召喚の儀式【6】再会と別れ
異世界召喚の儀式の最中、不測の事態により自我を崩壊させ暴走してしまった姫城ゆかり。彼女は20年前、魔族側に『暗黒のイヴ』として召喚された16歳の日本人だ。
魔族側の異世界召喚には生贄が必要だった。
人類と魔族、それぞれが戦力的な切り札として高次元世界から異界人を召喚する。その優劣が大きく戦局を左右する為、召喚は双方にとって最も重要な儀式だった。そして、今回は彼女が贄として使われる事になっている。
暴走状態のままでは儀式を中断せざるを得ず、魔族側の支配者である大魔王ゾーダは、配下の夢魔王メリーサとそのサポート役として蛇王ヨムルにイヴの正気を取り戻す為の精神ダイブを命じた。召喚者は例外なく強い魔法耐性を持っているため、内側からアプローチする他に手立てがなかったからだ。
ヨムルの固有能力により力を何倍にも高めた夢魔王メリーサは、召喚儀式の最中という特殊な環境下で精神世界に潜り込んだ。
だが、潜った先に見たモノは人の精神世界では絶対に有り得ない異様な光景だった。夢の世界では無敵を誇る夢魔王メリーサを圧倒する障壁の数々。ついには門番なるものまでが現れ、ふたりの前に立ち塞がった。
限界を超えて闘うふたりの魔王。
決して仲良しといえぬ二人の間にはいつしか友情が芽生え、究極のユニゾンスキルで絶対防壁が生み出した巨大な敵を討ち倒す。そして心の在りかをつき止めたふたりは姫城ゆかりと再会し、彼女から意外な事実を知らされる事となる。今まで最大の禁忌とされ、調べることすら許されなかった召喚システムの闇に触れる事となったのだ。
10年に一度、決まった周期で必ずおとずれる『赤合』は自然現象ではなかった。生贄が必要である理由や、成長せず死にもしない召喚者の肉体の秘密など、どのようにして知り得た情報なのかまでは説明されなかったけれど、話にあった協力者なる者がとてつもない実力者である事は間違いなかった。
姫城ゆかりは、この世界で最も侵入が難しいと云われる古代亜神族が支配する領界にまで手を伸ばし、行けるはずのない聖域にまで侵入していた。行方不明となった大賢者オーリーンの軌跡をたどり、世界の秘密を解き明かしつつあったのだ。
この重大な秘密を知ってしまえば、今までのような生活には戻れまい。どうするヨムル。どうするメリーサ。この先ふたりに待ちうけるのは天国か、はたまた地獄か!
尚、この物語は主人公メリーサがその波乱なる運命に勇敢に立ち向かい、全世界を統べる覇王となるまでを綴る壮大なサーガとして後世に・・・ポカリ!!
「ア、イテっ!なにするのよヨムルちゃん!いきなり殴るとか信じられない!」
「信じられないのはコッチよ。誰に向かって喋ってるの?」
「いやさ、この辺りで、ここまでのまとめをしておこうかと思ってさ」
はっはっは~と笑うメリーサ。
それを冷やかな眼差しで見るヨムル。
どうしたものかと困惑気味のゆかり。
「それに、あなたの覇王伝説なんてあるわけないんだから、きちん話を聞きなさい。大切な話をしてるんだから」
ヨムルに嗜めらてハーイと返事をするメリーサを、仕方がない子だなぁという目で見ながらゆかりは話を再開した。こんな馬鹿らしいやり取りもこれが最後になる。
召喚されてはや20年。
もっと早くに二人と懇意にしていたら、もっと楽しく過ごせたのではないだろうか?決められた運命。決められた寿命。限られた時間の中で自分が出来る最大限の努力をして来たつもりだったけど、ここに来てもっと色々出来たのではないかと後悔の念が湧いてしまう。
――――私はまだ迷っているの?
自分と入れ替わる形でこの世界に来る愛する人に全てを託し、何も知らないお兄ちゃんに責任と使命を課せてしまう自分の罪深さと業の深さに我ながらあきれてため息が出た。
―――しっかりしなさい私。お兄ちゃんを信じないでどうするの?大丈夫。きっとお兄ちゃんは分かってくれるわ。
自分の為に右の視力を無くし、野球選手の夢を奪われてしまったお兄ちゃん。あのはにかむような優しい笑顔を再び見せてもらう事なく召喚され、償いの機会さえ奪われてしまった自分の運命を呪った日々。
自分は何のために生まれ、なぜこのような異世界で死んで行かねばならないのか?自分の命が20年後に誰ともわからぬ召喚者のために使われる。それを知った時は本当に気が狂いそうだった。
なぜ?
なぜ?
なぜ?
自分は呪われていると思った。
大切な人の人生を狂わせ、夢を奪い、笑顔を奪った。この世界に来て、毎日が地獄のように感じられた。そんな自分を救ってくれたのは世話係につけられたワンダ族の女性ミーチャだった。ミーチャとの出会いが無かったら、自分は本当に正気を無くし破壊の権化となっていたかも知れない。
二度目の赤い月を見た時、ビジョンを見た。
お兄ちゃんが召喚される不吉な予知夢を見た。
お兄ちゃんまでもがこの呪われた連鎖に巻き込まれる。それを知ってから召喚の阻止を考え、阻止出来ずとも対象者を変える方法を探ろうと異世界召喚の歴史を調べに調べた。
それで分かった事は、お兄ちゃんが召喚されるのを防ぐ手段はない事と、異世界召喚がはじまった当時の成り立ちや術式の仕組みなどが、何者かによって隠ぺいされ明らかに情報操作されているという事だった。
真実を知るためには『賢者の心臓』が必要だという古い碑文が見つかったのみで、それら古代の碑文を発掘し研究していたとされる大賢者オーリーンは何百年も前に姿を消していた。
姫城ゆかりは『賢者の心臓』の情報を求め、魔王達の目を盗んでは各地に点在する古代遺跡へと出掛けて行った。特に大魔王ゾーダと腹心のチョロス、翼王ギャオム、それに竜王バハムルトには気付かれないよう注意して行動したが、結局大魔王ゾーダには気づかれてしまった。
しかし、ゾーダは意外な事に『賢者の心臓』を探す事には反対せず、しかし肯定もしなかった。この事については中立である事を約束してくれ、軍の規律を乱さぬ限りにおいては条件付きではあったが行動の自由も与えてくれた。
その後、とあることから心強い協力者を得て『賢者の心臓』の探索は急速に進むことになる。その時の冒険潭は後日語られる事になろうが、その日々が姫城ゆかりを急成長させた事も事実だった。協力者となってくれた魔王がとてつもない存在だったからだ。
「私がこの3年間何をしていたのか教えてあげる」
ふたりの顔を交互に見てから、今まで伏せていた計画の全貌を語りはじめた。その驚愕の内容に体の震えを隠せない二人。ごくりと喉が鳴り、話しが進むにつれその顔は高揚し赤みを帯びる。驚きと興奮が入り交じったその表情に手応えを感じ、話しを締め括ると自らの心臓に手刀を突き立てた。
「な、何をしてるの!ゆかり!?」
「わわわ!!姫ちゃん何を!?」
驚くふたりを尻目に、ぶちぶちっと嫌な音をたてながら胸の中から光る石を取り出して見せた。
「ふたりとも何をそんなにビックリしてるの?ここは精神世界なんだからそれほど驚く事もないでしょう?」
「あ、そうだよね。あまりにも意外な行動だったから一瞬現実とごっちゃになっちゃったよ」メリーサが頭をかきながらそう言うと、ヨムルは驚いた事をごまかすかのように言葉を繋いだ。
「それが先程言っていたモノなの?」
「そう、これが『賢者の心臓』よ」
「まさか本当に実在していたとは・・・ゆかり、あなたどうやってそれを手に入れたの?」
「もう隠す必要もないから言うと、孫くんに手伝ってもらったんだよ」
「え!?」
「猿王に?」
「そう。彼の協力がなければ、今日という日には到底間に合わなかったと思う」
「ゆかりの話に出てきた協力者が猿王とはね。すごく意外だったわ」
「そう、そう、意外だョ。あの変わり者の戦闘マニアがよく手伝ってくれたもんだね。いったいどんな条件を猿王と交わしたのさ?まさか無条件って事はないだろうし、金銭も女も地位や名声も全く興味ない闘うだけの戦闘バカだよ?」
「孫くんは馬鹿じゃないわよ。彼に失礼だわ」と言いながら、彼とのやり取りを思い出してクスクス笑う。
「何がそんなにおかしいの?」
楽しそうに思い出し笑いをするのを不思議そうに見るふたり。
「だって孫くんってば、私のいた世界で有名なバトル漫画の主人公そっくりなんだもん。名前もだけど、しゃべり方から性格まで本当にそっくりで、これじゃあ著作権侵害だよ~って呆れちゃうくらい。もっとも容姿とかは西遊記の方なんだけどね。だから彼と一緒にいると安心しちゃうんだ。自分がまるで見知った漫画の中に飛び込んだみたいな感覚になるの」
ふぅん、よく分からないけど、そうなのね。とハテナマークを浮かべるふたりだが、もう表層領域に入り出口までの時間も残り少なくなってきた。賢者の心臓を体に戻すと最後の打合せと確認を行い、召喚終了後の彼の扱いについて再度約束させると別れの言葉を交わした。
「こうして最後にあなた達と女子談話が出来てよかったよ。ありがとう」
「うん、今更だけど魔族のために闘ってくれてありがとねん。姫ちゃんじゃなかったら、あの勇者にボコボコにやられてたよ」
「そうね。あのイカれた勇者に対抗できたのは唯一ゆかりだけ。感謝するわ」
姫城ゆかりは目に涙を浮かべ、ふたりの女魔王と最後の抱擁を交わした。お兄ちゃんを任せるのは少し心配もあるけど、彼が能力を充分に覚醒させるまでの間は守ってくれるだろう。
3年間いろいろな準備もしておいたし、ミーチャにも彼の世話を頼んである。後は忘れていることは無かったかなぁと考えていた時、突然思い出した事に青ざめ急ブレーキをかけた。
三人の真ん中にいた彼女がいきなり止まったものだから、手を繋いで飛んでいたヨムルとメリーサはゆかりを起点に見事に顔面同士が激突し、漫画のように目から火花を散らした。
「なっ!?」
「うぎゃ!!」
涙をチョチョ切らせ文句を言おうと振り返ると、顔面を蒼白にしたゆかりが震えていた。
「ど、どうしたの姫ちゃん!?」
「ゆかり!?何があったの!?」
「ど、どうしよう、ヨムル、メリーサ!?
私、凄く重要な事を忘れていたの!このままじゃあ戻れないよぉ〜」
「え!?ナニ、ナニ、ナニ!?いったい何があったのさ!」
「なんなの?重要な事って!?」
只ごとならぬ雰囲気に慌てるふたりであったが、彼女の口から出た言葉に絶句した。
「私、お漏らししちゃたよ!服もベタベタだよ!
どうしよう?こんなじゃお兄ちゃんに会えないよォ〜」
うえええん!といきなり泣き出す。
嫌われちゃうとか、お嫁に行けないとか、それこそ子供のようにワンワン声をあげて大泣きし出した姿に唖然とするふたり。
「ゆ、ゆかり。何言ってるの?わかっててやったんじゃないの?精神世界でやらなきゃいけない事があるって前日に言ってたじゃない」
「そ、そうだよ。アタシも話を聞いて、なんだ分かっててやったのかぁって思ったよ。自分を極限状態に追い込むためにさぁ」
「そんな訳ないじゃん!
知ってたら自我崩壊して深層領域まで落ち込むわけないでしょう!事故だよ、事故!」
うわああん!再会がお漏らし女だなんて最悪だぁぁ!と言って泣きじゃくるゆかりに、二人はまた彼女が深層領域に潜ってしまうのではないかと気が気ではない。今度潜られたらもうおしまいだ。渡されてる神珠のエネルギーも空っぽなのだから。
「安心してゆかり!お漏らしの跡は無いわ!あなたが雷撃で結界を破壊してしまった時に吹き込んだ暴風がすべてを吹き飛ばしてしまったから!」
「でも、臭いが残ってるんじゃぁ?」
「それも大丈夫だよぉ。至近距離で雷が落ちたから電解して臭いも残ってないはずだよ!」
「ホンとに?」
「ホント、ホント!」
「絶対?」
「保証するわ!」
交互にヨムルとメリーサの目を見つめるゆかりに必死に大丈夫よと言い聞かせ、泣き崩れてしゃがみ込んだ手を引いて起き上がらせる。ヨムルに抱擁され、肩をポンポンと叩かれると少し安心した様子で涙をぬぐいはじめた。そんな姿を見てメリーサは「めんどくさ~」と心の中で呟くと何かを言おうとしたが、ヨムルに背中越しに視線で釘を刺されたので押し黙った。
その後3人はメリーサが仕掛けておいた術式の結界に入り、精神世界に突入してからきっちり10分後の時間軸に帰還を果たした。
「ホントにこれでお別れね。戻ればもう個人的に言葉を交わす時間はないでしょう」
「姫ちゃん、さようなら。お兄さんの事はふたりでしっかり守るから安心してね」
「うん、お願い。じゃあふたりともお達者で」
そうしてゆかりの精神は地上へと帰還を果たし、間もなくして召喚の儀式は再開された。と、その前に一悶着あったのを付け加えておく。
ゆかりが帰還を果たし戻ったのを魔王達は心底喜んだ。そして口々にお漏らしをした事は気にするなと慰めるのであったが、気遣いなどというものを知らぬ無骨な集団は、あまりにもストレートに、というかストレート過ぎて馬鹿にしているとしか取れない物言いを繰り返し繰り返しするモノだから、ついには逆鱗に触れる事になった。
「お漏らしなんて気にする事はない。乾いちまえば分かんないんだしよぉ」
「なんか臭かったけど、もう平気だ」
「確かに臭かったな。なまじ嗅覚が鋭いもんだから鼻が曲がった。しかしそれも一興なり」
「わいもオシッコくらいするでぇ。気にすなや!カッカッカ!」
「立派なオション属性おめでとうごさいます!」
「ボキにオシッコかけてほしいんだなぁ、グヒグヒグヒ」
「オションLOVE♪」
「ええっと、尿の成分はですな、決して不潔な物ではなく、出したばかりであれば飲料とする事も可能だからして・・・」
「そんな事より早く儀式を再開せぬと間に合わんぞ。お漏らしなどとるに足りん些細なトラブルだ。気にする方がおかしい」
「あわわわわ、みんなやめてよ!これ以上姫ちゃんを刺激したらタイヘンな事に・・・」
「黙って聞いてればあんた達・・・」
ワナワナワナと拳を握りしめたその目には、怒りの炎が燃え上がっていた。
「やっぱり、オシオキが必要ね!!」
シャキ〜ン!と音がしそうな勢いで右手を天に翳すと、間もなく天空から大気を揺らしながら独特な足音が響いてきた。
ズシン!
ズシン!
ズシン!
赤い月にかかる雲の向こう側から響く恐怖の足音・・・そしてソレは頭を雲の上に出しながら、ゆっくりと進んで来た。
「ひ、ひぇぇぇ!!」
「ま、まさか!!」
それは来た!
鋼色に輝く鋼鉄のカラダ。
雲を突き抜けるほどのあり得ないスケール!
山よりも遥かに巨大な圧倒的存在感を持つソレは、魔王達をして恐怖の大王とまで言わしめた破壊と不条理の象徴であった。勇者と互角に渡り合った魔王軍唯一の超大型人型決戦兵器!少女の姿はいつの間にかその巨体の肩にあった!
「行け!ジャ〇ア〇トロボ!!」
「 ま" !」
ゴゴゴゴゴォォォ〜!!
唸る豪腕が魔王達の頭上に迫る!!
「結局こうなるのか・・・」チョロスの呟きは、穿つ爆音に虚しく掻き消されたのだった。
イラスト:ガーディアンはジャイアント○○!?
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北の辺境、禁忌の森に聳える聖魔石で創られた巨大なピラミッド。その最上部、アマノイワトと呼ばれる場所では魔族を統べる頂上の存在である魔王12柱と、彼らを束ねる大王による異世界召喚の儀式が行われていた。
天空に浮かぶ巨大な2つの赤い月が完全にひとつに重なり、異様なまでに鋭い光を放っている。それはまるで昼間のような明るさだった。先程まで黒く厚い雲に覆われ姿を消していた月はその全貌を現し、満天の星空に明々と光り輝いていた。
「ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!」
「ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!」
召喚陣の外側に位置する24の円形魔方陣から光の柱が立ち上がり、続いてその内側の術式が始動する。続いてその内側の術式がと次々に等間隔で起動し、合計九つの術式全てが始動するのを確認するとチョロスが口を開いた。
「235027、現時刻をもって異世界召喚陣の完全起動を確認。臨界術式パーフェクトリング全属性の追加起動オールグリーン、全ての術式に異常は認められません」
「ウム」
満足げに頷く大魔王ゾーダは陣の中心を見た。
召喚魔方陣の中心に位置する石の台座には少女が立ち、彼女の内側から光のリングが次々と出現して行く。そしてそれらは4㍍程上空で重なりながら回転をはじめ、その輪はやがて完全な球体を作り出しながら膨らんで行く。遂には直径20㍍を超え、更に大きく膨張を続けた。
「で、でかい!」
「まだ大きくなるぞ!」
「これが超臨界完全召喚!?」
魔王達から口々に驚嘆の声が漏れ出した。
今まで何度となく異世界召喚に立ち会った魔王達ですら初めて目にする規模の光る球体は、凄い速度で上空へと飛び上がると、赤い月と重なるように見えた瞬間パーンと弾けて雪のように降り注ぐ光の粒子となった。
あっという間に天を覆いつくした光の粒子はゆっくりと降りて来て、やがて少女の前に人の姿を作りだして行く。
「ようこそ異世界へ・・・」
輝きがおさまると少女の前にはひとりの男性が立っていた。男性は周りを見渡し、困惑した表情で声の主に視線を向ける。
「ようこそ、タクヤさん」
少女の震える指先が、静かに男の頬に触れた。
「・・・!?」
「やっと、やっと逢えたよ・・・お兄ちゃん」
男は、自分の置かれた状況が全く掴めない様子だった。目の前に立つ少女の顔を見つめ、困惑した表情のまま何かを思いだそうとしているように見えた。
「お兄ちゃん?――――お前は・・・」
笑顔にいっぱいの涙を浮かべて頷く少女の手が頬に触れ、緩やかに少女の温もりを男へと伝えて行く。
「まさか、ゆかり・・なのか?」
だが、その質問の答えを聞くことはできなかった。唇がぱくぱくと音もなく動くのが見えたかと思うと、すうっと輪郭がぼやけて色を失い、そして・・・
ばさり・・・
塩の柱を残し、姫城ゆかりはその役目を終えた。
明々と輝く月の光の下、従妹の名を叫ぶ男の声が虚しく天に響き渡る。男は従妹であったものの残骸に膝を落とし、震える手で塩の柱に伸ばそうとした。しかし、
どさり・・・
電池の切れたおもちゃのように突然動きを止めた彼は、手を伸ばそうとした体勢のまま気を失なって倒れていた。
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人物紹介:蛇王 ヨムル
推定年齢:870歳
体長( )内は覚醒時:169㌢(約1700km)
体重( )内は覚醒時:自由自在(ゼロ〜数億㌧)
遥か太古よりこの世界に住まう最も古い魔族。
創世の超越神の末裔であり、個体数が非常に少ない。しかし個々の能力は飛び抜けて強く、ほとんど不死に近い存在。
ヨムルは呪術のスペシャリスト。
『蛇眼』と『蛇気』を操り、無限数の使い魔(蛇)を使う。あらゆる意味で絶対不可侵の最も危険な魔王のひとり。その力の上限は大魔王ゾーダでさえ分からず、事実まだ一度として本気を見せた事がない。
闇のアダムの力を使い、自分の子に先祖返りさせて神格を手に入れようとしている。