物語だけがついてまわったのか 。。。。













 なお、牙爪山のハンターは、比較的最近まで、『雪の妖女スノーハッグ)は老いた魔女』、と語っていました。現在、不明の理由で『魔法使いの美女』に置き換わっています。

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