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Lo.St. –encounter– 孤独を語る者達の異世界一会  作者: スバルバチ
第一章 ー遭逢ー
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四話 紺桔梗の少女–Ur–

挿絵(By みてみん)


雪の様に透き通った白い素肌。


艶やかな紺色の衣から覗く其の色白の素肌は艶かしさと瑞々しさを感じさせ、思わず手を伸ばして触れたくなる程の美しさを感じさせた。


頭には二本の角が生え伸び、白く輝く白銀とブロンドの髪が混ざり合い煌めいている。


「あ……」


枯れ切った喉から思わず声が漏れた。


「ゴホッ! ゴホッ……あー、其の……大丈夫か? 」


一体何が大丈夫なのか。


自ら発した第一声に疑問を抱えながら目の前の人物を覗き込む。


言葉に反応したのか、其の人物はゆっくりと頭を上げて無気力な表情で無言で此方を見上げている。


くっきりとした目鼻立ちと幼さを残しつつも気品が感じられるきめ細やかでハリのある肌。


無垢な少女の様でありながら、洗練された美貌を放つ絶世の美女と言っても過言では無い程に美しく整った容姿。


子供と言われると大きく、大人と言われると小さな体格だが首筋の奥から覗く豊かな膨らみを主張する乳房と衣の上から浮かび上がるほっそりとしたくびれのある腰のラインから相手が女である事がわかった。


「名前は……いや言葉は分かるか? 」


『……ウル』


頭に直接語りかけられる様な声が聞こえた。


「ウル? 其れが名前なのか? 」


頭を上下に揺らしている。


言葉は通じている……のか?


手をついたまま身体を引き摺りながら少女に近づき目線の高さを合わせていく。


俺の動きに反応して微かに体を震わせていたがウルと名乗る少女も身体を起こして視線を向かい合わせてくる。


いきなり目の前に現れたウルと名乗る少女。


一体何から話掛ければいいのか……


「えっと、キミは何処から此処に来たんだ? 」


「………」


俯いているな。質問を変えよう。


「此処がどこなのか知っているか? 」


首を横に振った。


やはり言葉は通じているようだ。


其の後、他に人が居るかどうかや家の場所なんかの質問を投げかけてみたが少女は無言で首を横に振っている。


質問の度に首を振る力が弱々しくなっていき、瞳が微かに涙ぐんできてる。


「突然色々と聞いてしまってすまないな。名前がわかっただけでも良かったよ。」


怯えた様子を見せていたので何気もなく笑顔を向けて少女の頭を撫でると、少女は真白の頬を桜色に染めて微笑み、衣の中に蹲まっていく。


少し馴れ馴れしかっただろうか?


不思議な世界で生物では有り得ない存在と邂逅し、突然消えたかと思えば訳もわからないまま目の前の少女が横たわっていた。


山の様に積み重なった想像を絶する謎の数々を思い返しながら大きな溜息をついて眉間を摘んで再び力無く俯いた。


しかしこのまま何もせずに足踏みしたままでは問題は何も解決しない。


「えっと…ウルだったか。君は此れから何かする事はあるのか?其の、目的とか。」


ウルの表情が再び曇り始め、困った表情で更に体を丸めて蹲っていく。


この様子だと帰る場所や戻るべき身元も無いのだろう。


実際に見た事はないが親に捨てられたストリートチルドレンとはこんな感じの子供達なのだろうかと想像した。


そんな事を考えながら目の前の少女に話しかけていたのだが、小動物の様な愛らしい仕草で弱々しい反応を示す少女を見ていると重圧による緊張もだんだんと緩んできた。


気が付くと先程まで感じていた途轍も無い重圧もいつの間にか消えている。


まるで始めから何も無かったかの様に……


気力が僅かながら回復した俺は其の場で立ち上がり、少女を立たせようと手を差し出してみた。


「ほら、立てるか? 」


しかし何かを躊躇ったのか少女は伸ばしかけた青黒い手を衣の中にゆっくりと差し戻していく。


手に手袋を付けているのか?


「じゃあ、此れならどうだ? 」


少女の前で蹲み込み背中を向けて乗っかる様に手で合図してみた。


「………」


やはり動かないか。


しかし流石に布一枚を羽織っただけの少女を何事も無くこの場に放置して立ち去る事は出来ない。


其れは多分、この子の為でもあり何より自分の為だ。


ウルは不思議そうな顔で首を傾げている。もしかして俺の意図が伝わってないのだろうか?


此れで駄目なら次はお姫様抱っこでもしてやろうかな?いや、流石にそれは絵面的に不味いかもしれない。


年端の行かない少女をオッさんが無理矢理抱き抱えるなど犯罪行為だろう。


「互いに此処に留まっても仕方が無い。付いてきたいなら背中に乗ってくれ。」


視線を逸らしつつもそっと背中に手が伸びようとした。


しかし再び躊躇った様子で衣に手を差し戻そうとした手を掴み取って自分の肩に手を乗せた。


「ほら、気にする事はない。変な事はしないから安心して背中に乗っかればいい。」


肩に掛かっていた濃紺の衣が擦れ落ち、白白とした肩が露わになっている。


見る限り衣の下は何も着ていないのだろう。


視線を前方に戻して再び手で合図を送る。


暫くするとモゾモゾとしながら少女が乗っかってきた。


青黒い足が脇下から伸びてきたのは多少動揺したが、肩に置かれた手を首に回して脚を抱えて立ち上がる。


少女の青黒い手や脚は布を上から被せている訳ではなく、肌其のものが青黒く、触れた感触は普通の肌と変わらない。


寧ろスベスベで程良いハリがあり、ずっと触っていたいと思ってしまう心地良い肌触りだ。


いかんいかん。下手な事をすれば警察に捕まってしまう。


しかし予想よりも大分軽いな。


「さて、色々あったが探索を再開するか。」


少女を背負った俺は再び崖に沿って辺りを見渡しながら歩き始めた。


少女と俺は言葉を交わす事なく黙々と歩き続けている。


何を話せば良いか分からず会話のネタも思いつかなかったので、俺は先程の出来事を頭の中で思い返していた。


小説やラノベを読みふけり培った程度の拙い想像力をフルに働かせて考えてみよう。


先程遭遇した泥に塗れた女は実はこの少女で、何かが原因で違う姿になって現れた。なんて事はありそうな展開だな。


寧ろ状況的には其の通りである事の方が自然な流れだ。


泥の女がヒロインというのは勘弁願いたいが、この少女ならばまだマシ…もっと外見年齢が高ければ…


いや、話を戻そう。


あの女は「シネナイ」とか「ケシテシマエバイイ」とか言っていた。脳髄に響き渡ってきたあの女の言葉一つ一つが未だに頭にこびりついて離れない。


其の言葉を頼りに今の状況を照らし合わせると、自ら記憶を無くし、其の上見た目まで変化して現れたのではないかと推測していく。


どんな理由、どんな原理でそんな超常的な現象が引き起こされたかは全く分からないが、泥の女とウルと名乗る少女が同一人物である可能性は状況的に非常に高い。


今背負っている少女がいつの間にか泥の女に変わっていたら…などと思うとゾッとしてしまった。


あの泥の女と同行するなど隣にいるだけで心臓が止まりそうになる為御免被るが今の少女の姿なら…


危険だとは思うが一緒に行動しても良さそうだ。


此れが日本で引き起こった事態ならば、恐らく自ら進んで関わる事は避けて立ち去っていただろうと思う。


小さな子供ならまだしも相手は微妙な年齢の少女だ。面倒事には巻き込まれたく無いからな。


しかし此処は日本じゃない。


しかも誰もいない世界で唯一出会えた相手だ。下手をすればこの世界に引き込まれた原因の可能性ですらありえる。


断定する事はできないが、この少女といる事でこの世界から抜け出せる何かしらの手段や道筋が見つかるかもしれない。


憶測に推測を重ねていく。


くぅぅぅぅぅ………


可愛らしく鳴る腹の音が背中越しから聞こえてきた。


「腹が減ったのか? 」


「………」


少女は背中の上でさらに蹲る様に身体を密着させて、首元で組まれた両腕が優しく締まり無言の返答が返ってきた。


「一旦降すぞ。ちょっと待ってろ。」


少女を背中から下ろして徐にポケットにしまっていた玉を差し出した。


「此れだけしか無いが食べるか?味もいいし腹は満たされるぞ。」


少女は立ち尽くしたまま衣から手を伸ばし、差し出した玉を両手で受け取って目を輝かせながら眺めていた。


「見た目は水晶玉みたいだが食べられる。試しに食べてみるといい。」


匂いを嗅いでいる様子は犬みたいな仕草に似ている。しかし中々食べようとしないな。


反対のポケットからもう一つの玉を取り出し、少女に見せつける様に口に放り込む。


其の様子を見た少女は真似する様に片手に持ち替えて玉に口を近づけた。


小さな口を僅かに開けて口に含むが弾力のある玉を噛み切る事ができず齧り付いたまま此方をじっと見つめてくる。


「噛み切るんじゃなくて呑み込む様に食べるんだ。口の中に含んだら勝手に溶けていくから。」


少女が口に玉を咥えたまま首を傾げている。


其の愛らしさに胸がギュッと締め付けられた。


この玉を投げたら玉を追って走り出してくれないだろうか。


其の上、玉を咥えて手元まで戻ってきてくれたなら堪らず抱きついて撫で回してしまうだろう。


しかし何度か説明を試みるがあまり理解していないのか首を傾げたまま呆然と立ち尽くしている。


どうやら言葉は通じている様だが全ての言葉を理解しているわけではないようだ。


「少し此処で待っていてくれ。」


移動した先に見える森に入り所々に実った玉を幾つか摘み、集めた玉を上着を脱いで風呂敷の様にして包んで少女が待つ場所まで戻り前に広げた。


「此れだけあれば何度も実演できるな。えっと、ウルだったか?今から俺がこの玉を食べるから良く見ておくんだぞ。」


それからは何度も実演やジェスチャーを行なってウルに食べ方を教え込んでいっだ。


小さな口を思い切り開けて玉を頬張った時はハムスターの頬袋の様に頬を膨らませていたので思わず笑いが込み上げてしまった。


美少女が不細工な表情を作る様が此れ程可笑しく可愛らしいとは思いもしなかった。


元の世界に居た頃にもそういう女は多く見てきたが小聡明さや態とらしさが垣間見えて正直薄ら笑いしかできなかった記憶しかない。


ようやく玉を呑み込んだウルの表情は目に涙を浮かべながらも歯に噛む様な笑顔を覗かせ笑っていた。


子供が苦手なものを頑張って食べた後みたいな感じだな。


大人びた子供か子供っぽい大人のような見た目ではあるが、其の仕草は見た目からくる可愛さだけでなく、母性ならぬ父性を擽られる可愛らしさを感じる。


其の様子を見て無意識にウルの頭を撫でていた。


掌に触れる髪がサラサラとしていて気持ち良い。


「良く頑張ったな。まだ幾つか残っているがもう一つ食べるか? 」


コクコクと頭を振るウルに再び玉を渡すと再び口に頬張り、頬を膨らませて勢いよく呑み込んでいた。


満足したのか顔を緩ませていた。頭を此方に突き出して上目遣いで何かを訴えかけるような素振りを見せているな。


まるで飼い犬が構って欲しいと尻尾を振っているようだ。


其の様子を見て再度ウルの頭を撫でた。


「まだ食べるか?何ならまた探して集めてもいいが…」


ウルは首を左右に振った。どうやら空腹は満たされた様だ。


そんなウルの姿を改めて真正面から眺めてみた。


足先まで覆い被さる濃藍の衣を羽織り、ブロンドとプラチナが折り重なる様に煌く髪から大きな二本の角が生え伸びている長髪の美少女。


遠目で見れば仮装したコスプレ少女と言ってもおかしくは無い。


頭には白く輝く白銀の髪から伸びた歪に尖る刃にも似た二本の角が後頭部から背中へと流れるように伸びている。


其の形状は前から見るとティアラや冠を頭に乗せているように見えるが、背中から見ると濃藍に紫が混ざった紺桔梗色の角と光に煌く白金の角が不規則に絡まり合っている。


角と同じく紺桔梗に染まる大きな二つの瞳の奥には複雑な幾何学模様が様々な形を織り成しながら微かな光を発して渦巻いていた。


生え伸びる角を見ても同じ人間とは思えないが、其の瞳が自身とは更に掛け離れた存在である事を強く物語っている。


肘から指先、膝から足先にかけては青黒い深海の最奥を思わせる濃藍の肌だが、顔や胸元は透き通った白い色をしている。


軽く頬と手に触れてみたがどちらもきめ細やかなハリのある肌をしていて感触も全く変わらない。


初めて見た時は手足にニーハイやアームカバーのような物をつけているかと思ったがどうやら違うようだ。


しかし……衣からチラチラと裸体が見え隠れするのはどうにも目の遣り場に困ってしまう。


「ウル、此れを着てくれないか?」


徐にワイシャツを脱いでウルに手渡してみた。


「………」


再び首を傾げている。さっきと同じく意図を理解していないのか?


「此れをこう…腕を通して、こうだ。……わかるか?」


しかし身振り手振りで着てくれと伝えるのはかなり難しいぞ。


何度か俺が着たり脱いだりした後に手渡してみたが先程以上に無反応だ。


首すら傾げる事なく只々其の様子を眺めているだけだ。


「此れは…どうしたものか…」


諦めるか?いや、しかし…


「仕方ない。ウル、両手を横に広げてくれ。」


両手を広げてみたがやはり反応は無い。


其の様子を見て溜息を吐きながらウルの後ろに回り、両腕を掴んで横に広げるように持ち上げた。


其のまま目を閉じて肩に掛かる衣を脱がせて床に落とし、手に掛けていたワイシャツをウルの手に通していく。


「んっ……」


艶かしい声を上げないで欲しい。


手に触れる感覚だけで腕をなぞり指先を探り当てていたのだからこそばゆいのは仕方ない。


「手を上げ下げしない。真直ぐ。ジッとしていてくれ。」


子供のように何度も手を挙げたり下げたりしてバタつかせていたので、其の度に腕を掴んで上げた。


両腕を通した所で目を開けて床に落ちた衣を拾い肩に羽織らせる。シャツのボタンは裸体が見えない様に衣で隠しながら一つ一つ止めていく。


「よしっ、出来たっ! 」


やってる事は小さな子供を着替えさせているのと全く変わらないが、身長150cmにも満たない位の中高生程の見た目の少女に対して今出来る最大限の敬意を払った対応だったかと思う。


まぁウルがそういった事を気にしている様子は…全くない様だ。


ボタンを留めている時も恥ずかしがる様子は見せていなかったしな。


「それでは再び探索を再開しようじゃないか。歩けるか? 」


コクリと頷き左手を伸ばしてきた。


手を繋ぎたいという意思表示なのだろうか?


差し出された手を掴み空いた手で上着で包んだ残りの玉を肩に掛けウルの手を引いて再び歩き出した。


いい加減本格的に探索を進めなければならない。

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