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どうやら僕は凡人ではなかったらしい件  作者: sunadori
赤点少年の不思議な力
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9.死の洞窟

 翌朝、宿の食堂で朝食を食べながら話す3人。


「それじゃ、食べたらいよいよ死の洞窟(デスケイブ)へ行くわよ。ダンジョンまではここから歩いて2時間くらいね」


「アンナさんが行かなきゃならない祭壇って、ダンジョンに入ってどれくらい先にあるんですか?」


「そうね、順調にいけば片道2時間くらいかしら。暦では今夜が満月だから、アンデッドは今日と明日が一番力が落ちているはず。上手くいけば今日で終わらせられるけど、最悪トラブったら今日は様子見にして、明日またチャレンジすることも出来るわ」


 アンナは、万が一うまく行かなくても、明日また行くことが出来ると言う。万が一にもテオバルド達を危険に曝したくないのだから、余裕のある日程を組んである。


「という事は、順調にいけば8時間で帰って来れるわね。また夕食であのシチューが食べられるかしら」


 ナタリアは初めてのダンジョンということもあるが、ちょっと楽観している節がある。


「ナタリア、油断は禁物だよ。でもダンジョン内で片道2時間ってことは、往復で最低4時間は掛かるってことか…」


 ちょっと考え事をするようにテオバルドが言う。


「そうよ。テオバルドさんが心配するのも無理はないわ。祝福が効いているのは大体2時間くらい。しかも去年のテオバルドは祝福が効いているときに無理をしたせいか、効果が切れた時に動けなくなってしまったわね」


「あ…」


 ナタリアもようやく簡単ではないと気が付いたようだ。


「だから、今回は最初から祝福は使わない。危なくなった時に掛けることにするわ。もし、行きの早いうちに祝福を使う事になったら、祭壇まで行くのは諦めて帰ることにする。逆に、祭壇まで祝福を使わずに済んだら、今日中に終わらせちゃうわよ」


「「はい!」」


「2階までなら、ゾンビやスケルトンくらいしか出てこないはずよ。どちらも見た目はアレだけど、そんなに動きは早くないから落ち着いて戦えば大丈夫。ナタリアさんは まともにやると力負けしちゃうだろうから、正面から戦わないで(かわ)すことに集中してね。ゾンビに引っ掻かれると麻痺することもあるから気を付けるのよ。昨日渡した護符(アミュレット)は身に付けた?」


「ええ、ちゃんと持ってる。なんだか今から緊張してきたわ」


「アンナさん、僕たちの事はもう呼び捨てで良いですよ。いえ、呼び捨てにしてください」


「そうよね。『テオバルドさん』なんて呼びにくいわよ。私はナタリア、テオはテオって呼んでよ」


「ふふふっ、ありがとう。なんだか親しい友達として認められたみたいで嬉しいわ。今日は二人とも宜しくね。よし!食べたら出かけるわよ」


 ナタリアが付いて来ると聞いた時はどうしようかと思ったが、意外と落ち着いているし大丈夫だろう。アンナは二人の様子を見ながら、初日で片付く確率は高いと予想していた。


 そんな3人を、ちょっと離れた席からチラチラ見ている2人組の男がいた事には気付いていなかったが。


 ---


「本当にこれがダンジョンの入り口ですか?」


 死の洞窟(デスケイブ)の入り口に着いたナタリアが思わず声を漏らした。

 目の前には、ただの洞窟の裂け目のような感じで幅60cmくらいの穴が開いている。高さは160cmくらいあるが、背の高い人は屈まないと頭がぶつかりそうだ。


「ええ、ここが出入り口。ちょっと狭いけど、中は広いのよ。じゃ、ナタリアはこのランタンを持ってね。入って50mほど先に行くと、広い空間に出るわ。そこまでは敵も出ないと思うけど、テオは注意を怠らないようにね」


「分かってます」


 テオバルドはカットラスに手を掛けて応える。

 そして出てくる人が居ないことを確認して3人は洞窟に入っていく。先頭はテオバルド。ナタリアが続いて、後ろからアンナが続く。

 確かに入り口は狭かったが中は意外と広く、5mほど進むと、幅5m・高さ3mくらいの通路になっていた。天然の洞窟のようで、壁面も天井もごつごつとした岩。足元も踏み固められているが平らではない。日が差し込むこともない奥の方は明かりが無いと真っ暗だ。


 ナタリアの持つランタンが暗いダンジョンを照らし、前を行くテオバルドの影が前方に長く伸びていた。

 若干下りながら50mほど進むと、アンナの言うように広い部屋のような場所に出た。形は歪だが、大体直径80m位の広さがありそうだ。


「だいぶ空中のエーテルが濁ってる感じがするわね。これがダンジョン内の空気なのね」


 ナタリアは空気の(よど)みが気になるようだ。普段は空気のきれいなソラン村にいるから、余計に感じるのかもしれない。


「そうだね。これなら魔物が湧いても仕方ないか」


「これでも満月が近いからマシな方なのよ。どうやら敵は居ないみたいね」


 暗くてよく判らないが、この場所から延びている通路は3カ所あるようだ。一つは今、入り口から入ってきた通路。右奥と左奥にそれぞれ通路がある。


「右奥の通路へ」


 地図を見ているアンナが指示を出す。その通路を200mほど進むと、先ほどの部屋と同じような場所に出た。


「そこも右奥の通路へ」


 右奥の通路を80mほど進むと大きく左にカーブしていた。

 曲がった先を更に100mほど進むと、大きな部屋のような空間に出た。ナタリアの持つ明かりがゆらゆらと空間を照らす。左前方からカチャカチャと音がして何かが近付いてくる。


「スケルトンだ!」


 粗末な剣と木の盾を構えた骸骨が1体、カチャカチャと音を立てながら迫ってきた。まだ距離が20m位あるのでテオバルドは落ち着いて剣を抜いて構えた。

 敵は1体だけのようなので、テオバルドはそのまま戦う事にした。


「アンナさん、まずは僕がどれくらい戦えるか試してみる!」


「わかった。危なそうなら援護するわ!」


「テオ、頑張って!」


「うん。明かりを頼むね!」


 テオバルドはナタリア達から5mほど離れて、スケルトンと対峙する。


「セイッ!」


 テオバルドはカットラスを上段から振り下ろす。スケルトンはそれを盾で受け止めると、ショートソードを振るう。

 それを横に避けたテオバルドは、またスケルトンの方を向いてカットラスを構えた。


 今度はスケルトンが先に動くのを待つ。寄ってきたスケルトンは、斜めに斬りかかってきた。

 スケルトンは無表情なので行動を読みづらい。そのため、相手の動きを見てから素早く反応する必要がある。

 テオバルドはスケルトンの攻撃をカットラスで受け流しつつ、胴体を横なぎにした。

 スケルトンも盾で防ごうとしたが、わずかに間に合わずカットラスが肋骨にヒットする。


 スケルトンは攻撃を受けても無表情だし、痛みに声を上げることもない。しかし、テオバルドは確かな手応えを感じていた。


 その後もテオバルドは、スケルトンに攻撃をさせて、それを受けてから反撃を繰り返した。

 4度目の攻防でスケルトンの右腕にヒットし、スケルトンの持つ剣を叩き落とすとそこからは滅多打ち。

 結局、危なげなくスケルトンを倒したテオバルドだった。


「うん、相手が1体だけなら大丈夫だね」


「テオ凄い!強くなってるね」


「凄いですね!テオは1年前とは大違いです!ここまで頼りになるなんて」


「ふふん、ちゃんと修行したもんね~」


「なんでナタリアが自慢するんだよ…」


 とは言え、テオバルドも悪い気はしない。


「よし、じゃぁどんどん進もう。次は…あっちの2番目の通路ね」


 次に進んだ通路は、多少曲がっているがほぼ直線で、先が見えないくらい長く続いている。700mほど進んだところで、奥の方で何かが動いたような気配があった。


「ストップ!何かが居るね。アンデッドかなぁ」


「ハンターだったら私たちと同じで明かりをつけているはずよ」


「そうね。恐らくはアンデッドね」


 まだランタンの明かりが届かないほど先なので、敵の数や種類は判らない。明かりを持っているため、相手にこちらの事は気付かれただろうが、目的地に行くためにはどちらにしてもこの先へ進まなければならない。


「この通路で戦えば、同時に多くを相手にしなくて済むから都合が良いけど」


「そうね。各個撃破で行くしかないわね」


 3人は後ろを確認し、挟み撃ちにされないよう気を付けながら前に進む。50mほど進んだところで、こちらに向かって寄ってくるゾンビを視認した。4体もいる。


「うわ、4体もいるよ」


「順番に倒していくとしても、時間が掛かると拙いわね。後ろがいつまでも安全とは限らないし。よし、ここは一気に行くわよ。準備は良い?」


「アンナさん、いつでも行けるよ!」


「10m位まで近付いたら、ディスペルを掛けるから一気に叩いて頂戴。ナタリアは出来るだけテオに寄って、明かりをお願いね」


「「了解!」」


 3人はそれぞれ顔を見合わせて頷くと、一気にゾンビに向かって距離を詰めた。


「不浄なる者よ土に還れ…CHE・ET・LOV・SH!」


 アンナが呪文を唱えると、ゾンビ達は光に包まれ動きが鈍くなる。


「ィヤアッ!」「タァッ!」

 すかさずテオバルドが、ゾンビに次々とカットラスの一撃を与えていく。


「頭部を破壊しても、動きが止まらないこともあるから気を付けて!」


「ハイ!」


 アンナの助言を受けて、テオバルドはゾンビの肩から腕を叩き壊し、脚部にダメージを与え、確実にその動きを止めていく。


「ウェェ…ちょっと気持ち悪い」


 流石にナタリアには見た目のインパクトがキツい様だ。ランタンの明かりでぼんやりとしか見えてないのがまだ救いかもしれない。アンデッドが苦手だと言っていたアンナは、テオバルド達が前衛をしてくれているので気持ちにまだ余裕があるようだ。


「よし、じゃぁ先に行くわよ」


 ゾンビのいた通路を先に進んだ3人だったが、


「アンナさん…」


「行き止まりです…」


 通路の奥は行き止まりになっていた。隠し通路が無いか調べてみたが、何にもない。そもそも地図によれば隠し通路などにはなっていないハズだった。


「え?あれ?おかしいな。地図通りに来てるんだけど…」


「「アンナさ~ん…」」


 どうやら戻るしかないようだ。



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