三時限目『 ゾンビ(自然発生) // ゾンビ災害と葬法 』
ゾンビ(自然発生)
■種別:下位のアンデッド(動く腐乱死体)
■主な出現地域:呪詛の溜まりやすいところ
(墓地、処刑場、遺跡、戦場跡など)
■出現数と頻度:一体〜多数、ふつう
■サイズ:人間大
■危険度:小
■知能:なきに等しい
■人間への反応:攻撃
■登場エピソード:『蜘蛛の意吐 第二部~あなたの為なら一軍ぐらい蹴散らすの~』
死霊術のゾンビが軍勢の主力?として登場。
■身体的特性とパワー
ゾンビは負の生命エネルギー(呪詛)を宿して動き出した死体です。ウォーキング・デッドなどの別名があります。
もとの記憶や意思は失われていて、愚かで動きがにぶく、からだは腐ってぼろぼろだったり一部を失っています。体内がウジや甲虫、ネズミの巣になっているものもいます。
崩れかけたからだで生前をしのぐ腕力を発揮し、深手を負っても平然と人間に迫ってきます。ベテランの兵士やハンターさえ腐乱したおぞましい姿に動揺させられることがあり、生理的嫌悪と恐怖心で、女子供のゾンビ相手に不覚をとることもあります。
小説『蜘蛛の意吐』の世界において、世界的宗教『光の神々教会』はアンデッドとアンデッドを生み出す「不死者の神」を人類の敵対者と教えています。
小説本編や外伝で中心的に描かれているのは、異形の魔獣と魔獣を生み出す「闇の母神」で、今のところ不死者の神と負の生命エネルギー=『呪詛』は詳しく語られません。
しかしその秘密は、人類の未来に関わり世界の根幹に触れる重要事かも知れません。
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ゾンビは、大きく分けて『墓場からわき出てくる生ける屍』と『魔術や呪術で蘇った生ける屍』の二系統があります。
本稿は、前者を取り上げます。
▷ 自然発生するゾンビ
野良のゾンビとも呼ばれる『墓場からわき出てくる生ける屍』です。
死体が、自然に生じた呪詛のよどみで偶発的にアンデッド化して生きた人間に無差別に襲いかかります。
ゾンビの攻撃性は、自らの身体を破壊しながら追いすがるほど執拗で、犠牲者に悲惨な死をもたらします。
生前の怨嗟や憤怒を晴らしているように見えることがありますが、実際には生者の生命エネルギーを奪うこと、あるいは、呪詛で汚染することが目的だといわれます。
かすかに身体に残った生前の記憶や身体動作を、半ば自動的に反復する無害なものもいますが、ごくまれです。
自然発生のゾンビは、死霊術師がつくるゾンビと比べて、たいてい力が劣っています。
死霊術師のゾンビは、呪詛が外に漏れないように術が施されて、からだの基本性能?が少し上昇しています。自然発生タイプにそれはありません。
体格や損傷の度合いも、死霊術師の使役するゾンビが術者の目的(力仕事や警備など)に合った死体で作られるのに対し。自然発生のゾンビは、呪詛だまりにたまたまあった死体が宿った力で動き出します。
そのため子供や老人、損傷の大きな死体がゾンビになったり。屍蝋化したり植物やカビを宿した死体から、変わったゾンビができたりします。
● 感染呪
自然発生のゾンビの危険な特殊能力に『感染呪』が挙げられます。
ゾンビのからだの中で呪詛は増えて、一部のゾンビは、噛み殺したり大怪我させた人間を呪詛で汚染することで、犠牲者(の死体)を新たなゾンビに変化させるのです。
通常、医薬品や身体強化魔術で、呪詛の感染や汚染の進行は防げません。
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『 ゾンビ災害と葬法 』
大陸の中央諸国(富裕な先進諸国)は、長年、辺境の国々の奮戦によって魔獣の脅威から守られていました。
(「蜘蛛の意吐」本編終盤、急変しましたが)
これに対して、ゾンビはいつの時代も人々の脅威でした。
魔獣が文明圏の外から迫る天敵だとすると、ゾンビはリバーシーの駒のように同胞(死んだ人間)が怪物に変転する災厄です。
ゾンビの大群が人口密集地にあらわれると、ときとして感染呪の連鎖が勢いづいて大惨事になります。
大陸の文明社会の弔いは、土葬が主流です。
人間は「ゾンビ災害」の発生源になる埋葬地を自らの手で作りつづけ、管理に悩まされました。
▷土葬
亡骸を(棺桶などにおさめて)地下に埋めます。
仲間の埋葬を繰り返しながら、本拠の近くに呪詛のよどみを作らず。アンデッド化したときの脅威をさける単純な方策は、可能な限り、埋葬地を遠い土地に分散させることでした。
しかし、人口が増えて、土地の所有権や使途が厳密になると実行困難になり、決められた埋葬地を長年使い。アンデッド化しても這い出てこないよう、墓穴を深く掘って亡骸を埋めたり、埋葬後大きな石を乗せるようになりました。
後者は墓石になり、権勢を誇示する狙いで台座付きの石碑(墓碑)・石像へと発展。高い地位や富をもつ者は石棺や石室、霊廟(専用の地上建造物)に亡骸をおさめました。
しかし、どれも万が一のとき、ゾンビを自由にさせない意図は共通しています。
深い穴を掘りにくかったり石材を得にくい地域では「屈葬」が出現しました。亡骸の四肢を窮屈に曲げてきつく縄で縛り、小ぶりな棺で埋葬するやり方です。
万が一、ゾンビ化しても、地中で動けないまま拘束具もろとも朽ち果てることになりました。
さらにより単純かつ暴力的に、亡骸の首を落としたり四肢を切断して埋葬する方法もありました。
一般社会で公然と行われたり、埋葬文化の主流になったことはありませんが(弔いの気持ちとの齟齬があります)、深刻なゾンビ災害が起きた地域で、長い期間、暗黙のルールで埋葬死体を斬首した事例があります。
屈葬や遺体の意図的損壊は、時代と共にほとんどの土地で廃れました。現在では、法律で禁じている国では犯罪で、明文化されていない土地でも、社会的死につながる醜聞です。
▷火葬
大陸は土葬が主流で『故人を生前のすがたのまま、大地へ帰す』という考え方です。亡骸を石棺におさめて霊廟に入れる行為も、大地の上に安置して時の流れに任せたとみなされました。
これに対して火葬は、人の手でつくった炎(人の発した破壊の力)で亡骸を無理矢理、破壊する行為とされます。
世界的宗教の光の神々教会には、過去、火葬を『命の終焉を穢す行為』と呼び、極端に敵視する教派がいました。
一方、大陸の東方諸国や辺境では、長年、火葬はひとつの選択肢として当然視されました。
とくに極東の「東の国」はかたくなで、今日も火葬が主です。その特異性は、人喰いのアシュラ(四腕オーガ)に蹂躙された歴史にあると信じられてきました。
土葬は敵をひきつけ、屍が食い散らかされる危険もあるというわけです。
この点、最近になってスビルードル王国の若い魔獣研究者が異説を発表しました。
東の国の火葬は、はるか昔からの祖霊崇拝と自然霊信仰に根ざした伝統で。香木の炎にかけて天に高く煙を昇らせる火葬は、貴人の名誉ある弔いと紹介。論者は、東の国の史書から、弔いの詩を探し出しました。
▷ 浄化術
呪詛(負の生命エネルギー)を祓う技術です。アンデッドを活動停止させて、呪詛に由来する病にも対処します。
ふだん目立ちませんが、死者の安らぎを守ることも浄化術師の重要な役目です。かれらの呪詛祓いによって、教会の墓地は安心して埋葬することができました。
光の神々教会は長年、才能をもつ人材を集めて浄化術師の神官を増やし。各地に安全な埋葬地を作ることで人々の信頼を集め、存在感を高め、大陸に勢力を拡げました。
しかし、大陸中央では時代が下って埋葬地の確保が難しくなるに従い、浄化術師の呪詛祓いに過度に頼った過密な地下共同墓地があらわれました。
大陸の中央に魔獣災害が起きたさい、こうした埋葬地は短い期間で深刻な状態になりました。浄化術師たち自身が被災者になって力をふるえず、教会組織の支援も十分機能しなかったためです。
『魔蟲新森』が拡大した時期、ゾンビ災害もまた、大小10カ所以上同時多発したと言われます。
このとき英雄的活躍で多くの人を助けた者もいて。市井には、アンデッドの群れを墓地の外に出すまいと孤軍奮闘し、行方不明になった老墓守のエピソードが伝えられています。
◇ 魔獣災害後の中央諸国
大規模魔獣災害により、中央諸国の安定は一時瓦解しました。しかし、浸透した埋葬文化は失われず、社会が混乱を脱するとともに呪詛対策された葬儀が再開されました。
しかし、魔蟲新森出現から5年近く経過して、ゾンビ災害の同時多発(第2次)が危惧されています。
魔獣の森の中に取り残され、呪詛祓いされなくなった大規模霊園。あるいは、亡骸が大勢放置された廃墟が危険な呪詛のよどみになり。森の外でも、災害直後の臨時埋葬地のうち、再埋葬や呪詛対策が行われなかった場所で異常が報告され出しています。
後者は、魔蟲新森から遠く離れた場所(国内難民の大規模なキャンプ地など)も含まれます。とくに難民の移動の激しかった地域では、大規模な仮埋葬地のいくつかの場所が分からなくなっています。
▷死霊術
死霊術師は、呪詛の利用の専門家です。
浄化術師とほぼ同じ仕事ができますが、一般社会では邪悪なアンデッドをつくる忌まわしい術のちに使い手とみられ、忌み嫌われる傾向があります。死霊術師は、浄化術師に隔意や敵意をもち、死霊術の偏見を煽る教会に攻撃的です。
もっとも、田舎の町や村では、地元教会に浄化術師が常駐しなかったり巡回も遅れがちなので、緊急時、死霊術師に仕事を依頼することがあります。内容は、呪詛の病の治療や、地元墓地の呪詛祓いなどです。
こうしたとき、死霊術師は『修業の旅の浄化術師』などと名乗り、依頼する側も騙されたふりをするのが慣例です。
── 脱獄囚の死霊術師が「旅の浄化術師」と偽って各地を逃げ回り。ある田舎の教会で、無垢な盲目の女神官に取り入り、墓守として隠れ住むうち、光の信仰に目覚めるという寓話は昔あった実話とされます。
▷地方信仰
南国のジャスパルには独自の精霊信仰が根ざし、アンデッドは死の精霊に取りつかれた存在。呪詛は、死の精霊の呪いと説明されています。
北のメイモント王国には祖霊崇拝の歴史があり、輪廻転生の考え方がみられ、独特の葬法と呪詛祓いがあります。
さらに、大陸の東の土地(東方諸国)には東方哲学と呼ばれる思想がみられ、庶民に根づいた精霊信仰に似た自然崇拝と互いに影響を与え合っています。
極東・東の国は、東方諸国ともちがう、自然霊と祖霊崇拝が入り混じった「八百万の霊神の信仰」なるものが存在します。
こうした地方信仰の術師や祭司は、独自の力で呪詛を祓い、アンデッドに対抗しています。
教会の浄化術師とは、共闘して互いに実技を学んだりしますが、非協力や敵対関係の土地も珍しくありません。
理由は(教理信条を別にすると)、地方信仰の側には、秘密やしきたりが多かったり『精霊魔術はジャスパル人しか使えない』といった特殊事情があり。
教会の浄化術師側は、整理された教育訓練課程で集団で育成されたことから、呪い師や祭司たちと価値観が大きく異なるのです。
▷フューシア
大陸の東方諸国の建築と都市計画の学問で、東方哲学の一派ともいわれます。
天象をとらえて、土地の地相、建築物の家相をよりよく改変することで、住む者に成功と繁栄をもたらすとされます。長い歴史があり、いくつもの学派が盛衰を繰り返してきました。
フューシアは、呪詛やアンデッドの専門ではありません。
しかし、近年の術者は、フューシアは呪詛も制御できると主張し、正しく施術した建物や土地は呪詛が発生せず、たとえ外から流れ込んで来ても、呪詛を無害に散らしてよどみを作らせないといいます。
ほかの呪詛の専門職・アンデッドの対策組織はおよそまともに相手にしません。フューシアの高位の術師が呪詛を感知できなかったり、名高い術師が参集した大集会がゾンビ災害で被害を出すなど。実力を疑う事実がいくつもあるためです。
ただし、東方諸国には、伝説的なフューシアの術師がつくった霊園と、名家の墳墓が大小10箇所、現存し。フューシアの術師や信奉者、地元民は、呪詛祓い無しに何百年も安全に利用できていると述べます。
当然、今世の術師の高言を知る外国人は懐疑的です。
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関連項目
△スケルトン
△メイモント王国のアンデッドの軍勢
△カボチャ頭の弔い(ハロウィン特別回)
△フロストゾンビ
△プリズンゾンビ
△海を歩く亡者/東の国の伝承のゾンビ
「フューシア」は風水術をイメージしています。




