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どうやら僕は凡人ではなかったらしい件  作者: sunadori
赤点少年の不思議な力
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3.アリリオの抱く疑問

「遅かったじゃないの!何かあったの?!」

「ただいま……」

 予定から一日遅れの帰宅。馬車の到着を今か今かと待っていたテオバルドの母バネッサが心配するのも無理はない。


「うわぁぁぁん!ママ!ママー!!」

「あらあら、ナタリアどうしたの?」


 ナタリアは母ミランダの顔を見た途端、感極まって泣き出していた。


「わたし!わたし……もう死んじゃうかと……ママにもパパにも会えなくなるかと……うわぁぁぁん!」


「ちょっと、ナタリア、落ち着いて!ほら、ちゃんと帰ってこれたじゃない。昨日からシチューを作ってあなたを待ってたんだから。おかえり、ナタリア」


「だって……だって………うわぁぁぁぁん!」


「おいテオバルド、お前、うちのナタリアに何かしちゃいないだろうな?」

 ナタリアの父アリリオから怪訝そうに声を掛けられたテオバルドは慌てて答えた。


「アリリオおじさん、僕はそんな事してないよ。ただ、昨日はショックな事があって……(うち)で話すよ。おじさん、あと母さんも来て」


 泣きじゃくるナタリアとミランダをその場に残したまま、テオバルドはアリリオとバネッサを連れて自宅へ向かった。


 ---


「なんだって?!馬車がオオカミに襲われた?」


「うん、ダイアウルフっていうオオカミらしい。すごく大きくて、それが4頭も出たんだ…」


「ダイアウルフ……」


「逃げた御者と馬は殺されて……僕たちは馬車から降りて、走って逃げたんだけど……」


「え?お前たち馬車の中で隠れてたんじゃないのか?」


「中にいた乗客の男の人に脅されたんだ。外に出てオオカミを引き付けろって。そいつナイフ持ってて……」


「……なんて事だ」


「でも、結果的には外に逃げて正解だったんだ。今日現場を確認した人が言うには、馬車は壊されてボロボロだったって」


「ひっ…!」


「そっか…お前たち、よく無事に帰ってこれたな。そして、よくウチのナタリアを無事に連れてきてくれた!すまん!恩に着る!」


「うわぁぁ!テオ!テオ!あなた無事で……無事でよかった。うぅぅ……」

 話を聞いていたバネッサは、テオバルドを抱きしめながら泣き出した。


「ちょっと痛いよ、母さん。昨日は限界まで走ったからかな、全身が筋肉痛で痛いんだ。ナタリアもきっと疲れてる。おじさん、ナタリアにゆっくり休むよう言ってくれないかな」


「お、おう。そうだな。こうしちゃ居られねぇ、ナタリアのとこに戻らなきゃ。じゃあな、ありがとうよ。これからも仲良くしてやってくれよな!」


「うん、おじさん。ありがとう。僕も今日は一人で馬車に乗るのは怖かったんだ。ナタリアが一緒で良かったよ。じゃぁ、さようなら」



 能力試験の結果については、しばらく有耶無耶(うやむや)になるんじゃないかな・・・などと考えながらテオバルドは眠りに就いた。


 テオバルドの(ひど)い筋肉痛は、その後4日間も続いた。


 ---


「パパ!本当なのよ!3人で、アンナお姉さんと3人で走って逃げたんだけど、おっきなオオカミが2匹も追っかけてきて、それで、それで!」


「ナタリア、落ち着いて!」


 昨日ブリタックから帰ってきたナタリアは、大好物のシチューも食べずに泣き疲れてそのまま眠ってしまっていた。


 そして、朝からこのテンションなのだが、まぁ元気な様子でホッとしたのが本音だ。


 昨日テオバルドから聞いた話は衝撃的だった。ダイアウルフだと?あれは武芸に優れた兵士やハンターが数人がかりでやっと相手をするような魔物だったはず。


 それが一度に4頭も襲ってくるとか、考えただけでも恐ろしい。


 ナタリアは本当に、九死に一生を得たのだろう。


「ねぇ、パパ!聞いてるの?!」


「ああ、聞いてるよ。しかし、よく助かったな。まさに奇跡だ。4頭のダイアウルフに襲われて無事に帰ってこれるなんて、神に何と感謝すればよいか」


「そうよね。ナタリア達が無事で、本当に良かったわ」


「違うわよパパ!ママも!オオカミは4匹いたけど、私たちを追っかけてきたのは2匹なの。でもそれをテオが追っ払ったの!アンナお姉さんも襲われて、でもお姉さんに飛び掛かろうとしたオオカミはテオの方に来て、それで、それで!」


「ちょっと、ナタリア!落ち着いてってば」


「テオバルドがダイアウルフを追っ払った?!」


「そうよ!テオが凄かったの!私に飛びかかったオオカミは、私が目を開けた時には遠くに投げ飛ばされていたし、お姉さんを襲おうとしたオオカミはテオに(かわ)されて殴られて、それで逃げちゃったんだから!」


「ダイアウルフを投げ飛ばした?!あれって凄くデカいんじゃなかったか?」


「そうよ!山みたいに大きなオオカミだったんだから!」


『テオバルドがダイアウルフを殴って追っ払った?テオバルドが?まぁ確かにあいつは出来た奴だけど、いくら何でもダイアウルフ…??』

 アリリオは、興奮状態で喋りまくる娘の話を聞きながら頭を抱えていた。


「で、そのアンナお姉さんって誰なの?」


 ミランダが尋ねると、ナタリアは嬉しそうに答えた。


「あのね、アンナお姉さんは帰りの馬車に一緒に乗ってたの。なんか教会にいる人みたいで、綺麗で優しくて、馬車から追い出されたときも神様を信じて逃げなさいって言ってくれて。」


「そう…。そのアンナさんも無事に逃げられたの?」


「えぇ。3人一緒に街まで戻ったの。もう走れないってところで商人さんたちの馬車に出会って。アンナお姉さんがオオカミの話をしたら街まで引き返そうってなって。それでもうクタクタだったから荷馬車に乗せてもらったの。私たちは次の日帰ってきたけど、お姉さんは街の兵隊さんにお願いされて、2~3日は街にいるって言ってた」


「そうだったの…。ちゃんとお礼は言ってきた?」


「ええ、勿論よ」


 下手をしたら、一生消えないトラウマになりかねないアクシデントだったろう。それでも元気に喋る様子をみながら『ナタリアは大丈夫そうだな』とアリリオは思った。



 騒がしい朝食を終えたナタリアは、村の学校へ行った。


 あまり裕福な国とは言えないが、子供の教育はしっかりしていると思う。


 10年位前、領主様経由で国王様からの通達がきた。

 その通達で子供たちの教育をするって話を聞いたときは、子供が働く時間を取られるんじゃないかって大人たちが騒いだけど、今ではみんなが教育に賛成している。


 週に2日、午前中の2時間だけだが、字の読み書きや計算などを教えてくれる。簡単な護身術や、薬草の見分け方なども。このちょっとした基礎があるだけで、家の仕事の手伝いをしてもらうのもずっと効率が良いのだ。


 10歳になると、能力試験を受ける。

 魔道具を使って子供たちの成長や頑張り具合を測るのだそうだ。


 ナタリアに能力試験の結果を聞いたら、


「えへへ、私は総合で3.8点だったよ」


 と言っていた。3.8点だったら悪くない。

 聞いたところでは、早熟な子で最高5点くらいまで出ることがあるらしいが、普通は2.5点とか3点位が平均らしい。


 王都の近衛兵や宮廷魔術師などになると30点を超える者もいると噂には聞くが、それは何年も鍛錬をして成長したからだろう。


「ほぉ~、中々優秀だったじゃないか。ナタリアは頑張ってるからな」


「でしょ?でもまさか帰りに死ぬ思いをするなんて思わなかったわ。じゃぁ学校行ってくるね!」



 ナタリアが出かけた後、アリリオはテオバルドの事を考えていた。

 考えていたが、どうにも信じられない。信じられないが、ナタリアが助かった事だけは事実のようだ。


「まぁ、いいか。じゃ、俺も仕事に行くよ」

「いってらっしゃい」



 ---


 お昼前に帰ってきたナタリアは、ちょっと不機嫌だった。


「テオがお休みだったの。私もお休みすればよかったわ」


「あらあら。テオバルドが休みだなんて珍しいわね」


「おまけに、みんな私の言う事を信じてないのよ!嘘つくなって揶揄(からか)われたわ」


「まぁダイアウルフに襲われて助かった、って言っても中々信じられないわよね。だって奇跡みたいな事でしょ?ママだってナタリアがこうして無事でいてくれるから信じてるけど、でもできれば、そんな事は無かったって思いたいのよ」


「え~、だって…」


「だって、ナタリアがオオカミに襲われて死んでたかもしれないなんて・・・そんな事は考えたくないのよ。もしそんな事になってたら、パパなんてきっと発狂しちゃうわ」


「うふふ、そうかもね」


 ---


「…考えててもしょうがねぇか」


 朝にナタリアが言ってたことを、畑仕事をしながら頭の中で整理しようとしていたアリリオだが、どうにもまとまらない。


 ナタリアが無事に帰ってきたのは事実。

 昨日の馬車に護衛が付いていたのもこの目で見た。

 だとしたら一昨日の馬車がオオカミに襲われたってのも事実だろうし、それがダイアウルフという事も恐らく本当なのだろう。


 なにしろ、ナタリアは「ダイアウルフ」を見たことは無いし、名前も知らないはずだ。

 二人して嘘をつくのなら、もっとまともな嘘をつくだろう。


「じゃぁ、本当にテオバルドが追っ払ったのか…ああ、なんかモヤモヤするなぁ」


 ブツブツ言いながら畑仕事をしていても、ちっとも身が入らない。普段の手際の良さがまったく感じられない仕事ぶりのアリリオだったが、

「よし!止めだ止めだ」

 ついに仕事を中断することにした。


「そうだ丁度いい。最近村の家畜を襲っているコボルド退治でもしてしまおうか…」


 コボルド退治。村に近い森では時々コボルドが集団を作ることが有り、それが村の家畜を襲うので村人が集まって退治するのだ。


 あまり大きな集団になってしまう前に退治してしまえば、ハンターなどを雇わなくても何とかなるのだ。


 10歳になったテオバルドも参加できるように、村長に話をしておかなくてちゃならないな、と、畑仕事を切り上げたアリリオは家に戻った。


 お昼ご飯を食べてから村長の家に行こうと思っていたアリリオだったが、ナタリアからテオバルドが学校を休んだことを聞いてガッカリするのだった。


 ナタリアには、テオバルドが学校に来るようになったら教えてくれるように頼んでおいた。


「今度、テオバルドにもコボルド退治を手伝って欲しいと思ってるんだよ」


「へぇ~テオも大人の仲間入りだね。わたしも行きたいな~」


「危ないからお前は家の手伝いだ」


「分かってますよ~だ」


 ---


 結局、テオバルドはその2日後の学校も休んだらしい。


 ブリタックから帰ってきて1週間。ようやく学校に顔を出したテオバルドだったが、先生に能力試験についてコッテリと絞られたらしい。


 コボルド退治はその翌日だった。村長にも許可をもらい、テオバルドを入れて5人で行くことになった。



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