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Lo.St. –encounter– 孤独を語る者達の異世界一会  作者: スバルバチ
第二章 ー忌双ー
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七話 黒き獣耳–solht−

挿絵(By みてみん)


探索から既に五日ほど経っているがその間の天候はあまり芳しくなかった。


危険を冒してまで無理に空からの探索を進める必要は無いと判断して天候が回復するまでの間は地表を歩きながら探索していた訳だ。


恐る恐る力を調整していた歩行移動も五日も動き回った事によって次第に慣れていた。


今では足場さえしっかりとした場所であれば僅か十数歩で高い崖を駆け登れる程だ。


今日の夜になってようやく霧や雲が晴れ天候も回復したので初日に見つけて拠点としていた洞穴から夜空を見上げる。


「今日は幸い天気もいい様だ。明日の朝まで待ってもいいかもしれないが山の天気は変わりやすいと聞く。可能なら今のうちに危険で無い範囲で探索した方がいいと思うんだがどう思う? 」


「イイ……と思う。光は出せるよ? 」


この数日でウルとの会話がかなりスムーズに出来る様になってきた。


始めは応答の返事だけであったが指示だけではなく相談する様にウルに意見を聞くなどしていると自分の考えも多少なり言葉にする様になっていった。


短い期間でここまで進歩するとは思ってもみなかった。


多分、本来のウルは知能も高く飲み込みも早いのだろう。


一度教えた事はすぐ覚えるし、其処から自分なりに応用した技術も生み出していた。


食糧を入れた葉っぱで作った袋はウルのお陰で始めに俺が作ったものに比べてより頑丈に出来ている。


強いて難点を挙げるなら引っ込み思案なところや子供っぽい部分は相変わらずだ。


空腹であっても腹が鳴って俺が食物を渡すまで何も言わないし俺が休憩を言いだすまで文句一つ言わず従順に付いてくる。


もう少し主張してくれた方が心配しなくて済むのだが……


その割に服の着せ替えや身体の汚れを落としたりと言ったことは俺に全てを任せきっていた。


服が泥で汚れた時なんかは俺がシャツを脱がせたり、泉で髪を洗う時も成すがままに俺に全てを任せている。


しかし少しずつではあるが自分でもボタンを留めたりし出しているので一日も早く自分一人で出来る様になってほしい。


慣れてきたとは言え女の子の服を着せ替えるというのはやはり気が引けてしまうからな。


良くも悪くもウルは基本的に受け手だ。自分から行動を起こしたり意思を示す事はあまり無い。


しかし指示を出すと素直に従うし、俺が悩んでいると手伝おうとしてくれる。


ウルの事を説明するとそんな感じの控えめで可愛らしい少女だ。


ともあれ二人で洞窟を出て衣を纏い、空を飛び立つ準備を始めた。


周囲は胸の下程の高さまである草むらが生い茂っている。


「じゃあそろそろ行くか。ウル、準備は……」


暗闇の中で草が擦れる音が静かに響く。


気配がした――


気配といっても超常的な能力で感じたという訳では無い。


現代社会でぬくぬくと生きていたサラリーマンがそんな聖闘士さながらの第六感でも持ち合わせているかの如く気配を察知するような能力を持ち合わせている筈も無い。


気配を感じたというより薄暗い草むらの一部が微かながら不自然に揺れていたのだ。


ウルは俺が気付くより早くその気配を察知していた様だ。ずっと只一点をひたすら凝視している。


「何かいる。」


風は微かに左から右に吹き草を右側に揺らしていたが、微かに動いた部分は草が左側に傾き、不自然に振動していたのだ。


右手に光を灯したウルを手で静止させて体制を低くしてゆっくりと近づく。


「ッヒィィッ!!? 」


甲高い声が静寂の中で響き渡る。


人の声か獣の鳴き声か判別出来ない。


ウルが臨戦態勢に入ろうとしたのか重々しい重圧を放つがウルに視線を向けて頭を振り落ち着く様に促す。


ゆっくりと鳴き声の出所に近づいてみる。


「£*ーー♭∞∀ーーヾ!! 」


其処には奇声を上げて腕を交差して両肩を掴んだ鹿の顔を持つ小人が背筋を正して直立していた。


「ー∞⊇ー⊿ーー≒≡ー♭*!!!!!! 」


何を言っているのか分からない。


呻き泣くような声を上げている太い首から不気味に伸びる鹿の顔は只々此方を見つめている。


何というか……体は普通の子供の様だが胸元から上は鹿の…不自然にくたびれた皺が目立つ鹿の頭を持つ者がいた。


「ん?」


良く見ると首筋に二つの穴が……


「えい。」


鹿の角を掴んで持ち上げると、被り物の鹿の頭から泥まみれの子供の顔が現れた。


目に大粒の涙を溜めて怯えきった表情でこちらを見ている。


頭から飛び出た黒い獣耳と黒く長いフサフサとした尻尾をピンと立てて、ボロボロの泥塗れの一枚布をワンピースの様に穴を開けて着ている姿は野生児や奴隷の風体そのものだった。


「逆ケンタウロスかと思ってびっくりしたぞ。」


怯えながら声を震わせて呻く子供に対して俺は両手を挙げて敵意がないことを示す。


すると子供は蹲りながら跪き、腰から取り出した木の実や乾燥させた様な果物、小さなクリスタルの欠片等を両手一杯に掴み、震えながら差し出してきた。


獣耳獣人の子供に土下座させてカツアゲする三十路男の図。


必死に命乞いをする獣耳と尻尾を生やした子供。


慌てて子供の肩を叩き、ジェスチャーで右手を顔の前で左右に振り「そんな事しなくていいよ」とアピールを行ってみたのだが伝わるだろうか。


顔を上げた子供は鼻水と涙で更に顔を汚しながら、必死に啜り泣きを抑えようとしていた。


ポケットに入れていたハンカチを取り出し、優しく顔を拭きあげる。肩を揺らしながら泣く獣耳の子供は不思議そうな顔で俺とウルを見つめる。


少しは落ち着いたのだろうか……


背中を摩りながら子供が落ち着いた事を確認し再び言葉を投げかける。


「俺の言葉がわかるか? 」


ピンと耳が立った。まさか通じているのか!?


首を傾げる獣耳っ子。


どうやら言葉は通じていない様だ。


「ウルに任せて。」


ウルが獣耳っ子に近づき俺と獣耳っ子の額に手を置いて此方を見つめる。


「伝えたい事……教えて。」


ウルの言葉に考えを整理させながら答える。


「先ずは俺の話している言葉がわかるかどうか確認したい。」


獣耳っ子の耳がピクンと反応した。


「コトバ……アタマ……ヒビク……」


ウルが片言を呟きながら言葉を紡ぎ出す。


「もしかして頭に直接語りかけているのか? 」


コクリと頷くウル。


「£*ーー♭∞∀ーーヾ!! 」


獣耳っ子は顔を上げて何やら叫んでいる様だが内容は一切わからない。


「俺はお前が何を言っているのか言葉がわからないんだ。もし俺の声が聞こえて言葉の意味が分かるなら首を縦に振ってくれ」


コクコクコクコク……


激しく首を縦に振り涙でキラキラと輝く瞳で俺を見る。


何やだこの子っっ可愛すぎるっっ!!


いや待て……此処は冷静になって疑問を問い詰めなければいけない場面だ。


「どうして隠れて俺達を観察していた? 」


視線を右に逸らし、しばらく沈黙が三人を包む。


暫くして獣耳っ子は視線を戻しうな垂れる様に小さな声で囁いた。


「モリ……サワギ……シラベタ……コワイ……カクレル……」


ウルの言葉から内容を推測していく。


「えっと……森で騒ぎがあったから調べていたが俺達を見つけて怖くなって隠れていたみたいな事か? 」


獣耳っ子が頷いて震える指で俺の方を指差した。


「俺が怖かったのか? 」


再び獣耳っ子が怯えた顔で頷く。


俺が怖い? そんな片鱗一度も見せてないし、そもそも俺は唯のオッさんだ。


ウルの様な規格外の力を持っている訳でも無いのに何故俺が怖がられてしまうのか。見た目…なのか?


「いいか、怖い力を持っているの俺じゃなくてはこっちのお姉ちゃんのほうだぞ。だがお姉ちゃんはとっても優しいから安心していいんだぞ」


ウルが少しムッとした顔で此方を睨む。


「ウル、怖くない。」


どうやら冗談が通じた様だ。


ウルに身振りで謝りながら獣耳っ子に目を向ける。


「コッチモ……コワイ。デモ……コッチガテン…コワイ」


震える指先がウルを指差した後に再び俺に向かう。


身長ではウルよりも俺の方が確かに大きいし、ウルに比べれば野蛮な感じに見えるかもしれないが……


しかしこの様子だと冗談や嘘を言っている訳では無いと思う。


其処でふとある事を思い付いた。


空からの探索も重要だが其れは後回しにしてこの世界の情報をこの子から聞き出せないか?


「話はわかった。そんな俺達から君にお願いがある。」


獣耳っ子はビクンと身体を震わせた。


「先ず始めに協力しようと協力しまいと俺達が君に危害を加える事はない。」


震えながら不安そうに話を聞いている。


「もし協力してくれたなら今お前からの頼みに多少なり手を貸してもいい。もちろん内容次第ではあるが。」


獣耳っ子の耳がピンと立った。


どうやら話には興味ある様だな。


「俺達のお願いの内容はこの世界についてお前が知っている事を色々教えてほしいんだ。」


「シツテル。ナニ? 」


「例えば国や集落があるならその概要、この世界の一般常識なんかを知りたい。もし他の世界に渡る方法があるならそれは最優先で教えて欲しいな。後は…脅威となる者…気をつけるべき事なんかも重要だな。」


獣耳っ子は暫く俯いて考え込んでいた。


「シラナイコト……オオイ。デモ……イイ? 」


暫く考えつつウルに目を向けると無言で頷いた。


ウルも協力する事を賛成しているのだろうか。


正直なところ元の世界に帰る手段などの重要な情報が聞き出せるという期待はあまりしていない。


しかしこの子にとって当然に知っている事でも今の俺達には必要たり得る貴重な情報だ。


多少は不釣り合いな条件でも話を聞く価値は充分にある。


「大丈夫だ。俺から色々質問するから、知っている事だけ答えてくれれば良い。」


「ワカツタ」


「お前の方からは何か頼みはあるか?」


「マセキ……ホシイ……モツテル? 」


「マセキ……魔石か? どんな物かは分からないが入手方法を教えてくれれば取りに行くぞ。」


この世界には魔石なんて物があるのか。


其れが貴重な物かどうかは分からないが、其れを渡す意思くらい示さないと断られてしまうか?


後から準備できる物であれば良いのだが……


「マセキ……マジユウ……」


ウルは言葉を紡ぎ出すのを一旦止めたのか額から手を離し、掌を獣耳っ子の前に伸ばす。


手を前に出して瞑想するように目を閉じた。


すると掌から淡い光を灯し、やがて光が周囲に広がり始めて次第に掌に凝縮されていく。


その光は以前ウルから貰った衣を生み出した時と同じ光だった。やがて光が収まっていくとウルの手に前の世界で見た水晶の柱によく似た材質の石の塊が生成されていた。


「これで良い? 」


「£*ーー♭∞∀ーーヾ!! 」


獣耳っ子は驚きの表情で言葉らしき叫びを発している。何やらかなり喜んでいる様だ。


「えっと……これでいいのか? 」


獣耳っ子は生成された石をマジマジと眺めた後、何度も頷いてお辞儀を繰り返した。


突然条件に対する対価が目の前に現れ、挙句あっさりと先払いされた事に唖然とした。


まぁ結果良ければ何とやら…とも言うからな。


苦笑いしながらいつもの様に良くやったとばかりにウルの頭を撫でようと手を伸ばした。


いつもなら頭を突き出して撫でられるのを待っている筈だ。


しかしウルは険しい表情を獣耳っ子に向けている。


「ウル、どうしたんだ? 」


「これじゃダメ。」


獣耳っ子を見つめながら小さな声で呟いた。


「ダメ? 獣耳っ子は喜んでいるようだが何がダメなんだ? 」


「これじゃ……助けられない。」


助けられない?ウルが何を言いたいのかよく分からないな。


「どういう事だ? 助けられないって一体何を助けられないと言ってるんだ? 」


ウルは顔を俯かせてか細い声で囁いた。


「妹……病気。助けたい……」


ポツリと呟いたウルの言葉が俺の心を騒つかせた。


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