二二時限目『 ヨロイイノシシ 』【参考写真付き】
□□ SS □□ ありふれた死闘
熟練ハンターA…指導役
「無駄にキズをつけるんじゃねえよ。一発で決めろ、一発で!」
新人ハンター
「かてえよコイツ! 刺さらねえ!!」
魔獣深森 ── 人に仇なす魔獣が支配する世界。
その一角で、ハンターたちは暴れ牛のような巨猪・ヨロイイノシシを狩ろうとしていた。
突撃、怪力、筋肉に支えられたかたい外皮。
魔獣の勢いは増すばかりで、人間たちの包囲は何度も破られていた。追い散らされ、猛々しい牙に肉薄される場面も………
だが、実のところ魔獣ハンターたちに怪我はなく、突撃は巧みに去なされていた。逆に、ヨロイイノシシは進行をコントロールされて、いつの間にか小さな山のふもとを周回させられていた。
ヨロイイノシシは大きく強い。
少しも油断できない相手だ── だが、今対峙しているハンターたちは、工夫された狩りの方策を受け継ぎ、有利になる狩場を熟知していた。
…… ルーキーはべつにして。
新人ハンター
「槍が折れた!! ── マジでヨロイじゃねえか… て え? おわあ!!」
熟練ハンターB… パーティーリーダー
「よそ見すんなー。しゃくり上げをマトモにくらったら、木のてっぺんまで飛ぶぞ〜 死ぬぞ〜 」
新人ハンター
「あああ、あぶねえ! ヒュンってなったヒュンって!」
熟練ハンターA
「いきなり槍で倒せるもんか! 後ろ足の腱を切るんだ、動きを鈍らせるんだよ!!」
熟練ハンターB
「なんのためにパーティー組んでんだ〜 仲間が引き付けて、向きを変えたときに、こうッ!」
新人ハンター
「こう!って、できるかー!!」
熟練ハンターA
「足の付け根の内側だ! ヨロイイノシシのからだもそこまでは硬くはねえ!! ハンターギルドで習っただろう ⁉︎ 」
新人ハンター
「暴れてるヨロイイノシシに近づけねぇ!」
熟練ハンターA
「そこが腕の見せ所よ。今だッ! イケェっ!!」
・・・・・
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新人ハンター
「……うめえよ、ヨロイイノシシ、マジでうめえよ」
熟練ハンターB
「熟成させたら美味いとこもあるけどなぁ。狩りたての新鮮な部位でしか食えないとこもあるわけだ。
── うす〜く切ってサッと炙って半生で食う。どうだぁ?」
新人ハンター
「……あの強敵の血肉が染みわたる……、ヨロイイノシシ……俺の中に……俺は今、肉の中の肉をあじわっている」
熟練ハンターA
「そういえば、昔、魔獣学のセンセーがいってたな。ヨロイイノシシは古代魔術文明の家畜だったんじゃないか? て」
熟練ハンターB
「どこが家畜なんだかなぁ。 デカすぎるし、ヒトに殺気向けすぎじゃねぇ?」
熟練ハンターA
「魔の森の外れにいるくせに、岩みたいなヨロイのからだがどんどんでかくなる。肉は不自然なくらい腐りにくい。こんな特性が野生とは考えにくぃ…っ、て
(ひそ…) おい。あいつ、泣いてやがる」
新人ハンター
「ぐ、ぐむん……なー、叔父貴が強いのって、ヨロイイノシシみたく、森の強い奴をドッサリと食ったからじゃねえの?」
熟練ハンターB
「叔父貴いうなぁ。── 食っただけで強くなれるかよ」
熟練ハンターA
「ハンターは食いながら考えろ、噛みしめて覚え込め。今、食ってる肉がどれだけ強くて速かったか、てこずるのはどこだったか、どんな動きをしてたか、クセやスキがあったか」
新人ハンター
「あぁ、うめえよ、うめえ……」
熟練ハンターB
「さっきから、なぁに泣いてんだよ」
新人ハンター
「あのしゃくり上げで、オレの死んだと思って……。オレのヨロイさ、あっさり牙に裂かれてさ。でも仕留めて。ヨロイイノシシ、 うめえ。あぁ、うめぇよ……よく生きてたよ、オレ、な……」
新人の腰には皮袋が吊られていた。
中身は、鋭い短剣のような白い牙… この日、倒したヨロイイノシシからとった記念品だった。
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ヨロイイノシシ
■種別:イノシシの魔獣(下位魔獣)
■主な出現地域:魔獣深森の比較的浅いところ
■出現数と頻度:単独、ふつう
…… ただし、小さな群れ(親子;5〜10頭)をつくる時期がある。
■サイズ:体長三〜四メートル
■危険度:中
■知能:動物なみ
■人間への反応:攻撃
■登場エピソード:『蜘蛛の意吐』本編(名前のみ)
■身体的特性とパワー
からだが大きく攻撃的なイノシシの魔獣です。首の背面からもり上がった背中にかけて、黒いたてがみがあります。
ヨロイイノシシの特徴は、その名の示す巨躯の「装甲」です。
獣毛が抜けてかたく分厚くなった外皮をもち、ところどころだぶついて重厚な甲冑を着込んでいるようにみえます(イメージはインドサイです)。猛獣の爪牙や鋼の刃も阻むため、魔獣狩りのハンターはやわらかな急所(足の付け根など)を狙って倒します。
ヨロイイノシシの最大の攻撃は突撃です。
軍馬さえ跳ね飛ばし、人間がぶちかまされたなら、ひしゃげた死体になって宙を跳びかねません。
さらに猛スピードを出す一方、急停止や急旋回が可能です。見た目より跳躍力もあり、一度狙われると逃げるのは容易ではありません。地形や障害物の利用、仲間の助けが必須です。
オスの成獣は、鋭い牙が危険な武器です。立ち止まっていても、しゃくり上げで敵を切り裂き、跳ね飛ばします。噛みつきもあなどれない威力です。
頭が(意外に)よくて記憶力もあるので、老成した個体の中には、ハンターの手口を覚えて不意打ちして来るものもいます。
▷ 食性
雑食で顎の力が強く、大抵のものを噛み砕きます。
木の実や樹皮、草の葉、根、キノコ、芋、昆虫の幼虫、小動物… ときとして人間の屍肉も(骨ごと)むさぼります。
いざとなると粗食や絶食に耐えますが、食いだめするときの貪欲さは怪物的です。ある村は、たった一頭に果樹園の600本を超える成樹をへし折られ、収穫期の果実を食い尽くされて… 廃村に追いやられました。
▷ 利用価値
ヨロイイノシシの肉は美味でとても調理しやすいので、庶民から食通まで人気があります。ベーコンやジャーキーも好まれます。
かつて、大陸西部から中央諸国へ『スピルコ豚』という野生豚の肉が輸出されたことがあり、富裕層を中心に大変な人気を集めました。しかし、その正体はヨロイイノシシの肉で、大陸中央の人々が魔獣を忌み嫌うため、偽ブランドがつくられたのでした。
また、ヨロイイノシシの肉は、生でも腐敗しにくい特性があります。
その理由はよくわかっていませんが、ハンターは森から肉塊を引きずって(少々手荒に、時間をかけて)持ち帰っても、表面をトリミングしてすぐに高い商品価値の肉にできるので、重宝?しています。
◎ 参考バルーンアート
ヨロイイノシシの子供・「マッチョうり坊」
__うりうり ~ ♪_φ( ̄ε  ̄ ;K__ え? (ーー;P
ピージョン
> うり坊?
> このバルーンアートのイノシシは、亥年につくったヤツ!
(真っ赤な鳥居が! モンスターじゃないから!!)
ケージョン
> 原作者のNOMAR様 公認、です。
■ NOMAR ;せっかくなので、元旦の鳥居の茶色のイノシシ。ヨロイイノシシの子供ってことで使えないかな?
ピージョン
>…… リサイクル。
***
NOMAR様より。
本編キャラクターたちが食卓を囲む、ショートストーリーをいただきました。
□おまけのSS□ 生徒の食卓
ハラード
「今日は新鮮なヨロイイノシシの肉があるぞう」
ゼラ&カラァ&ジプソフィ
「「わぁい♪」」
エクアド
「あ、フォウは生で食べたらダメだぞ」
フォーティス
「え? どうして?」
エクアド
「どうして?って、ええと、胃腸の丈夫さが違うからで、フォウがヨロイイノシシを生で食べたらお腹を壊すから」
フォーティス
「なんでカラァとジプはだいじょうぶなの?」
エクアド
「ほんとになんでなんだろうな?」
カダール
「わかった。フォーティス、俺が人が生で肉を食べたらどうなるか、俺の身で見せよう。ゼラ、いざというときには治癒を頼む」
ゼラ
「ン? わかったー」
(* ̄∇ ̄)ノ こうしてカダールはお腹を壊して寝込みました。めでたし、めでたし。




