四時限目 『 メイモント王国のアンデッドの軍勢 』
□ □SS□ □ 死霊国家の明け方
剝ぎ取ったような土むき出しの広場。
朝も早く、まだ弱い陽射しの下、たたずむ100近い人影。その過半数は不気味に削れたディテールで………
訓練教官
「いいかー、まずはスケルトン十体のコントロールだ」
死霊術師見習い
「えぇ⁉︎ いきなり、十体まとめてですか?」
訓練教官
「一体一体制御すると細かく動かせるが、これは一つの隊として動かすんだ。スケルトンが生前に積んだ兵士としての経験を信じろ! 細かいところはスケルトンに委ねるんだ」
「操ろうとするんじゃない。俺たちは死者を道具にするんじゃないんだ。死者を信じてその力を借りるんだ」
死霊術師見習い
「それ、大丈夫ですか? 精神汚染されませんか?」
訓練教官
「そのギリギリを見極めるんだよ。死を恐れる者に死者が力を貸してくれるものか。さぁ始めるぞ!」
「詠唱開始!」
・・・・
・・・
・・
・
黒帽子の老人
「やはり、現実はちがったか………無理を言ってすまなかった」
副宰相
「メイモントは死霊術師を受け入れました。しかし、乗っ取られてはいません」
黒帽子の老人
「ああ、ずいぶん忙しく働かされているようだ。こんな集団教練も聞いたことがない」
副宰相
「アンデッド兵は国土と民を守る切り札です。しかし、それも死霊術師がついてこそ。ひとりでも多く、早く、育てなければ力を活かせません」
「のんびり暗い洞窟や地下室にこもり、好きなように修練させるゆとりは無いのです」
黒帽子の老人
「ましてや、大方針を『祈る人』の戯言に合わせて曲げるなどあり得んか」
副宰相
「…… このままでは、断交はさけられません」
黒帽子の老人
「今の総聖堂執行部は、メイモントが最後に必ず折れると信じている」
副宰相
「……先輩。 いえ、枢機卿」
黒帽子の老人
「わたしは少数派だ。帰国すれば、すぐに肩書きは『元』になるだろう」
「きみにはこの国に残る、光の神々の信徒の庇護をたのみたいのだ…… 」
ーー 日は高く昇る。
強くなって行く陽射しの下、ゾルビやスケルトンの集団のぎこちない行進が、軍の駐屯地の訓練場で何隊も行き来する。
いっとき見学席に人影が並んだが、訓練に集中する見習いの中に気にとめる者はいなかった。
ーー 10日後。
メイモント王国は大陸の歴史上はじめて、『光の神々教会』総聖堂が発した《 聖印書簡 》の受諾を拒絶した。
査察官の受け入れ、アンデッドの軍勢の破却、担当大臣の解任、死霊術師の引き渡し………すべての項目に一切応じないゼロ回答である。
聖都の総聖堂は、歴史的権威を冠した自らの書簡(一方的な最後通告)を拒まれた場合の収拾策を何も用意しておらず、その後、礼法をかなぐり捨てた感情的な非難に終始した。その過程で、メイモント王国は『死霊国家』とあだ名され、中央諸国がかの国との交友を忌避する流れが生まれた。
メイモント王国の孤立と苦難の時代は、この時期からはじまる。
❀ ❀ ❀
メイモント王国のアンデッドの軍勢
■種別:メイモント王国のアンデッド兵(王国軍所属の下位アンデッドの総称)
■主な出現地域:メイモント王国
■出現数と頻度:二、三体 〜数万体/頻繁
■サイズ:人間大
■危険度:小〜中(武装)
■知能:なきに等しい
(生前の記憶や技能の残滓で、半自動的に動ける個体がいる)
■人間への反応:命令次第
■登場エピソード:
蜘蛛の意吐 第二部 ~あなたの為なら一軍ぐらい蹴散らすの~
❀ ❀ ❀
__________ほー ( ̄◇ ̄ ;P
「ゾンビの軍隊なんだ」
K;  ̄▽ ̄) スケルトンもいるよ。
「小説『蜘蛛の意吐』の舞台は、スピルードル王国」
「メイモント王国は北の隣国で、第二部で突然侵攻して来るんだ。ゼラとカダールは、アンデッドの軍勢と戦うことになる」
________うんうん、 ( ̄▽  ̄ ;P
「侵略してきた北国のアンデッド軍かぁ・・・」
K;  ̄⊿ ̄) ん?___
「悪の軍団と思った??
メイモントは魔族国家とか邪神崇拝の軍事大国じゃない。国王や高官たちは、魔獣の猛威や気象災害に四苦八苦で、ゾンビやスケルトンの軍勢は、生前の意思でアンデッド化されたメイモント一般国民だ」
_________は? ( ̄o  ̄ ;P
「メイモント人は、アンデッドにされるとわかってて家族や友人の遺骸を差し出しているの? なんでそうなった??
まわりの評判はどうなのさ」
K;  ̄▽ ̄) 国情は本文でね____
「まわりの評判を言うと、メイモント王国は、光の神々を信仰する大陸の中央諸国と国交断絶の状態だ。
『蜘蛛の意吐』の世界宗教は光の神々教会というけど、メイモントがアンデッドの軍隊創設に猛反対した。だけど、メイモントは止めず、逆に教会と縁を切ったんだ 」
_______ 軍拡? ( ̄_ ̄ ;P
「戦争のためにアンデッドの軍隊が必要だった?」
K;  ̄ へ ̄) ____
「アンデッドの軍隊は国を守るためのものだ。隣国への侵攻は、外部の陰謀でメイモント王国の方針じゃない。
メイモント王国。
スピルードル王国。
ジャスパル王国。
この三国は、大陸の『魔獣深森』に対峙して、魔獣災害の震源地から中央諸国を守る位置にある。『盾の三国』なんて呼ばれるよ。
当然、相応の力がつねに必要だった。
スピルードル王国は『蜘蛛の意吐』の舞台で、力信仰といわれるほど武を尊ぶフロンティア国家だ。国内の辺境領じゃあ、商店の売り子まで戦闘訓練を受けて愛用の武器をもっているほど。
主人公たちがいた領都ローグシーが、ウェアウルフに攻め込まれたときには、街中総出、お祭りみたいな市街戦になって………街壁を飛び越えた侵入者たちは領兵と民衆に殲滅されたんだ」
_______わぁ・・ ( ̄◇  ̄ ;P
「殲滅⁉︎…… なにその修羅の国」
K;  ̄ ▽ ̄) ____
「南のジャスパル王国は、多島海をかかえた南国。部族連合でまとまりは弱いけど、王国出身者しか使えない精霊魔術という独自の魔術がある。
ジャスパル人はふつうの武術や魔術も学べるから、この国の戦闘集団は戦術の巾が広いだろうね」
________ ふーん ( ̄〜 ̄;P
「それじゃあメイモント王国は?」
K;  ̄▽ ̄) ____
「北国のメイモントには独自の『祖霊信仰』があった。恩寵はあったけれど組織化して国土防衛に活かしにくかったみたい。そして、冬の厳しい気候は人間に不利に働いた」
「寒冷地に適応した魔獣の被害が、どうしようもなくなっていったんだね。ある時期から死霊術師を大っぴらに集め始めて、水面下でも準備していたらしい。
そして、決断が下されるや否や、たちまち数千数万のアンデッドの軍勢を集めて使役し始めた」
「その間、大陸の中央の大国は口は出しても手は貸してくれない。教会本部は正しい信仰を訴えるけど、魔獣災害の脅威に答えを出さなかった。
だから最後は決裂したんだ」
______是非もなし? ( ̄へ ̄ ;P
「アンデッドの軍勢は、そうして生まれたのか」
「……でも理想の兵隊だよね。飢えも疲れも知らず、吹雪の最中でも出陣できる。魔獣が相手でも怯まず、どんな命令も拒まない 」
K ; ー ー)ムぅ___
「いいことばかりじゃない」
「アンデッド兵たちは、どれだけ戦歴があっても何かを学んで熟達することはない。逆にどんなわずかな損傷も回復(治癒)しないから、ダメージは蓄積される一方だ」
「組織としても問題がある。
本編の隣国侵攻は、一握りの軍人が精神魔法に惑わされて起きたけど、普通はそれだけで三万の軍が勝手に外国に攻め込んだりしない。命令に盲従するアンデッドの軍勢だからそうなった。
つまり、アンデッドの軍勢は乗っ取りに弱い。クーデターや地方反乱、敵への大規模な寝返りが簡単に起きかねない訳だ」
______ そうだね。(ーー;P
「ところでさ。今回、脱線しないね?」
K;`_´)ゞ 諸君!___
「わたしはミリタリな架空国家ネタが大好きだ。モンスターネタと負けず劣らず好きだ!」
「ファンタジーな雪国は、アンデッドで魔獣災害と戦う………その行く末、とっても興味深い!」
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■身体的特性とパワー[ ネタバレあります ]
メイモント王国のアンデッドの軍勢は、下位のゾンビやスケルトンが大半を占めた陸兵です。
人間の兵士のように手入れされた剣や槍、弓矢で武装しています。鎧兜や盾を装備したものもいますが、身体的能力そのものは民間?の死霊術師がつくる下位アンデッドとそれほど変わりません。
ただし、噛みついた相手に呪詛をうつしてアンデッドを増やす「感染呪」は、イレギュラーな事態をさけるため仕込まれません。
アンデッドの軍勢は、高級軍人と多くの死霊術師の指揮下におかれて、支援攻撃の魔術師団、警備や輜重の一般兵士と行動します。
戦場(魔獣討伐の現場)では、アンデッド兵は遠くから動きを把握できるよう開けた場所に展開し、指示を出しやすい部隊単位で戦わされます。
反対に指揮官は、アンデッド兵の進退やその方向、支援攻撃の中身、攻勢のタイミングなどを、人間を指揮するときより、はるかにこまかく具体的に命令します。
アンデッドは、力と規律のある愚直な兵士に仕立てられますが、臨機応変に物事に対処できません。前線で変事が起きても気がつかなかいことがあり、気がついても上位者に連絡報告しません(できません)。
アンデッドの軍勢の上級指揮官は、このため情報収集と想定外の事態への対処に高い能力が求められて、騎兵やフレッシュゴーレムの偵察・伝令をまわりへさかんに走らせます。
▷『蜘蛛の意吐』本編のアンデッドの軍勢
スピルードル王国との会戦で、侵攻したアンデッドの軍勢は集団戦でも単体戦力でも遅れをとり、無残に敗走しました。
アンデッド兵の猛進は、スピルードル軍の急造陣地に行く手を阻まれて、これまで自らが討伐してきた魔獣のように柵越しに倒されて行きました。さらに、主力が敵陣に食い込めずにいたところを『黒蜘蛛の騎士』の一騎駆けで蹂躙されたのです。
戦後、メイモント本国は、反乱軍(侵攻軍)の作戦を酷評しています。
アンデッド兵の員数が圧倒的に勝っていたならまだしも、完全武装の正規軍が待ち構える陣地へ、白昼堂々、兵の動きが遅いメイモント側から強襲など、アルケニーのゼラがなくとも敗北必至だからです。
メイモント王国で検証作業にたずさわった軍関係者は、アンデッド兵が山間の長距離行軍に耐えて、ふだんと変わらない能力を示したことを高く評価しました。それに対して、消息不明の指揮官たちについては、まるで両国の戦力をぶつけ合わせて、できるだけ早く多く損なうことが目的だったようだ、と、意図を疑いました。
▷北の地の、アンデッドの軍勢の戦闘
メイモント王国のアンデッドの軍勢が強みをみせるのは、本来、メイモントの厳しい寒冷な自然です。
寒冷地では、生身の人間は十分な力を発揮できません。環境適応した魔獣に対して、人間は冬季装備無しに屋外戦闘は不可能ですが、厳重な防寒は、武器の取り回しや素早い身のこなしを妨げます。コミニュケーションを妨げ、寒気による感覚の鈍麻や、体力の消耗はどうしても無くせません。
これに対して、ゾンビやスケルトンに特別寒気の不利はありません。氷雪の上では動きの鈍さはそれほど目立たず、スケルトンは腐肉が凍りつく極寒でも動けました。むろん防寒具は不要です *。
むしろアンデッド兵は、生身の手では凍傷を負いかねない金属武器や盾をつかえて、兜や部分鎧で守りをかためることが可能でした。
また、アンデッドは、未知の感覚で暗闇でも生き物の動き(オーラ?)をとらえます。長い冬の夜や悪天候の下、いつ森から飛び出してくるかわからない亜人型魔獣や狼魔獣を監視し、待ち伏せる任務に向いていました。
さらに一部の魔獣は、アンデッドの大集団を忌避しました。
行きすぎた後も何らかの痕跡(呪詛の気配?)を感じるらしく、メイモント王国はアンデッドの軍勢を、わざと時間をかけて主要街道で行き来(巡察)させることで、下位魔獣の人里への接近を抑制しました。
*『フブキ軍装(俗称)』:スケルトンに暖をとる防寒着は要りませんが、胴体の隙間に氷雪が溜まると重くなるため、天候次第で、小麦袋やテント布に穴を開けて被せることがありました。
■履歴
メイモント王国のアンデッドの軍勢の特筆すべき点は、国を守る誇りある存在として、一般国民に認められていることです。
アンデッド兵が駐屯地に(天日干しで)並んでいたり、街道を行軍するすがたは珍しくなく、辺地の村の子どもがスケルトンを花で飾ったり、小さな街で簡素なそろいのサーコートがゾンビにプレゼントされることさえあります。
彼らのほとんどは、死後に国に捧げられた一般国民の亡骸です。
大陸の中央諸国に伝わって来た、メイモント王国のアンデッドの軍勢に関する情報はさまざまです。いわく、
〇メイモント王国に死霊術師が集まりだしたのは、愛娘の復活を望んだ王の迷妄がキッカケ。
〇アンデッドの軍勢が創設されるさい、国内の遺跡迷宮が暴かれて数千体のスケルトンが集められた。
〇メイモント王国は実は、知られているより前から死霊術師を集めて、秘密の活動に従事させていた。
〇アンデッドの大軍をつくるため、王国各地で長年にわたりひそかに増やしていた『アンデッド民兵』を集めて武装させた。
〇アンデッド兵を作るため、領民は国の要請に応じて、墓地や氷窟に遺された祖先の亡骸を提供している。
これらの情報の真偽は不明です。中にはメイモント王国の欺瞞情報と疑われるものもあります。
メイモント王国は古くから祖霊信仰が根付いていて、死後に魂は冥界か天界、または輪廻の中へおくられ、残った肉体に魂は残っていないとされます。
祖先があってこそ今がある、ということで死体にも敬意を払いますが、メイモントの寒村では、ずっと以前から、家族や隣人の亡骸からスケルトンやゾンビを作り、冬の魔獣を斥けるために一緒に戦うことが公然の秘密でした。
そのため、中央から広まった光の神々教会とメイモント王国の祖霊信仰との間では、もとから軋轢がありました。
今日、メイモント王国では、いわば志願(献体?)でアンデッドが作られる仕組みが出来上がっています。アンデッドの軍勢が魔獣討伐で成功をおさめ、活躍が広く知られた結果で、ほかの国から理解されにくいところです。メイモント王国では、死後の私の身体を使え、と、国と契約することが美談として広まっています。
▷暗転
アンデッド兵に望まれる大人の(損傷の少ない)亡骸は、毎年そう多く出ません。魔獣災害の死者の減少は、老人や病死者の亡骸のアンデッド兵を増やすことになりました。
さらにスピルードル王国戦の大敗で、アンデッド兵二万体が無意に喪失、乃至損傷したことで損耗と供給のバランスが崩れてしまい、戦後の一時期、メイモント王国は国土の凡そ1/3(主に北の山間部)を棄てて、減少した兵力に合わせた防衛線を再構築する案さえ、真剣に検討しました。
さいわい、中央諸国の魔蟲新森の出現を境にして、メイモントの魔獣災害はなぜか小康状態に入り、現有兵力で(きわどく)専守防衛する状況が続いています。
王国政府は、防衛困難な鉱山集落や耕作地の統廃合、貴族領の再編を急いでいますが、利害の対立、先祖の土地への愛着などを理由に軋轢が増えています。
一方、アンデッドの軍勢そのものも見直されています。
従来の下位アンデッド、一辺倒の体制から、リベアランクと呼ばれる『再利用』アンデッドを活用した対魔獣戦闘の研究。さらに『新しいタイプのアンデッド』の開発と量産も試みられています。
後者のアンデッド研究は、極端な秘密主義と、外国の亡命者や素行に問題のある研究者、身元不確かな在野の技能者が集めらたことから、軍や政府内で新たな暴走が心配されています。
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関連項目
△スケルトン
△フレッシュゴーレム
▷ ショートストーリー原案:NOMAR様
……… ありがとうございました(K John・Smith)