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『授業のはじまり』【 バルーンアート写真付 】

    挿絵(By みてみん)


◆ ある館の授業風景………



「魔獣とはなにか?」


 ── 白く眼鏡を光らせた女教師。

 彼女が立つ教壇から、おちついた口調の声が幼い生徒たちに降る。


 小さな机の横列。そこに三人の子供たちが真剣に授業を受けている。

 そのさらに後ろ、部屋の壁の近くに乳母や父親たちがならぶ。


 ウィラーイン伯爵家の授業参観である。



 おちついた顔で淡々としゃべっているが……… この眼鏡の教師は緊張しきっているようだ。そうに違いない。


 子供たちの授業は三時限目で、この科目も半時間近くたつ。しかし、女教師の手には教科書どころかメモひとつない。

 まさか、いつも丸暗記しているのか?


 わかりやすい授業だ、そこは認めよう。

 だが、水準の高さは上級貴族の子弟。いや、王都の高級文官の採用試験の域に迫る勢いなのはなぜだろう。


 因数分解を六歳児が解くなど、そんな馬鹿なと言いたい。


 しかし、子供たちをみても困惑した様子はない。つまり、これは普段なのだ。


 ── いつからこうなんだ?

 エクアドは自分の息子が受ける授業の水準に動揺する。



 今の科目はこの眼鏡の女教師、魔獣研究者ルブセィラの『専門分野』だ。

 いきなり微妙な話題にふみこんだ。


「人間の最大最強の敵・魔獣」


「すがたかたちはさまざまですが、生き物として過剰な戦闘能力を有し、まるで、人間を殺す為に生まれて来たように人間に敵対的です」

「魔獣研究家は、これまで長い間、異形の生き物の学術調査に取り組んできました。しかし、まだ多くの謎が解けていません」


「魔獣の中には、 伝説化してことさら恐れられているものたちがいます」


「人を惑わす災厄、殺戮の妖女、傾国の魔獣…… アルケニーはそうした伝承の怪物のひとつです」


「美貌の女と大蜘蛛のからだを併せ持ち、巣網の罠、毒の牙はかわし難く、心を乱す魔法で男を虜にして、最後に食い殺す……」


「おそろしい魔女の伝承が中央諸国にあります。流浪の女が、国王の目にとまり寵愛されるのですが、国政は乱れて数年でひどい戦がはじまります」

「女の正体は、闇司祭のアルケニーでした。邪悪な正体を暴かれた寵姫は英雄に討伐されますが、その猛毒は……」


 淀み無く続く眼鏡の教師の授業。

 それを理解して聞き、ときには手を上げて質問する三人の子供たち。

 その背中を見る二人の父親は小さな声で、むう、と唸る。


 ── 授業参観後


 我が子の学習の様子を見たエクアドはカダールに話しかける。


「カダール、相談がある。さっきの授業だが」

「………うむ。邪悪なアルケニーの伝承は各地にある。いずれ教えねばならないことだ。すがたを見ただけで恐怖される人外── 子どもたちに刺激は強いが、そんな『常識』を知らずにおく方がこわい」


「いや、おれがいいたいのは、教師のルブセィラのことだ」

「ん?」

「あれは英才教育すぎる。年がかなり上の子どもでもあの授業にはついて行けまい。このまま進ませていいのか? 正直こわい」

「ルブセィラにまず、子どもの『普通』を教えるべきだと?」


 カダールは腕を組み少し考えて、「そうだな」と、口にするが、


「だが、おれは母上の『最高傑作』だそうでな。おれの子ども時代を目安にして意見してよいか自信がない」

「………中央諸国には、貴族の子弟を集めた教育機関や派遣教師の資格制度があるそうだが」

「ウィラーインに合うとは思えん。あと、どこも魔獣災害の余波で大混乱だろう」


 どうしたものかと悩みはじめた父親たち。

 勉強道具を片付けた子どもたちは、立ち止まったふたりに構わず、追い越してゆく。廊下を駆けるアルケニーの双子の女の子と、乳兄妹の人間の男の子。

 三人は歓声を上げて、明るい中庭へ飛び出していった。



 これまで静かに見ていた双子の女の子の母、アルケニーのゼラはカダールとエクアドに顔を近づける。


「ン、カダールもエクアドもそんなに心配しなくてもいいんじゃない? だってあんなに元気なんだもの」


 黒髪の乙女は、赤紫の目を細めて微笑む。カダールも釣られて笑い、ゼラの頬に手を伸ばす。


「ゼラはすっかり母親の顔になったな」


「そお?」

 愛する夫の手に褐色の肌の頬を委ねるゼラ。

 伝承に伝わる半人半獣。下半身は大蜘蛛の乙女。

 アルケニーのゼラは少女のように優しく微笑む。


「ンー、でも、アルケニーって怖い話で伝わってるの?」



    挿絵(By みてみん)

             『アルケニーのゼラ』



◆ ショートストーリーの登場人物たち


》ルブセィラ女史 /

王国の研究組織の魔獣研究家。アルケニーのゼラが人間社会にあらわれた際、辺境の伯爵領へ派遣された。きわめて有能だがとても非常識で、はじめの頃、ひどいトラブルを起こしている。

現在、ゼラがもっとも信頼する女友達で、子どもたちの教育もまかされている。領都に研究活動拠点を設けて、魔獣の最新研究にも熱心。


》生徒たち

カラァ /ゼラとカダールの幼い娘。アルケニーの双子。

ジプソフィ /    〃

フォーティス/エクアド夫妻の長男。双子の乳兄妹。


》保護者たち

ゼラ/アルケニーの蜘蛛姫。世界宗教の光の神々教会から『聖獣』と認められている。

カダール/ ウィラーイン伯爵夫妻の長男。ゼラの夫で『黒蜘蛛の騎士』。


エクアド/カダールの親友。ウィラーイン伯爵の養子に迎えられて、次期当主となる。

フェディエア/エクアドの妻。元・大手商会会長の娘。


ハラード/現ウィラーイン伯爵。あだ名は無双伯爵。

ルミリア/伯爵夫人。あだ名は博物学者、火炎嬢。


…… ショートストーリーへつづく。



ーーーー 追加 ーーーー


○ 『授業のはじまり』の前日譚が小説化されました。


「蜘蛛の意吐」欄外スピンアウト集 『ルブセィラ女史、先生となる』作者:NOMAR様

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蜘蛛の意吐
あなたの為ならドラゴンも食い殺すの
ジャンル異世界恋愛小説。‬『今日の一冊・第66回』にてご紹介。本編といえばこちらです。



蜘蛛の意吐
欄外スピンアウト作品集
後日談を中心に過去話、パロディ、サブキャラクターたちの短編などを、順不同で不定期掲載。100話突破。




◎ 同じ世界観の別主人の外伝異伝
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
作者:NOMAR ‬様


火炎嬢のいらだち
ジャンル:ハイファンタジー、魔術令嬢、ハンターたちと魔獣の森へ


少女に恋した白毛龍
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闇を落とした毒の魔女
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小説家になろう、の中で起きた創作スパイラル
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K John・Smith (自作)

魔獣詩歌断片集 〜 Fragment 〜 魔獣世界のシナリオソース集
《本編》小説世界のシナリオソース集です。一話完結。


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『 魔犬 』〜 ブラックドッグの起源を考える 〜 イングランドの黒妖犬の伝承から、人間と犬の関係を考えたエッセイです。
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