一時限目『 アルケニーのゼラ・上 』【写真付き】
アルケニーのゼラ・上
■称号:蜘蛛の姫、黒の聖獣、黒の聖女、西の聖獣など
■種別:進化した魔獣/蜘蛛の半人半獣
>> 魔獣の仔蜘蛛が、自分を助けた人間の子どもに恋して、半人半獣の娘になりました。
■主な出現地域:山野 → 人里
>> 辺境の領都に強引に乗り込み、人間社会にすむようになりました。
■出現数と頻度:単独/ごくまれ
■サイズ:人間より大きい
■危険度:極大
■知能:人間なみ
■人間への反応:友好的
■身体的特性とパワー
アルケニーのゼラは、褐色の肌の綺麗な少女の上半身、腰から下は黒い蜘蛛体です。
▽ 人間体(上半身)
黒い長い髪に薄く光る赤紫の瞳、褐色の肌の美少女です。
とくに目をひくのは、すばらしいかたちと大きさのお胸。しかも、人間のような羞恥心はなく、ヒラヒラした衣服を肌にまとうことを嫌うため(肌がムズムズするのイヤ、本人談)人間社会にかなり慣れてからも基本に裸族です。
のちに脱皮で成長する蜘蛛の本能の問題で、衣服を嫌がると説明されました。
人間そのものの上半身は、肌も人間のようにやわらかく、本編第2部で腕に矢をうけるとあっけなく貫かれました。
このためゼラ専用の鎧がつくられることになり、戦闘時、必ず上半身に装備するようになりました。
ゼラはアルケニーになった直後、語彙が少なくぎこちない話し方でした。
しかし、学習能力は高く、学習意欲を『カダールとの結婚』を殺文句にしてあおられたことから、物語の進展とともに貴族社会の会話術やテーブルマナーまでみるみる取得してゆきます。
▽ 七本脚の蜘蛛体(下半身)
黒い蜘蛛のからだは、背中に大人が楽々横になれるほど大きく、右の前脚を欠いた七本脚です。残った左側の脚(最前脚)をかかげるあいさつ(しゅぴ!)をよくみせます。
前脚の欠損は、ゼラとカダールの幼いときの出会いに関係していて、上位種へのメタモルフォーゼを何度繰り返しても無意識に治癒せず、欠損させたままでした。
その結果、騎士カダールは危機に陥るたび、どこからともなくあらわれる七本脚の黒蜘蛛(進化によって姿や大きさはどんどん変わる)に助けられることになりました。
アルケニーの蜘蛛体は俊敏です。
軍馬より早く平地を疾走し、壁や屋根の上に軽々と飛び上がります。重力魔法を併用することで、不安定な足場もたやすく踏破しました。
蜘蛛体は力も強く、脚一本でたやすく大人を蹴り飛ばします。大きな丸太にロープをかけて、強引に引きずって運ぶことも可能です。
蜘蛛体の背中は、やわらかな黒毛におおわれていて広く、大人が楽に横になれます。とても寝心地がよく、ゼラが人々に親しまれるようになると、一部から『背ベット』『至高の寝椅子』と呼ばれて人気を集めました。
▽特殊能力
・糸と網
アルケニーは、いろいろな種類の糸や網を使えます。糸や網を出すのは上半身の手指からで、敵の自由を奪う武器や罠にします。
ゼラは膨大な魔力を注いでさらに特殊な糸をつくり、美しい織物を空中で道具も使わず織り上げることができます。虹色の光彩を帯びた布は、後にプリンセスオゥガンジーと名付けられました。
・毒
ゼラは毒牙や毒爪をアルケニーになってから使っていません。人化前のゼラ(大蜘蛛)は麻痺の毒牙をつかいましたし、人化後も気分が高まったとき、特効の回春物質(研究者は『夜元気』と命名)を無自覚に分泌していました。
このため毒攻撃の力を無くしたのではなく、ゼラ個人がアルケニーになってから人間とおだやかに暮らしはじめたことで、無意識に危険な毒を使わなくなったと考えられます。
•『ビーっ!』
ゼラは、アルケニーになって、圧倒的な破壊の力を新たに獲得しています。
『灰塵の滅光』とも呼ばれる極太の白光(分子分解光線?)で、それにふれたものを塵と灰にして消失させます…… 古い伝承を知る人間は、上位ドラゴンの金龍の『光のブレス』の伝承を連想しました、
ほかにも『爆発光線魔法』と名付けられた未知の系統の魔法を使いますが、ゼラはそれらをドラゴンの灰龍を喰った(因子を取り込んだ)ことで獲得したようです。
・隠蔽と潜入
ゼラは氷や雷・水・土など、さまざまな魔法をつかえます。
アンデッドの軍勢に挑んださいには、攻撃に防御にと自由自在に魔法を放ち、単独で数千体を蹴散らしています。
ただし、ゼラは火の魔法は使えません。
仔蜘蛛のとき、火嵐の魔術で瀕死のけがをした影響のようですが、火そのものを恐れることはありません。
しかし、ゼラが最も熱心に磨いていたのは『隠蔽と潜入』に関する能力でした。
ゼラは仔蜘蛛のころから恋したカダールを盗み見るため、何度も街へ忍び込んでいました。
初めは民家の飼い犬にも吠えられる有様でしたが、気配遮断、魔力隠蔽などを徹底的に強化し、死角移動、消臭、消音、そして、いち早くまわりの異常を捉える知覚をみがきあげます。
アルケニーとなったとき、ゼラが身を隠して忍び込む能力は、過去類例のない高水準に達していました。
…… ある魔獣研究者は、首を傾げました。
ドラゴンを殺すほどの戦闘力を養いながら、なぜ高度な隠蔽能力をみがきつづけたのかと(ストーカー的動機を知らずにです)。
しかし、結果として、ゼラは半人半獣の魔獣でありながらまわりを威圧しなくなり、幼い子どもにさえ、わずかの時間で親しまれるようになりました。
・治癒魔法
アルケニーのゼラは治癒魔法が得意です。
人知を超えた進化した魔獣たちの中でも、前代未聞の高レベル。自分自身の内臓器官を「自己改造」して妊娠出産を成功させたほどです(危うく死にかけましたが)。
さらにゼラは、他者の治癒に長けています。
上位の魔獣が自己治癒の力をもつことはよくあります。しかし、他者に力を行使できる者は少なく、四肢欠損さえ回復させるゼラの治癒魔法は規格外です。
仔蜘蛛のとき、自分がけがを治してもらって嬉しかったこと。恋したカダールが騎士になって、たびたび危険に飛び込んでいったこと(アルケニーになる前、ゼラはこっそり後をつけてハラハラしていた)。
そうした思いが、治癒魔法の力をのばす進化を促したようです。
アルケニーのゼラが、人びとから聖獣や聖女と呼ばれだす直接の理由は、この治癒魔法です。
ゼラがはじめに力をふるったのは戦地で、心停止した人間を蘇生させ、四肢欠損さえ治すさまは、治療にあたっていた司祭たちに強い衝撃を与えました。
…… ただ独学?の弊害もあり。
のちにある魔法の使い手は、ゼラの強力な治癒魔法に驚きますが、同時に麻酔や麻痺の魔法をまったく知らず、けが人に痛みを我慢させる様子に唖然としました。
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□付記:人化魔法
人化魔法は、進化した魔獣のひとりが編み出した変身魔法です。
ゼラは多くの魔法を使いこなしますが、人化魔法はまったく使えません。理由は、精神面と考えられています。
魔法は、使い手の人格や感情、無意識の想いとつながりがあります。
ゼラは人化魔法を知ったとき、すでにカダールと気持ちを通わせていました。
人を怖れさせる魔獣の怪力や圧倒的な魔法さえ、辺境領の医療や土木建築の分野で活躍の場を与えられて存分に振るうことができ、人びとから感謝されていたのです。
アルケニーのゼラは、居場所をえて幸福を感じたことで人化の動機を無くしてゆきます。今の姿を変える人化魔法は、心が拒んだのでした。
いつしかゼラのまわりから、完全人化の話題は出なくなって行きます。